• 公開日:2026.02.12
サステナの現場から――中堅企業の知恵と実践
【サステナの現場から】第6回 経営と現場で磨き上げたコジマのマテリアリティ

家電量販店のコジマは、従業員約3000人規模のプライム上場企業です。本コラムでこれまで紹介してきた中堅企業と比べると、組織規模はやや大きいかもしれません。それでも今回、あえてこの事例を取り上げました。

マテリアリティ(重要課題)の特定に当たり、経営層が最初から最後まで一貫して関わり続けた、なかなか出会えない取り組みだったからです。コジマはそのプロセスをサステナビリティサイト上で丁寧に公開しています。とはいえペンを取ったのは、その場に立ち会ってきたからこそ見えた背景や空気感を、読者の皆さんにお伝えしたいと思ったからです。

コロナ禍の真っただ中で始まった対話

コジマから最初に声をかけていただいたのは、2021年5月のことでした。日本は新型コロナウイルスの緊急事態宣言下にあり、ワクチン接種がようやく始まろうとしていた頃です。

最初の打ち合わせには、社長と専務も同席しました。そこで話題となったのは、「サステナビリティに取り組むかどうか」という是非ではありません。どう進め、どう伝え、どの順番で実行していくのか。取り組み全体の設計について、時間をかけて意見が交わされました。その様子が、今でも印象に残っています。

それから約半年後、「社内の推進体制が整いました」と連絡をいただきました。そして最初の取り組みとして選んだのが、マテリアリティの特定でした。

3回のワークショップで行われたこと

マテリアリティの特定は、全3回のワークショップで進められました。このプロセスを振り返ると、特に印象に残っているポイントが3つあります。

① 多様性を意識した参画メンバーの選定

マテリアリティの議論では、社会の視点と自社の視点を行き来しながら、課題を洗い出し、絞り込んでいくことが求められます。そのため、参画メンバーの多様性は欠かせません。

コジマでは、メンバー選びも慎重に進められていました。本部と店舗のバランス、ジェンダーのバランス、複数店舗を統括するマネージャーから若手社員までのキャリアの幅。こうした点を意識しながら、16人が選抜されました。単に各部門から代表を集めたのではなく、「どんな視点があれば議論が深まるのか」を考えた人選だったように思います。同時に、人材育成の意味合いも込められていました。

マテリアリティ特定ワークショップの様子 全3回(3日間)=写真提供:コジマ

② 事前ヒアリングという丁寧な仕込み

選抜されたメンバーには、事前の宿題が出されました。自分の周囲にヒアリングを行い、課題を持ち寄るというものです。お客さま、取引先、働く同僚など、ステークホルダーの声を一人ひとりが持った状態で、ワークショップに臨む設計でした。ワークショップでは、集めた声をもとにいくつかの作業を行いました。まず、事業のバリューチェーンを俯瞰(ふかん)し、どの工程のどこに、どのような課題があるのかを洗い出すワークです。日々の業務で感じている違和感や課題を、事業全体の流れの中で整理していきました。

また、CO2削減といった個別テーマについても、環境対応として一括(くく)りにするのではなく、ビジネス機会として捉える視点や、リスクを減らす視点から考えるワークを行いました。同じ課題でも、見方を変えることで捉え方が大きく変わることを、メンバー自身が実感する場になっていたと思います。

さらに、「コジマらしさ」をマテリアリティでどのように表現するのかについても議論しました。事業の強みや地域との関わり、これまで大切にしてきた価値観を、どの言葉で社会に伝えるのか。具体的な表現に落とし込むことが意識されていました。

③ 取締役全員が最初から最後まで同席

そして、何より印象に残っているのがこの点です。当時のコジマの取締役は4人でしたが、社長をはじめ、取締役全員が3回全てのワークショップに最初から最後まで同席しました。メンバーの議論を見守り、各回の最後には、取締役それぞれからコメントがありました。この積み重ねを通じて、経営と現場の間で「何が重要なのか」という認識が重なっていったのだと思います。

もちろん、大変多忙な役員の皆さんですから、途中でさまざまな連絡が入ることもあったでしょう。後方で小声の打ち合わせをしたり、短い時間席を外したりする場面もありましたが、それでも最後まで、役員の誰一人欠けることなくワークショップを支えていました。

写真提供:コジマ

これまで多くの企業で同様のワークショップに立ち会ってきましたが、社長や取締役全員が全てに同席したケースは、私の経験の中ではコジマだけです。

「コジマらしい」マテリアリティの誕生

こうして6つのマテリアリティが特定されました。いずれも、コジマの事業や地域との関わりにしっかり根差した、まさにコジマらしいマテリアリティです。コジマには、「くらし応援コジマ」という大切なメッセージが受け継がれています。この「くらし応援」を核にして、次の6つに整理されました。

  • みらい家電応援

  • リサイクル応援

  • みらい応援店舗

  • みんなのまち応援

  • こども応援

  • 働くなかま応援

これらのマテリアリティを定めたことが、パーパスや企業理念の体系整理、統合報告書の発行、そしてTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)をはじめとする現在のさまざまな取り組みへとつながっていきました。

2年で起きた大きな変化

このプロジェクトが始まる前、コジマは「ホワイト500」に初めて認定されましたが、サステナビリティに関する情報開示においては、業界の中で「他社から大きく遅れないように進めている」段階だったと思います。

しかし、マテリアリティ特定からスタートした取り組みは、想像以上のスピードで社内に広がっていきました。わずか2年で、ESG評価機関のインデックス選定やダイバーシティに関する上位評価につながり、家電・電化製品の小売業界において、先頭集団をけん引する存在へと躍り出ています。

私が関わらせていただいたのは、2021年から2022年にかけてのマテリアリティ特定・SDGs宣言のフェーズでしたが、その後もコジマは社会の変化に合わせてマテリアリティの見直しを行い、現在では検証・進化ステージへと進んでいます。専門的な言葉になりますが、ダブルマテリアリティの採用や、検討したリスク・機会・インパクトの開示、自社ビジネスとの関連性の明文化などにも取り組んでいます。コジマのサステナビリティ経営は、立ち止まることなく進み続けています。

経営の「応援」が、組織を動かす

この一連の取り組みを間近で見てきて、あらためて感じたのは、経営層の「応援」が、サステナビリティ経営を大きく前に進める力になるということです。

そしてもう一つ。コジマの経営者や多くの従業員の方々と接する中で、何でも遠慮せずに話せる、風通しの良い社風の魅力を強く感じました。この空気感があったからこそ、経営と現場が同じテーブルで未来の話をすることができたのだと思います。この企業文化を、これからも大切にしてほしい。心から、そう応援しています。

【参照サイト】

コジマの企業IR情報・サステナビリティ
https://www.kojima.net/corporation/

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