
「サーキュラーは可能か?真の循環する経済を目指して」と題したサステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内のセッションには、パナソニック ホールディングスの酒井壮士氏、Circloopの中村周太氏、サントリーホールディングスの平野隆之氏、ユニ・チャームの八木亮子氏が登壇。サーキュラーエコノミーが具体的な実装フェーズに入る中、知的財産の循環からリユーザブル容器、水平リサイクルまで、多様なアプローチで資源循環に挑む先駆者たちが課題と展望を語り合った。
| Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 石山アンジュ・一般社団法人シェアリングエコノミー協会 代表理事 パネリスト 酒井壮士・パナソニック ホールディングス 知的財産本部 課長 / 弁理士 中村周太・Circloop 代表取締役 平野隆之・サントリーホールディングス サステナビリティ経営推進本部 部長 八木亮子・ユニ・チャーム リサイクル事業推進室 共同CRO(Chief RefF Officer) |
ファシリテーターの石山アンジュ氏は冒頭、サーキュラーエコノミーは「取り入れるべきか」から「どうビジネスと両立させるか」の段階に移っていると問題提起。会場では約6割がすでに取り組んでいると挙手し、前年のセッション時と比較しても着実な広がりがうかがえた。

知財を「巡らす」ことで社会課題に挑む

パナソニック ホールディングスの酒井氏は、知的財産という独自の角度から資源循環を語った。同社知財部門は「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにする」をパーパスに掲げる。特許の典型的なイメージとして「独占」や訴訟があるが、同社は個社で解決できない社会課題に対し、世の中に滞留している技術などを循環させることでイノベーションを生み出す発想への転換を図っている。
具体的な取り組みとして、特許ライセンスを通じた電動車のCO2削減効果を978万トンと試算し、社会的価値として可視化した事例を紹介。技術を提供した主体の削減貢献も評価される仕組みを国や投資家、メディアに向けて発信している。さらに模倣品対策もサステナビリティ活動の一丁目一番地に位置付け、巧妙な模倣品がサーキュラーの仕組みを阻害するリスクにも目を向ける。酒井氏は「知恵を巡らせたことも、それを受け入れたことも評価される世の中になれば、社会課題の解決に一歩近づくのではないか」と語った。
行動が変われば意識も変わる

2022年創業のCircloopを率いる中村氏は、「使い捨て感覚の捨てない習慣」をキャッチコピーとして、リユーザブル容器のシェアリングサービスを展開する。オフィスやシェアオフィスで毎日大量に消費される紙コップをリユーザブルカップに置き換え、洗浄・配送・回収をフルサービスで提供。利用者は使って返すだけで良い。
導入効果として、1日200個の利用を想定した場合にGHGを71%削減でき、利用者の66%が環境意識や行動の変化を実感したという。中村氏は「意識を変えて行動を変えるのは大変。でも、使い捨て容器が置いてある場所にリユース容器を置けば自然に行動が変わり、結果として意識が追いつく。使い捨てとマイボトルの間の選択肢を作ることに意義がある」と述べた。
ボトルtoボトル、日本発の強み

サントリーホールディングスの平野氏は、独自の「2R+B」戦略(Reduce・Recycle+Bio)に基づくペットボトルのサステナブル化を紹介した。リデュースでは約25年にわたる軽量化で「サントリー天然水」550ミリリットルのボトル重量を2000年の24グラムから約半分に削減。リサイクルでは「ボトルtoボトル」水平リサイクルを推進し、2023年以降は2本に1本以上が100%リサイクルボトルとなった。バイオでは植物由来素材や使用済み食用油由来の原料活用も進め、2030年には化石由来原料の新規使用ゼロを目指している。
日本はペットボトルの回収・リサイクル率が世界トップクラスの85.1%(2024年度)だが、水平リサイクル率は約38%にとどまる。平野氏は、欧州のようなデポジット制度なしにこの高い回収率を実現している日本の強みに着目し、「国民の意識の高さとインフラ構築力、技術力を組み合わせれば、世界のベストプラクティスになれるポテンシャルがある」と力を込めた。
16年の挑戦、紙おむつの水平リサイクル

ユニ・チャームの八木氏は、「RefF(リーフ)=Recycle for the Future」の名のもと進める、紙パンツ・紙おむつの水平リサイクルを紹介した。オゾン処理技術により排せつ物で汚染されたパルプを殺菌・脱臭・漂白し、清潔な素材に再生する世界初の取り組みという。鹿児島県の志布志市と大崎町ではすでに分別・回収から商品化まで実現している。
16年ほど前、「会社人生をかけてでも取り組みたい」と問いかけた一人の社員から始まったこの挑戦は、現場の危機感と経営トップの意思が共振して続いてきた。八木氏は「使い捨てだからこその衛生性・利便性と環境配慮の両立が外せない。日用品であるからこそ、皆さんが参加しやすい形で展開していくことが大事だ」と述べた。
コストの壁と社会全体での連携
クロストークでは、各氏が実装段階の課題を率直に共有した。
酒井氏は「環境価値を算出し訴求する活動はしているが、それが企業価値や顧客価値に変換しきれていない」と吐露。中村氏はCircloopのカップが1利用当たり14円と高品質な紙コップとほぼ同等ながら、安価な紙コップとの価格比較で導入が進みにくい現実を挙げた。
平野氏もリサイクル素材の価格変動の大きさを指摘し、「頑張っているところが歯を食いしばるだけでは社会は変わらない。誰もが当たり前に使える市場にしていきたい」と訴えた。八木氏は紙おむつが複合素材で構成されており、パルプ以外の高分子吸水剤やプラスチックの水平リサイクルには技術的課題が残ると説明。分別回収の仕組みづくりと生活者への意識醸成も欠かせないと強調した。
最後に酒井氏は「サーキュラーエコノミーと聞いて、自分が何をすればいいか分かる人はまだ少ないようだ。生活の中に自然と、循環につながる行動が溶け込む仕組みを、企業と国と社会全体で作り上げることが必要」と提言。八木氏は志布志市の小学校でリサイクルパルプの紙すき体験授業を実施した事例に触れ、「自分たちの家から出た紙おむつがこんなにきれいになって帰ってくると、子どもたちが実感してくれた。こうした機会の広がりが社会全体の意識改革につながっていく」と語り、セッションを締めくくった。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。












