• 公開日:2026.03.04
トイレ・オタクの情熱が生んだソーシャルビジネス LIXILのパーパス発イノベーション
  • 横田 伸治

世界150カ国以上で事業を展開し、毎日10億人以上の生活を支える水回りと建材のグローバル企業、LIXIL。「サステナブル・ブランド国際会議 2026 東京・丸の内」2日目のプレナリーに登壇した同社のジン・ソン・モンテサーノ取締役 代表執行役専務 Chief People Officerは、同社がパーパス主導経営となるまでの経緯を明かした。

その上で、革新的な簡易式トイレ「SATO」のストーリーを例に、地域社会を巻き込んだ持続的なソーシャルビジネスを通して社会課題を解決することの意義を強調し、パーパスを中心としたイノベーション創出を会場に呼び掛けた。

Day2 プレナリー

ジン・ソン・モンテサーノ・LIXIL取締役 代表執行役専務 Chief People Officer

「トイレ・オタク」の熱量が形作ったパーパス

LIXILは2011年、INAXやトステムなど主要メーカー5社が統合して誕生した。

モンテサーノ氏が2014年に入社した当時、同社はいわば「100年の歴史を持つブランドを抱える巨大なスタートアップ」だったという。従業員たちはかつての所属企業への誇りを持つ一方で、「LIXILという一つの企業としてどこへ向かうべきか」という明確な羅針盤を持っていなかった。

そこで同氏は、入社後の100日間で社内のあらゆる人々にヒアリングを実施。その結果、ある強力な共通項を見出す。「私たちは『トイレ・オタク(super otaku about toilets)』だったのです」とモンテサーノ氏は笑う。劣悪な衛生環境や野外排せつという世界的な課題に対し、自らの技術で実用的かつ持続可能な解決策をもたらそうとする彼らの熱量に触れた同氏は、LIXILがパーパス主導の企業になる必要性を確信した。

そして策定されたのが、「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」というパーパスだ。この普遍的な願いは、事業統合を果たした同社を一つにまとめ上げる求心力となった。

世界の衛生危機と「SATO」の誕生

モンテサーノ氏はこうしたパーパスを真に体現するためには、適切な衛生環境を持たない人々に目を向ける必要があると指摘する。

同氏によれば、現代においても、安全に管理された衛生設備を利用できない人は34億人に上る。衛生環境に起因する疾患により、毎日1000人以上の子どもたちが命を落とし、3億5400万人が野外排せつを余儀なくされているのが現状だという。

この課題を解決するために開発されたのが、簡易式トイレ「SATO Pan」だ。わずか数ドルという安価な製品ながら、少量の水とカウンターウェイトによって弁が自動的に開閉する仕組みを持つ。使用後には弁が密閉され、ハエなどの虫や悪臭を遮断する。「野外排せつが行われる理由の一つは、従来の穴を掘っただけのトイレが悪臭を放ち、不快だからだ」とモンテサーノ氏は語り、SATOがユーザー体験を劇的に向上させ、病気のまん延を防いでいることを強調した。

ソーシャルビジネスで地域が自ら変わる

優れた製品を無償で寄付するという選択肢もあった中、なぜLIXILはSATOを「ソーシャルビジネス」として展開したのか。モンテサーノ氏は「寄付は即効性があるものの、業績が悪化すれば予算が削られるなど、一時的な解決策になりがちだ」と課題を指摘する。

対して、ソーシャルビジネスは恒久的なレガシーを生み出す。同氏はその理由として3つのポイントを挙げた。第1に、単なる製品提供ではなく「安全な衛生市場」というエコシステムそのものを創出できること。第2に、現地の製造業者や販売店、施工を担う個人事業主などに経済的機会を提供し、彼・彼女らが自ら地域を変革する「ローカルヒーロー」となること。第3に、顧客中心のビジネスであるため、一過性の予算に頼らず長期的な取り組みが可能になることだ。

2013年の事業開始以来、SATO製品は世界59カ国・地域に展開が広がっている。本セッションにおいて、モンテサーノ氏は「衛生環境の改善を通じて、2025年までに世界中の1億人の生活を向上させる」という目標を達成したことを発表した。

最後にモンテサーノ氏は、「SATOは単なるトイレではなく、エンパワーメントのツールであり、進歩の象徴。意義ある雇用を生み出し、尊厳、希望、そして機会を回復させるものだ」と語り、「イノベーションがパーパスによって推進されたとき何が起こるか。責任ある持続可能なビジネスの成長と、社会的責任が表裏一体であることを共に証明しよう」と会場に呼びかけて講演を終えた。

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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