
サステナビリティはもはやCSRの枠を超え、企業の競争力を左右する経営の根幹となった。では、経営層(CxO)は社会性と経済性のジレンマにどう向き合い、社内をけん引しているのか。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内では、「CxO鼎談(ていだん)」と題して異業種の3社の役員らが集結。事業特性を生かしたサステナビリティ戦略と、その泥臭い実践の裏側を語り合った。同会議サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏がファシリテーターを務め、TBSホールディングスの井上波氏、東京ガスの南琢氏、スパイスファクトリーの流郷綾乃氏が登壇した。
| Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議 サステナビリティ・プロデューサー / レスポンスアビリティ 代表取締役 / サステナブル経営アドバイザー パネリスト 井上波・TBSホールディングス 執行役員(グループサステナビリティ推進統括) / TBSテレビ 取締役 南琢・東京ガス 常務執行役員 CFO・サステナビリティ担当 流郷綾乃・スパイスファクトリー 取締役CSO(Chief Sustainability Officer・最高サステナビリティ責任者) |
140年の歴史が証明する「論語と算盤」

東京ガスでCFO(最高財務責任者)を務めながら、サステナビリティの責任者としてCSuOに近い役割も担う南氏は、短期的な利益追求と長期的な社会貢献の間で「日々悩んでいる」と率直に明かす。
しかし同社の140年の歴史をひも解けば、ガス灯による街の照明化から、公害対策としての天然ガス導入、そして現在のカーボンニュートラルへの挑戦に至るまで、「社会課題の解決」こそが事業の存在意義であったという。「当社の原点は渋沢栄一の『論語と算盤(そろばん)』。社会的な価値(論語)だけでも、経済的な価値(算盤)だけでもだめ。両方を追求することが企業の活力を生む」
社内浸透に向けては、新たに7つのマテリアリティを策定。「事業計画や非財務指標を議論する際、『これはマテリアリティの何番から来たのか』と問い直せる羅針盤として機能させている」という。また社長からの継続的なメッセージ発信に加え、南氏自身が若手社員と台本無しのQ&Aセッションを行うなど、対話を重視している。
伝えるだけでなく、メディアも自ら汗をかく

報道記者として第一線で活躍してきたTBSホールディングスの井上氏は、執行役員となった今、メディアの視点を生かしてサステナビリティを世の中に発信することを目指している。
「メディアにとって最も大切なのは『信頼』。誰もが発信できる今だからこそ、社会課題を伝えるだけでなく、自らも汗をかく必要があると考えた」といい、同社は「地球を笑顔にするWEEK」などのキャンペーンを通じ、エンターテインメントの力で社会課題を「ワクワクするもの」に変換し、共感の輪を広げてきた。
さらに特筆すべきは、自社で再生可能エネルギーを創出する新会社「TBS Green Transformation(TBS GX)」の設立だ。グループ内で消費する再生可能エネルギー創出を担うほか、グループ各社への脱炭素支援を行う。井上氏は「発電から生まれるドラマがある。私たちが自ら行動し、そのストーリーをコンテンツとして伝えることで、社会を動かす起点になりたい」と力を込める。
「やらない仕事」の明確化が信頼に

社員約100人という規模でありながらCSOを置き、詳細な情報開示を行うのがDX支援会社のスパイスファクトリーだ。流郷氏はその理由を「生存戦略であり、自分たちのスタンスを明確にするため」と言い切る。
同社は「1ピクセルずつ、世界をより良いものにする」というパーパスを掲げ、純利益の3%を次世代支援などの社会貢献活動に充てる「ハチドリプロジェクト」を実施。また「ビジネス倫理・取引ポリシー」を策定し、「法的に認められていても、生体販売に加担するシステム開発は受けないなど、やりたくない仕事のラインを明確にした」。
流郷氏は「定款にもミッションロック条項を明記し、どんな資本が入ってきても揺るがない姿勢をステークホルダーに示している」と強調し、この徹底したスタンスが信頼を生み、公共案件や質の高い問い合わせの増加という形で、確かな企業価値に結びついていると語った。
サステナ担当者は誰より泥臭くもがいている

こうした3社に対し、ファシリテーターの足立氏が「論語と算盤で言う算盤勘定の部分で、どんな苦労があるか」と切り込むと、3人からはリアルな言葉が返ってきた。
南氏は「再生可能エネルギーなどへの長期投資は、足元のキャッシュフローを生み出す既存事業があってこそ。相反するものを『A面とB面』としてバランスを取りながら進めることが重要」と回答。井上氏も「SDGsキャンペーンを始めた当初は社内も懐疑的だったが、企業とのパートナーシップが売上につながったことで空気が変わった。今では、サステナビリティへの取り組みが採用力に直結するなど、社員もメリットを実感し始めている」と手応えを語る。流郷氏は「組織の成長と個人の成長(ウェルビーイング)が一致しなければ幸せにはなれない。私たちのスタンスに共感し、一緒に成長したいと思う人が集まることで、強い組織ができている」と応じた。
「サステナビリティは『きれいごと』に見られがちだが、経済性と社会性を統合させるために、誰よりも泥臭くもがいているのがサステナビリティ担当者だ」という流郷氏の言葉に、会場の参加者も深く頷いた。足立氏は「その『きれいごと』を本気でやっている会社が、確実に成果を得ている」と総括した。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。













