• 公開日:2026.03.13
迫るサステナビリティ開示の義務化 情報マネジメントの最適解とは
  • 横田 伸治

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)の基準策定や欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)など、サステナビリティ情報開示は「任意」から「義務」へ転換期を迎えている。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のランチセッション「サステナビリティ情報マネジメントの最適解を探る」では、乱立するESG情報管理システムから自社に最適なツールをどう選び、運用すべきかの実務的議論が交わされた。

DAY1 ランチセッション

ファシリテーター
山吹善彦・Sinc 統合思考研究所 副所長 上席研究員

パネリスト
井本康夫・みらいブライト 代表取締役
岡野雅通・日本アイ・ビー・エム コンサルティング事業本部 製造・ハイテク・サービス事業部 インダストリーコンサルタント

任意開示から「監査に耐えうる義務開示」へ

井本康夫氏

ファシリテーターのSincの山吹善彦氏は、企業を取り巻く環境変化として「義務開示の要請」「バリューチェーン全体での情報収集」「外部評価機関への対応」の3点を挙げた。有価証券報告書などで公開される義務開示では、これまで以上にデータの正確性と内部統制が求められる。「間違えていたでは済まされない、監査に耐えうるデータ管理が必要になる」と山吹氏は警鐘を鳴らす。

環境・ESGコンサルティングを手掛けるみらいブライトの井本康夫氏もこれに同意し、「非財務情報は多岐にわたる媒体で開示されるため、一貫性が厳しく問われる。マテリアリティ策定のロジックが監査法人に理解できるものでなければ対応できない」と指摘した。監査法人の指摘を減らすためにもシステム導入は有効であり、システム活用で生まれた余力をカーボンフットプリント精緻化など、本質的な企業価値向上に振り向けるべきだと強調した。

システム導入・運用を成功に導くカギ

岡野雅通氏

事業会社で18年にわたりサステナビリティ業務に従事した日本IBMの岡野雅通氏は、実務担当者の視点からシステム導入の苦労を語り、「社内で予算を確保し、経営陣の合意を得るのが最初のハードル。またサステナ部門にはIT出身者が少ないため、情報システム部門といかにタッグを組めるかが重要になる」と指摘した。

現在、ESGデータ管理プラットフォーム「Envizi」の導入支援を行う立場からは、「単にデータを集めて開示するだけでは優位性は生かせない。AIを活用してデータを分析し、環境負荷低減など具体的な意思決定につなげるべき」と語る。また、国内外の拠点でデータのマスターをそろえ、現場のキーマンを教育する地道な下準備も不可欠だという。エクセルでの手作業は、データ集約時のバージョン管理が煩雑になり監査時に混乱を招くリスクが高い実態も共有された。

サステナ推進室と現場の責任の線引き

山吹善彦氏(左)

後半のディスカッションでは、会場の参加者を交えて社内体制や開示領域の拡張について議論が深められた。

会場から寄せられた「データ収集において、サステナ推進室と現場の責任の線引きをどう考えるべきか」という悩みに、山吹氏は「義務開示になれば『現場の責任』では済まない。最終的な責任者を定めるトップダウンの視点と、現場の入力負荷を下げる効率化の両面が必要だ」と指摘。

さらに「人権など『S』領域への拡張はどう進むか」との質問に対しては、山吹氏は「TISFD(不平等および社会関連財務情報開示タスクフォース)などの動きもあり、社会領域の指標は確実に求められる」と潮流を解説。「現場からのボトムアップで全てを拾うのではなく、経営としてトップダウンでマテリアリティを決定し、優先順位をつけて情報収集する形へ移行するはずだ」と回答した。

岡野氏も「人事データが主になると思うが、今後国内外拠点のデータを正しく集めるのは難しく、混乱も想定される。ブロックチェーン技術などを使って、サプライチェーンの情報を全てつなぐのが必要だが、現状では一社だけでは難しいだろう」と分析した。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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