• 公開日:2026.03.12
AIとコンパッション テクノロジーに『慈しみ』を宿す未来へ
  • 眞崎 裕史

AIが社会を根底から変革する今、「何のために、誰のために変化するのか」という問いが重みを増している。AI+Compassion Global Forumの創設メンバーで、米国を拠点に活動する起業家の須藤潤氏が「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のプレナリーに登壇し、テクノロジーとコンパッション(慈しみ)を融合させる独自のビジョンを展開した。会場参加者との双方向のセッションは、「今なぜここにいるのか」という問いを出発点に、AI時代における人間性の意味を問い直す場となった。

Day1 プレナリー

須藤潤・AI+Compassion Global Forum Founder & Architect of Co-Flourishing Futures

「今なぜここに?」

オープニングスライドに映し出されたのは、「Why Are You Here? 今なぜここに?」という一文だ。須藤氏は会場に問いかけ、しばし考える時間を促した。続いてスライドには小さなコップと大きなピッチャーの画像が示され、「器に何が入るかで全く違ってくる。それがコンテクスト」と須藤氏。「今なぜここに」の「ここ」が日本なのか、世界なのか、この時代なのか。問いのコンテクストによって答えは全く異なる。この問いかけは、加速するAI時代において「人間として何を大切にするのか」を定義し直すための入口となった。

続いて映し出されたのは、「世界で最も美しいものは、見たり触ったりすることはできない。心で感じるものなんだ」という一節。そしてジョン・レノンの「Imagine」の歌詞を背景に、須藤氏はコンパッション(思いやり・慈しみ)というキーワードへと話を展開した。「コンパッションのある温かい未来と、コンパッションのない残酷な未来、どちらを選びますか?」。参加者に挙手を求め、問いを共有した。

次に20世紀を象徴するものとして、チャップリンの映画『モダン・タイムス』の、歯車にのみ込まれる場面のスライドが示された。「機械化と物質化で豊かさをもたらした20世紀。では21世紀はどこへ向かうのか」と問いかけた須藤氏は、AI研究の世界的権威であるレイ・カーツワイル氏の「21世紀はおよそ2万年分の進化をとげる」という言葉、そしてあるテック企業家の「AIは6カ月で10倍の性能になる」という発言を引用し、加速するテクノロジーの現実を示した。「悪いことも100倍で悪くなる。でも、良いことは100倍で良くなる」。だからこそ、その方向性を問い直すことが必要だという。

「和」と「間」の重要性

須藤氏が「AI+Compassion」の活動を始めたのは2022年。ロボット研究者や環境の専門家らと京都を起点に立ち上げた。構想をグローバルへ広げようとした時、須藤氏はナイジェリア出身の知人に「AI+Compassionと聞いたら何を思い浮かべるか?」と尋ねた。返ってきた答えは、全く予期もしない「再植民地化」という言葉だった。AIが知らず知らずのうちに人々の思考を均質化し、新たな支配構造を生む可能性があるのではないかー。その視点が活動の設計思想を変えたという。

「自然、人類、AI/テクノロジーが共存し、共に繁栄する未来を共創する」をビジョンに掲げる「AI+Compassion」。世界各地で分断が深刻化した2025年、須藤氏らは大阪・関西万博の米国パビリオンで「AI+Compassion Global Forum」を開催した。オンラインを含めて6大陸から1300人以上が参加し、60人が登壇。イベント終了後、須藤氏がパビリオンを出ると、万博の夜空に「One World, One Planet」の文字が浮かび上がっていたという。

須藤氏はビジョンの実現に向けたアプローチとして、多様な要素の調和である「Wa(和)」と、内省を可能にする「Ma(間)」の重要性を指摘。加速する時代だからこそ、あえて間を取ることが、人間性を守る鍵になるという。そしてレノンが「Imagine」で描いた「世界が一つになる」夢は、AI時代に改めて問い直されるべき問いだと訴えた。

会場の参加者に「インテンション(意図)をはっきりさせて(サステナブル・ブランド国際会議の)残りの日程を過ごすと、また違った世界が見えてくるんじゃないかな」と語りかけ、講演を締めくくった須藤氏。「今なぜここにいるのか」という問いは、それぞれの胸の中で、AI時代に生きる人間としての問いへと深まっていた。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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