
企業が社会課題に取り組むにあたり、非営利団体や自治体、学校などと連携することで効果をあげる事例が多く生まれている。本セッションには、企業、行政、非営利団体、それぞれの立場から、セクターの枠を超えた連携に取り組む担当者が登壇。連携の事例を紹介し、そうした連携が持つ価値や今後の可能性について議論した。
| DAY1 ブレイクアウト ファシリテーター 鵜尾雅隆・認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事 パネリスト エリン・マッカスカー・LIXIL 常務役員 兼 SATO・LIXIL Public Partners リーダー 下村新・東海旅客鉄道 事業推進本部 担当課長 天花寺宏美・一般社団法人コペルニク・ジャパン 代表理事 西川奈緒・経済産業省 商務・サービスグループ サービス政策課 課長 |
冒頭、ファシリテーターの鵜尾雅隆氏は「企業が単体で社会に変化を起こすのは簡単ではない。非営利団体、行政や自治体、学校など、さまざまな組織と連携することが、インパクトを最大化し、企業のサステナブルなブランディング力を高めていくことにつながる」と、セッションのテーマを提示した。
幅広いパートナーと、安全なトイレを届ける

本イベントに合わせて米国から来日したというLIXILのエリン・マッカスカー氏。同社のパーパスは「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」だ。
世界には、安全な衛生設備を利用できない人が約34億人いる。そうした人々のニーズに応えるため、LIXILは13年前にSATO(サトー)というブランドを立ち上げた。バングラデシュで住民の声を取り入れて簡易式トイレ「SATO Pan」を開発し、SATOの事業は徐々に拡大。2025年末までに世界で1億人の衛生環境を改善するという目標を達成した。
この事業が持続可能なものになった要因として、同氏は「パートナーとの協働」を挙げた。製造と流通は、現地メーカーと協働して行う。製品の普及と衛生環境の改善においては、国際機関や非営利団体と協働する。フィリピンのNGOと連携し、マイクロファイナンスも提供している。同氏は「どんなに良い製品を設計しても、必要としている家庭に届けられなければ、影響を与えることはできない」と語り、「それぞれの強みを持ち寄ること」の重要性を強調した。
地域との接点という鉄道の強みを捉え直す

東海旅客鉄道(JR東海)の下村新氏は、同社が沿線の100以上の自治体と接点を持っているという強みを生かし、通常の鉄道運行にとどまらないアプローチで地域の課題に取り組んでいることを紹介した。
例えば、静岡県内の複数の地域で採れた規格外の農産物などを活用したクラフトジンを開発・販売することで、複数地域の課題を解決しながら、その魅力を発信。また地域交通の活性に向けては、サイクルトレインの推進に加え、浜名湖で観光協会と共同でレンタサイクル事業を展開し、観光需要を創出している。地域が抱える課題に、地域と密に連携しながら取り組んでいるのだ。
共助で実現する、これからの教育

経済産業省の西川奈緒氏は、同省が2018年から推進している「未来の教室」について紹介した。従来の「一斉一律のそろえる学び」を、時代の変化に合わせた「伸ばす学び・はみ出る学び」に転換するための施策だ。学校中心だった教育の仕組みを、社会と連携する仕組みに変えることが必要だと、同氏は語る。
キーワードとして挙げられたのが「共助」だ。全ての子どもに提供される「公助」の学びと、各家庭で選択する「自助」の学びの間に位置する「共助」の学びは、民間企業などの協力によって多様な学びをかなえる。例えば、経験豊富なシニア人材を学校現場に派遣している企業がある。将来を担う理系人材を育てるとともに、社員のエンゲージメント向上にもつながっているという。経産省はこうした取り組みを、補助や実証事業を通じて支援している。
小さく実証し、企業を巻き込んで拡大

インドネシアのバリ島を本拠地として社会課題や環境問題に取り組むNGO、コペルニクから登壇したのは、日本法人の代表理事である天花寺宏美氏。同団体は、途上国の課題の中で特に対策の進んでいないものを見つけ、解決策を検討し、実証実験やパイロット事業を行う。その結果を、国際機関や他のNGO、企業と共有し、取り組みの拡大を目指す。
同団体はこれまで、さまざまな企業と協業してインパクトを広げてきた。そうした経験をもとに、企業や学生などを対象として、社会課題解決に向けた事業を構想するトレーニングプログラムも実施している。また「コペルニク・ハーベスト」というプログラムでは、農業生産者と企業の仲介も行う。企業に持続可能な産品と情報を提供しながら、生産者の生計向上と環境保全にもつながる仕組みを目指しているという。
枠を超えた連携が持つ価値と可能性

鵜尾氏はパネリストの4人に対し「枠を超えて連携することの価値、可能性についてどう考えるか」と改めて問いかけた。
これに対しマッカスカー氏は、民間企業、公的機関、非営利団体は、それぞれ物事を違った側面から見ているものの、共通の目標を持っていると指摘する。協働することで、より大きな影響を与え、限られた資源を有効に活用できると強調した。
下村氏も「地域を盛り上げることが共通の目標」と呼応する。地域住民と対話することで課題と解決策が見えてきたという経験から、これからも地域のさまざまなニーズを見つけて取り組んでいきたいと意欲を見せた。
西川氏は、海外展開をしている企業の社員が学校で出張授業を行ったという事例を取り上げ、教育現場が産業界と連携することの可能性を強調した。教員のサポートという意義があるとともに、生徒にとっては将来の仕事をイメージする機会になったという。
天花寺氏は「継続する仕組みを作るためには、ビジネスとして自走していくことが重要」と語る。この点は企業と共有しやすい考え方であり、インパクトを持続させていくためには、企業と連携することに大きな意義があるという。
最後に、鵜尾氏は参加者に向けて「今日を契機に、皆さんの組織でも、枠を超えた連携をイメージしながらサステナビリティについて考えていただきたい」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
茂木 澄花 (もぎ・すみか)
フリーランス翻訳者(英⇔日)、ライター。 ビジネスとサステナビリティ分野が専門で、ビジネス文書やウェブ記事、出版物などの翻訳やその周辺業務を手掛ける。













