
脱炭素をはじめ気候変動「緩和」の取り組みが進む一方、気候変動の影響を前提に社会や事業を調整する「適応」への具体的な対応を進めている企業は少ない。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」では、「地球沸騰化時代を生き抜くための適応戦略」と題したセッションにEY Japanの牛島慶一氏、サントリーの大山弘平氏、花王の小林達郎氏が登壇。不可逆な気候変動に対し、企業はどのように事業や経営を適応させていくべきか、ワイン産地の移動、猛暑対策商品の強化など、先進事例を交えて議論が交わされた。
| DAY1 ブレイクアウト ファシリテーター 岡部孝弘・Sinc 取締役 コーポレートコミュニケーション事業部長 サステナビリティコンサルタント パネリスト 牛島慶一・EY Japan Climate Change and Sustainability Services (CCaSS) アジア東部 気候変動・サステナビリティサービスリーダー/パートナー 大山弘平・サントリー 登美の丘ワイナリー 栽培技師長 小林達郎・花王 ヘルスビューティケア事業部門 スキンケア事業部 ブランドダイレクター |
物理リスクだけでなく次世代の価値観への対応も

セッションの冒頭、EY Japan CCaSSアジア東部 気候変動・サステナビリティサービスリーダーの牛島慶一氏は企業の適応策の実態を共有。EYの調査によると、日本企業の94%が気候変動による物理リスクを評価しているものの、何らかの適応策を実施しているのは51%にとどまるという。また、温室効果ガス排出量の計測などは進んでいる一方、その分析結果を経営の移行計画や投資計画へ統合し、ガバナンスを効かせる点については、グローバルと比較して課題が残ることも指摘された。
適応が求められるのは、自然災害や気温上昇といった物理的側面だけではない。気候変動による社会の不安定化は人々のマインドにも影響を与えており、現代の若い世代は、仕事やキャリアにおいて「心身の健康」や「安定」を重視する傾向が強まっている。牛島氏は、「将来の顧客や社員となる世代のニーズや価値観の変化をいち早く捉え、経営に取り入れていくアジャイルな力が求められている」と語った。
ブドウ栽培の危機を、ワインづくりの好機に

続いて、サントリー 登美の丘ワイナリー 栽培技師長の大山弘平氏は、気候変動がワインづくりに与えるリアルな影響と適応戦略について説明。日本の気候風土の下で100年以上の歴史を持つという登美の丘ワイナリーだが、近年は気温上昇によりブドウの着色不良が起きるなど、取り巻く環境は大きく変化しているという。
この課題に対し、サントリーは以下の3つの適応戦略を進めている。
| 産地を拡大する:緯度や標高の高い涼しいエリアへ栽培地を移行する。 品種を変更する:気温が下がる秋に成熟を迎える、成熟の遅い品種へと変更する。 技術を開発する:栽培時期をずらして成熟を遅らせる「副梢(ふくしょう)栽培」などの新たな技術を開発する。 |
環境変化というピンチを好機と捉え、自分たちのワインやブドウの本質を見つめ直した結果、これらの取り組みは国内外のコンクールでの金賞受賞という成果にもつながったという。大山氏は、「変数が多くなる中で、自分たちにとって大事なこと、本質的なおいしさとは何かを突き詰めて考えることが重要だ」と強調した。
BtoCからBtoBへ 暑熱環境で働く人を支える

花王 スキンケア事業部 ブランドダイレクターの小林達郎氏は、記録的な酷暑や残暑の長期化が、生活者の行動や市場に大きな変化をもたらしていると説明。例えば、日焼け止め市場は夏の一過性のものではなく、秋冬も需要が続くようになった。この変化を捉え、花王は紫外線防御効果と快適さを両立した「呼吸感ベールUV」や、隙間時間で汗ケアができる「秒さらミスト」などをビオレシリーズに投入している。
さらにBtoB領域でも、気候変動への適応支援を本格化している。労働安全衛生法などで職場の熱中症対策強化が求められる中、「ビオレの冷サポート」を企業向けに開始。肌温度をマイナス3度で1時間保つ「冷タオル」を、清水建設の超高層ビルの建設現場や、コカ・コーラ(コカ・コーラ ボトラーズジャパン)のルート補充作業、音楽フェスの現場などで提供し、暑熱環境で働く人々の環境改善に貢献している。
小林氏は「肌は人と社会がつながるためのヒューマン・インターフェイス」というビオレのブランドパーパスを紹介し、「社会の変化に合わせてブランドも育っていく。既存の商品であってもビジネススキームを変えることで、新たな領域でお役立ちできる」と力強く語った。
理念の再定義と「内発的動機」が真の進化を生む

パネルディスカッションでは、ファシリテーターを務めたSinc 取締役 コーポレートコミュニケーション事業部長の岡部孝弘氏が「適応というと『変えること』と思われがちだが、実は『変わらないもの』にフォーカスすることが重要ではないか」と問題提起。
これに対し花王の小林氏は「製品は変わっても『肌を通じたお役立ち』という原点は不変だ」と語り、サントリーの大山氏も「『次、必ずおいしくする』という大前提の追求は変わらない」と頷いた。EYの牛島氏は「守るべき部分と新たな知を入れる部分のバランスを取り、スパイラル的に進化していくことが真の適応だ」と分析した。
岡部氏は「適応とはむやみに未来を予測することではなく、今のビジネスを振り返り『このやり方だと、これから困る人が出ないか』という視点を持つことから広がる」と総括し、内発的動機に基づく取り組みの重要性を共有してセッションは幕を閉じた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









