
サステナビリティを巡る議論は欧米主導で進むことも多いが、実はその本質的な概念は、古くからアジアの文化や精神の中に深く根差している。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」のプレナリーでは、「アジアブランドにおけるAdapt & Accelerate」と題し、日本やタイの実例を交えながら、単なるスピード競争ではない「正しいテンポ」の重要性と、アジアの文化に脈々と受け継がれてきたサステナビリティの可能性が共有された。
当初登壇予定だったSBタイランド・カントリーディレクターのシリクン・ヌイ・ローカイクン氏に代わり、SB国際会議サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏が代理で登壇し、メッセージを届けた。
| Day2 プレナリー シリクン・ヌイ・ローカイクン・Sustainable Brands Thailand Country Director(来日中止) 足立直樹・サステナブル・ブランド国際会議サステナビリティ・プロデューサー(代理登壇) |
盲目的な加速がシステムを破壊する
講演の冒頭、足立氏は「適応と加速と聞くと『早く動かなければ』と考えがちだが、単に加速しろということではない。何に適応し(What)、どう加速するのか(How)が重要だ」と前提を整理。
たとえば気候危機はビジネスの操業や財務に直接的な影響を与える課題となっており、もはや「行動するかどうか」ではなく、「どれくらいの速さで、どの順番で進めるか」が問われている。ここで優位に立つのは「最も速いブランド」ではなく、今の現実に正しく適応し、適切なテンポで加速できるブランドだという。
足立氏は「適応が不十分なまま盲目的に加速すれば、システムそのものを破壊しかねない。既存事業の中核を壊さないよう、まず正しいシステムに適応し、その上で加速する。変化の順番を設計することが正しいテンポだ」と強調した。
日本とタイが実践する「正しいテンポ」
正しいテンポを体現する具体例として、日本とタイのアプローチが紹介された。
日本の強みは「制御された加速」にある。つまり、無駄や過剰を取り除き、システム全体の完全性を守りながら継続的改善を通じて進歩する方法だ。「無駄が明らかなところでは速く動き、完全性が重要なところではゆっくり動くのが日本の特徴。改善やものづくりといった哲学は、まさにこの正しいテンポに基づいている」と足立氏は説明。スライドでは無印良品や味の素、トヨタといった企業が挙げられた。
一方、タイのアプローチは「足るを知る経済(Sufficiency Economy)」だ。過剰を避け、バランスと安定を優先させる思想で、実際にヌイ氏自身がリードする生態系回復プロジェクト「Doi Tung(ドイトン)」では、「人→市場→生計→森林」という従来の開発とは全く逆の順序で進められたという。人を最初に中心に据え、適切な速度で進めた結果、森林が破壊されるのではなく回復したといい、正しいテンポがシステム全体の再生につながることを示した。
サステナビリティの未来はアジアから
台湾やマレーシアの事例も示され、日本の「里山」や「もったいない」、タイの「仏教の中道」といった概念も含めて、サステナビリティがアジアの精神に深く根差している事実が浮かび上がった。
この点について、ヌイ氏から託されたメッセージには力がこもっていた。
「サステナビリティの未来はアジアに輸入されるものではなく、むしろ世界がアジアから学ぶことになるだろう。私たちはすでに適応している。今必要なのは、一緒に正しいテンポで加速することだ」
最後に足立氏は、自身の視点として「自然のシステム自体が元々このテンポで動いてきた。私たちは自然を単に守るだけでなく、自然の原理に従って共に進化する経済を目指すべきではないか」と会場に呼びかけ、講演を終えた。
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。









