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途上国で誰もが幸せになれるビジネスモデルを再構築

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SB2019Tokyo

セッション「先進企業経営者と語る途上国でのCSVビジネス」。左からmiupの酒匂真理氏、住友化学の西本麗氏、ボーダレス・ジャパンの鈴木雅剛氏、ファシリテーターの磯貝友紀氏。

途上国でCSV(注)ビジネスの機会を企業は十分に活用できているのか。「先進企業経営者と語る途上国でのCSVビジネス」のセッションでは、リスクやマネタイジングなど既存のビジネスルールの課題が指摘された。ソーシャルビジネスを8か国10拠点で展開するボーダレス・ジャパンの鈴木雅剛代表取締役副社長は「既存のルールに合わずに取り残された人たちが社会課題となっている。ビジネス的な非効率を巻き込んで、みんなが幸せになれるビジネスモデルを再構築する」という。(辻陽一郎)

バングラデシュで生産した革製品を国内にある11店舗で販売する事業がある。700人を正社員雇用しているが、2割の人はもともと字の読み書きができず、小中学校を出ていない人が大半だった。

既存のビジネスルールに当てはめると、字が読めなければ働けないとみなされてしまう。だが、鈴木副社長は「見方を変えること。事業主体ではなくその人を中心に考える。その人が一番力を発揮できる新しいビジネスモデルを追求する」と語った。

途上国のCSVビジネスではマネタイジングも課題になる。ソーシャルビジネスの一つでは、ミャンマーの僻地で貧困農家が栽培したハーブを日本で販売している。

農家の「生産コスト」に加えて、学校に行かせることや病院に行けることなどの「生活コスト」を考慮して価格を設定している。そのため市場価格よりも高くなるという。

鈴木副社長は「誰が作ったか分からなければ値段勝負となる。課題を抱えている人とお客さんの関係を近くすること。顔がしっかり見えるスモールコミュニティを作れれば、高収益性が担保できる」と話した。

同様に既存の枠組みで考えてもだめだという。「既存のルールで取り残されている人たちを巻き込み、みんなが幸せになれるビジネスモデルを生み出すために必要なことはバリューチェーンの再構築」(鈴木副社長)

まさにサステナブルブランド、バリューをどう生み出すかの事例だ。

採算性とともに、途上国ではリスクもビジネスの課題としてあがる。バングラデシュでAIの遠隔医療に取り組むmiupの酒匂真理代表取締役は「暴動も起こる。政権が変わるとできなくなることもある。リスクはそこに存在するので、やるかやらないか。それは乗り越えるというより判断」と話した。

ボーダレス・ジャパンの鈴木副代表は「リスクはやる人にある」という。「なぜやるのか。思いが乗っていれば物事にも気を遣い、なんとか実現しようとする。うまくいかないのは、あきらめてしまうときだ」。

「途上国でビジネスを行うには、ローカルパートナーの存在も欠かせない」と指摘するのは、住友化学の西本麗代表取締役専務執行役員。同社は、タンザニアでマラリア予防用の蚊帳によるCSVビジネスを行う。

マラリアの課題がある西アフリカの地域でも展開しようとしたがパートナーがいなかった。「現地ニーズを発掘することは難しい。そのためにもローカルで信頼できるパートナーがいるかどうかはクリティカルな問題」と話した。


*注:Creating Shared Value:共有価値の創造は、社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、同時に、経済的価値が創造されるというアプローチを指す。ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授の論文で広く知られるようになった。