
サステナビリティ領域を専門とする英国発のグローバルエージェンシー、Flag Communication(以下、Flag)のCEO、ヴィクトリア・テイラー氏が「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のプレナリーに登壇した。マクドナルドや日立製作所などグローバル企業のサステナビリティ報告を手がけてきた経験をもとに、日本企業が持つ「情報開示の実質的な充実度」という強みを生かしつつ、国際的なステークホルダーに響くレポーティングへと進化させるための視点を語った。
| Day1 プレナリー ヴィクトリア・テイラー・Flag Communication CEO |
グローバル基準が生む「共通言語」
テイラー氏はまず、サステナビリティ報告を取り巻くグローバルな動向を整理した。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が策定した開示基準は現在、各国の独自ガイドラインと相互運用できる形で整備されており、日本のSSBJ(サステナビリティ基準委員会)もその流れを受け、2025年3月にサステナビリティ開示基準を公表した。
「これらの基準は本質的に世界共通語だ。投資家はその『言語』で情報を読もうとしている。日本の組織も、すでにその『言語』でレポートを書く段階に入っている」とテイラー氏は言う。欧州のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)については、直接の対象外であっても顧客や取引先を通じて間接的に影響を受ける企業は多い。こうしたグローバルな規制の潮流は、日本企業にとっても人ごとではない。
日本企業はアプローチの見直しが必要
サステナビリティ報告を巡って、テイラー氏は日本企業の優位性を「substance(実質)」の言葉で表現した。これは、開示情報の信頼性や充実度などを意味している。「100ページ、200ページに及ぶ報告書がある。非常に堅牢な内容で、素晴らしい出発点だ」と評価。その一方で、「コンプライアンスの要素や情報を網羅することは、あくまでスタートラインに立つためのもの。国際的な投資家と対話し信頼を勝ち取るには、アプローチの見直しが必要だ」と率直に語った。
具体的には、マテリアリティの絞り込みと情報の可視化を求めた。データはインフォグラフィックやチャートで表現し補足コメントを添えること、縦長・文章中心のフォーマットを見直してオンライン閲覧に適した横長でナビゲーション付きの構成にすることが、国際的なステークホルダーのアクセシビリティを大きく高めると指摘。また、ネット・ゼロへの道筋をロードマップで視覚化し、目標に対する進捗(しんちょく)を透明性を持って示すことで、目標未達の場合でもその理由を誠実に説明できる──。それが信頼の構築につながると強調した。
マクドナルド・日立の事例が示す「構造」と「ビジュアル」の力
講演では、Flagが手がけた2社の事例が紹介された。マクドナルドの「パーパス&インパクト・レポート」は50ページほどのコンパクトな構成ながら、ページ上部にナビゲーションを設け、各セクションへの移動を容易にしている。また、視覚的なサプライチェーン全体図を配置し、文字に頼らず組織のインパクトを一目で伝える構成が特徴的だ。「ブランドの世界観がレポートから感じられる。プルアウト(抜粋コメント)があり、パラパラとめくるだけでもメッセージが伝わる。文字だらけのページでは伝わらないことも、この方法なら瞬時に伝えられる」とテイラー氏は語る。
日立製作所の事例では、新サステナビリティ戦略を機に、Flagがレポートの戦略部分(戦略ストーリー、マネジメントアプローチ、CEOメッセージなど)を担当した。大きなビジュアルと簡潔なテキストを組み合わせた横長フォーマットとし、グローバルな読者が直感的にストーリーをつかめる設計に刷新した。テイラー氏は「詳細なデータは後半に盛り込みつつ、全体を通じて一貫したスタイルを維持する。その両立が重要だ」と力を込めた。
リーディングブランドのサステナビリティ戦略やレポートを数多く手掛け、25年以上の実績があるFlag。テイラー氏は会場の参加者に「皆さんは素晴らしいサステナビリティ報告書を持っている。しかし海外のステークホルダーに届けるには、伝え方を問い直し、彼らとつながるものにする必要がある」とあらためて呼びかけ、講演を締めくくった。
| 【参考資料】 マクドナルドの「Purpose & Impact Report 2024-2025」 https://corporate.mcdonalds.com/content/dam/sites/corp/nfl/pdf/McDonalds_PurposeImpact_ProgressReport_2024_2025.pdf 日立 サステナビリティレポート 2025 https://www.hitachi.com/content/dam/hitachi/global/ja_jp/sustainability/media/download/ja_sustainability2025.pdf 統合レポート・ライブラリー https://www.sustainablebrands.jp/report-library/category/report/ |
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。













