• 公開日:2026.01.08
「無意識な体の揺れ」までAIが解析 UCCがウーブン・シティで挑む、コーヒーと集中の科学
  • 眞崎 裕史
2025年9月26日にオープンした「上島珈琲店 Woven City店」

天井から見下ろす複数のカメラが、コーヒーを飲む客の「貧乏揺すり」や「集中力」を捉えている――。UCCジャパンは、トヨタ自動車などが静岡県裾野市で開発する実証都市「Toyota Woven City(トヨタ・ウーブン・シティ)」に参画し、コーヒーが持つ潜在的な力を科学的に解明する新たな挑戦を始めている。同社は「より良い世界のために、コーヒーの力を解き放つ」というパーパスを掲げ、ウーブン・シティ内にオープンした「上島珈琲店 Woven City店」を舞台に、AI技術を活用したこれまでにない実証試験を展開。店舗環境やコーヒーの香り・味わいが集中力などに与える影響を示す実験で、その視線はデータに基づいた「未来のウェルビーイング」の社会実装へと向けられている。

異業種共創が生む新たな可能性

ウーブン・シティへの参画は、現場の熱意から始まった。構想段階で店舗営業の担当者が「街にはカフェが必要だ」と自らアプローチし、3年ほど前から対話を重ねてきた。当初、社内では成果が未知数であることへの懸念もあったが、トヨタという異業種のリーダーと共に長期的な目線で「街」を創るビジョンに共感し、大きな意義を見出した。UCCジャパン執行役員サステナビリティ経営推進本部長の里見陵氏は「トヨタから学ぶことは非常に多く、新たな価値が生まれる要素がそろっている」と強調する。

上島珈琲店 Woven City店はウーブン・シティの公式ローンチに合わせて、2025年9月26日にオープンした。48席を構え、富士工場(静岡県富士市)の大型水素焙煎機を活用した、燃焼時にCO2を排出しない世界初の「水素焙煎コーヒー」などを提供している。

水素焙煎コーヒー

実験室ではない「リアルな日常」の解析

今回の実証試験の最大の特徴は、一般的な実験室ではなく、通常店舗と全く同様の設計がなされた「リアルなカフェ空間」を実証の場としている点にある。

「これまでの実験室での研究は、数人の被験者を拘束して行うため、データの質と量に限界があった。ウーブン・シティでは、圧倒的な質と量のデータを、日常の延長線上で取得できる。これは想像もしなかったチャンス」と里見氏はその特異性を語る。

この「日常」を可視化するのが、トヨタ側が提供する人工知能プラットフォーム「Vision AI」だ。天井に設置された複数のカメラが客の動作を捉え、AIがそれを解析可能なデータへと変換する。来店の目的や退店時の満足度といった「主観データ」と、AIが捉えた「客観的な行動データ」を掛け合わせることで、これまで感覚的だったコーヒーの価値や影響を科学的なエビデンスへと昇華させていく。

AIが見つめる「集中」の正体

実証試験について説明するUCCジャパン執行役員の里見陵氏。天井に設置したカメラが客の動作を捉え、AIで解析する

店舗内の一部に設けられた実証エリアでは、試験への参加登録を済ませた住民らが日常通りに過ごす。AIが記録するデータは驚くほど詳細だ。例えば、PC作業を行っている際、「コーヒーを一口飲んだ」「10分間スマートフォンを操作した」といった動きだけでなく、本人が無意識に行っている「体がゆらゆら揺れている」「貧乏揺すりをしている」といった微細な動作までが、時系列のテキストデータとして蓄積される。

UCCジャパンはそれらのデータを元に、次のような具体的な検証を進めている。
・深煎りコーヒーの香りの方が、集中力が高まる?
・コーヒーをおいしいと感じていると、何か特徴的な動作をする?
・コーヒーの温度が冷めると集中が切れる?

現在は個人を対象とした影響調査だが、今後、複数人を対象とした調査へ発展させる考えだ。

データが解き放つ「コーヒーの力」

画期的な取り組みの一方で、課題もある。一つは「データの母数」の確保だ。2025年12月下旬の時点で、実証試験への参加者は100人ほどにとどまっている。解析の精度をさらに高め、統計的に有意な差を見出すためには、より多くの参加者と、継続的なデータ蓄積が不可欠となる。また、ビジネスとしてのスピード感も問われている。「中長期的な投資ではあるが、1年程度で何らかの成果や方向性を出さなければいけない」と里見氏は語る。

UCCジャパン提供

実証試験の成果は半年〜1年ごとに公表予定で、店舗環境の改善につなげるだけでなく、コワーキングスペースやオフィスにも「議論が盛り上がるコーヒー」といった付加価値を提案する考えだ。将来的には、スマートウォッチなどを使って日常のバイタルデータを計測し、コーヒー習慣が心身の健康に与える影響を調査するほか、対話や会議の音声・画像データから、コミュニケーションへのポジティブな影響を可視化する実証試験も予定しているという。

ウーブン・シティに参画する他の「インベンター」(サービスや商品の企画・開発を行う企業や個人)との共創も視野に入れる里見氏は「コーヒーの力はまだまだある。その新たな可能性や価値創造をここで追求していきたい」と力を込めた。

コーヒーという世界で数世紀続く文化と、AIという先端技術。この2つが「実証都市」で出会う意義は、効率化や生産性の向上にとどまらない。里見氏が語る通り、そこにはまだ解き放たれていない「コーヒーの力」が眠っている。この挑戦は、何気ない一杯の習慣が、私たちの未来の働き方や暮らしをより人間らしく、そして豊かなものへと変えていく確かな一歩となるはずだ。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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