
4月2日は、国連が定めた「世界自閉症啓発デー」。自閉症をはじめとする発達障害への理解を深めることを目的に、世界各地のランドマークがシンボルカラーのブルーに包まれた。4月2日から8日は「発達障害啓発週間」でもあり、日本でも東京タワーや東京都庁などがライトアップされ、全国各地で啓発イベントが展開される。これに合わせ、ヘラルボニーが新たな共創プロジェクト「Beyond Blue Project」を始動した。「この青も、誰かの世界。」をメッセージに掲げ、主に自閉症のある作家が描いた「青」のアート作品を起点に「”ちがい”が社会を豊かにする」価値を発信する取り組みだ。
11人の作家が描く、11通りの「青」
同プロジェクトのメイン会場となったのが、東京都港区の麻布台ヒルズ。神谷町駅前広場に足を踏み入れると、柱や壁面などにヘラルボニー契約作家11人が描いた大型のアート作品が並び、空間全体が「青」に染め上げられていた。異彩を放つ作品群は圧巻で、通りがかりに足を止めて見入る人の姿もあった。
さらに東京メトロ各駅やLIVE BOARDが保有する都内約50カ所のデジタルOOH(屋外や公共空間に設置されたデジタルサイネージ広告)にも作品が展開され、街を歩く中でアートに出会う仕掛けが広がっている。

今回、キービジュアルに起用されたのは、岩手県のるんびにい美術館に在籍する工藤みどり氏の作品『(無題)(青)』。モチーフを持たず、内側の感情のままにペン先で点を打ち続けるという制作スタイルから生まれた、静かな没入感のある一作だ。
プロジェクトには、積水ハウス、みずほフィナンシャルグループ、住友生命保険相互会社、麻布台ヒルズ(森ビル)、東京メトロ、LIVE BOARDの6社がパートナーとして参画。各社のミッションやビジョンとヘラルボニーの理念が共鳴し、企業横断型の共創プロジェクトが実現したという。
麻布台ヒルズでアートクルーズ
4月2日午前、麻布台ヒルズ神谷町駅前広場で特別企画「アートクルーズ」が開催された。ヘラルボニーのビジネスプロデューサー・伊藤琢真氏が案内役を務め、ツアー形式で10作品が紹介された。

ツアーでは、作家一人ひとりの制作背景や障害特性、それらと表現の関わりが丁寧に語られた。例えば、青を愛する東京都の作家・伊賀敢男留(かおる)氏は、赤などで下地を塗った上に大好きな青を重ねていくスタイルだ。20年以上続けているチェロのリズムが、作品の筆致にも表れているという。福岡県のアトリエブラヴォに在籍する小林泰寛氏は、色覚障害のある作家。赤と緑が同じ色に見えるという特性が、独特のグリーンの効いた色彩世界を生み出している。
伊藤氏は最後に「一人ひとりの違った感性、世界観、こだわり、特性から生み出された作品が、この場所だけでなく東京中に広がっている」と語り、参加者にSNSでの発信を呼びかけた。
東京タワーが青く染まる
同日夕方、東京タワーの前では、厚生労働省と日本自閉症協会が主催するイベント「東京タワー・ライト・イット・アップ・ブルー」が行われ、ヘラルボニー代表取締役Co-CEOの松田崇弥氏がセサミストリートのキャラクターとともに参加した。
ステージには、セサミストリートから自閉症のあるキャラクター・ジュリアのほか、エルモ、クッキーモンスターが登場。ヘラルボニーの松田氏、契約作家の伊賀敢男留氏とその母・祥子氏が並んだ。

「世界の見え方はひとつじゃない」をテーマにしたトークショーでは、敢男留氏の作品『サイクリングロード』を前に、祥子氏が作品にまつわる思い出を語った。小学生の頃、昭和記念公園で家族を置いて一人でサイクリングコースを一周してきた息子の、自由を満喫した表情が強く記憶に残っているという。「親から離れるとこんなにいい表情をするのかと気付いた」という祥子氏の言葉に、エルモが「自転車でこぐの楽しかったんだな」と応じ、会場が温かい空気に包まれた。
松田氏は、社名の由来が自閉症のある兄が自由帳に繰り返し書いていた謎の言葉「ヘラルボニー」であることを紹介し、「同じ文様をひたすら繰り返すことなどで作品が生まれてくる。その尊敬できる部分が美しい状態で世に出るといいなと思って会社をやっている」と語った。
その後の点灯式では、今年のブルーライトアップが全国388カ所で実施されると報告があった。カウントダウンが行われると、東京タワーが青い光に包まれた。
“ちがい”を価値に変える挑戦
Beyond Blue Projectの会期は4月12日までで、デジタルOOHでの作品展開は4月15日まで予定されている。麻布台ヒルズでのアートクルーズは4月12日にも開催されるほか、同日にはアートワークショップ「あなたの青の世界」も実施。ワークショップにはスペシャルゲストとして作家の小林泰寛氏が参加予定で、同じ空間での制作を通じて、視点や感じ方の違いに触れることができる。いずれも参加無料だ。
ヘラルボニーは「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害のある作家が描く2000点以上の作品をIPライセンスとして管理し、正当なロイヤリティを支払うビジネスモデルを構築してきた。2024年にはフランス・パリに海外初の子会社を設立し、国際的な展開も加速させている。

「この青も、誰かの世界。」というメッセージには、どれ一つとして同じものがない「青」の作品のように、人それぞれの感性や世界観の違いこそが社会を豊かにするという信念が込められている。期間限定のイベントにとどまらず、企業や地域を巻き込みながら「異彩」の価値を社会に届けていく。今回のプロジェクトは、その新たな一歩となる。
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













