
世の中の情勢が目まぐるしく変わる中、持続可能な価値を創造していくためにはイノベーションが欠かせない。しかし、既存事業を持つ大企業において、サステナビリティ領域の新規事業を立ち上げ、社内外を巻き込んでいくプロセスには多くの壁が立ちはだかる。
サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内では、同会議カタリストの菅原聡氏の進行で、NTTドコモビジネスの熊谷彰斉氏、セブン銀行の花木美穂氏、三菱電機の深谷岳伸氏が登壇。「サステナビリティ戦略といかに事業を結合させるか」「組織の壁をどう乗り越えるか」というテーマについて、各社の取り組みとリアルな苦悩が語られた。
| Day1 ブレイクアウト ファシリテーター 菅原聡・サステナブル・ブランド国際会議 カタリスト(イノベーション分野)/ 一般社団法人Green innovation 代表理事 パネリスト 熊谷彰斉・NTTドコモビジネス ソリューションサービス部 イノベーションオフィサー 花木美穂・セブン銀行 ATMソリューション部 グループ長 深谷岳伸・三菱電機 サステナビリティ・イノベーション本部 サステナビリティ事業推進部 次長 兼 GISTプロジェクト推進室長 |
農業×ITで作るカーボンクレジットの循環

NTTグループの法人事業を担うNTTドコモビジネスの熊谷氏は、自然由来のカーボンクレジット創出事業を紹介した。自社のCO2排出量の9割が電力に由来し、日本の電力の約1%を使用しているという同グループにとって、「GX(グリーントランスフォーメーション)は社会的責任であると同時に成長機会でもある」という。
一方、「通信会社が環境分野でできることには限界があり、1社単独ではできない」と語る熊谷氏。そこで同社は、農業機械メーカーのヤンマーや、コメからバイオマスプラスチックを製造するバイオマスレジン、淡路島で地方創生を進めるパソナグループなどと協業。農家の「中干し」によるメタンガス削減をクレジット化し、ITセンサーでデータを可視化しつつ、地域で経済と環境価値を循環させるモデルを構築している。熊谷氏は「一次産業の方々から信頼を得るため、何度も現場に足を運ぶという地道な活動がイノベーションの起点になっている」と手応えを語った。
「遠い知」を結合し、次世代のATMを生み出す

全国に2万8000台以上のATMネットワークを持つセブン銀行の花木氏は、現行の第4世代ATMに続く「次世代端末」の開発プロジェクトを紹介。「2030年代に向けて、そもそもリアルなチャネルの存在意義は何なのか。その問いを深めるため、私たちはあえて『遠い知』との結合を図る産学連携に挑戦している」と語った。
花木氏自身が大学の講義を受けに行き、出会ったのが認知心理学や「バイオミメティクス(生物模倣)」の専門家らだ。昆虫の表面構造を模倣した汚れにくい筐体素材や、プライバシーを守る音響特性の研究など、従来の設計の枠を超えた発想をATM開発に取り入れている。「自社だけでは行き着かない視点を取り入れることで、誰もが使いやすいインフラとなり、結果的に装置寿命を延ばして環境負荷の低減にもつながる」と花木氏は語る。
「トレード・オン」で社会課題と利益の両立を

三菱電機の掲げる基本理念は、社会課題の解決と事業利益を両立させる「トレード・オン」。同社の深谷氏は、社長直下のプロジェクトとして発足した「GIST(Global Initiative for Sustainable Technology)」の取り組みを紹介した。
GISTでは、2040年のメガトレンドを見据え、「ネイチャーポジティブ」や「海洋」をテーマにした新事業を模索。フィンランドの技術研究センター(VTT)と協業し、海水から直接CO2を回収する技術(DOC)の共同開発を進めるなど、グローバルなオープンイノベーションを展開している。また、社内浸透にも注力しており、「総務部門の仕事」と捉えられがちだったサステナビリティを事業起点で考えられるよう、全国の工場で延べ4000人が参加するワークショップを実施。組織の意識改革を並行して進めているという。
事業性・環境効果・ストーリー性のジレンマ

セッション後半では、新規事業を立ち上げる際の「社内の壁」や「収益化のジレンマ」について、登壇者同士の率直な議論が交わされた。NTTドコモビジネスの熊谷氏は、新規事業を社内外で説得する方程式として「事業性・環境効果・ストーリー性」のバランスの重要性を指摘し、「『ストーリー性』がないと人は動かないが、それだけではただのボランティアになり、継続しない。泥臭いマーケティングが不可欠だ」と訴えた。
また、会場から「中長期的な取り組みに対する社内の予算獲得の苦労」について質問が飛ぶと、三菱電機の深谷氏は「サステナビリティ事業は短期的な売上を求められると厳しい判断を下されがち。だからこそ、非財務指標をどう事業KPIにひも付けていくかが今後の大きな課題」とリアルな葛藤を明かした。セブン銀行の花木氏も「社内で一つひとつ承認を取りながら進める一方で、人事評価にイノベーションへの貢献度を加点するような制度的な工夫もしている」と応じた。
終盤、ファシリテーターの菅原氏が「今後どんな会社と組みたいか」と問うと、登壇した3人は一様に「今日この場にいる皆さんと組みたい」と笑顔を見せた。1社では解決できない地球規模の課題に対し、自社の強みを持ち寄り、時に遠い知見と結びつくことで新たな価値を生み出す。オープンイノベーションへの期待感に包まれ、セッションは幕を閉じた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。












