
取材現場で心を動かされた言葉、記事にはならなかった小さな発見、そして、日常の中でふと感じたサステナビリティのヒント。本コラムでは、編集局メンバーの目を通したそんな「ストーリー」を、少し肩の力を抜いて、ゆるやかにつづっていきます。
今回の担当は松浦です。
「気付き」に満ちたイベント
少し前になりますが、2025年10月下旬、虎ノ門ヒルズに立ち寄った際に、私たちの未来を少し優しく変えてくれるようなイベントに出会いました。
「Ethical Design Week Tokyo 2025」。空間デザイン業界でエシカルデザインを推進する船場と博展が開催するこのイベントは、“エシカル”を身近に考えられる「気付き」に満ちた場所でした。都会の真ん中で感じた、これからの「エシカル」の形を、参加者の視点からお届けします。

捨てられるはずのものが、美しい「デザイン」に生まれ変わる
会場は虎ノ門ヒルズ森タワー2階の、吹き抜けが気持ちいいアトリウム。そこに足を踏み入れると、30社もの、共創パートナーによる多種多様な展示が広がっていました。
最初に目に留まったのは、俳優の小澤征悦さんがプロデュースした「AKAPAN」のブースです。お父さまの小澤征爾さんの影響で履き続けているという「赤いパンツ」を、ORGABITS(オーガビッツ)のオーガニックコットンで制作し、新たにローンチしたタイミングだそう。ORGABITSとは、オーガニックコットンの普及を目的としたプロジェクトで、売上の一部が環境保全に寄付されます。
その仕組みにも、こだわり抜いた素材にも、小澤さんの熱い思いを感じました。小澤さん自ら一般の方にも積極的にAKAPANへの思いを伝えており、オーガニックコットンを知らない方も自然と興味を持って話を聞いているようでした。

また、デザインの力に驚かされたのが、インクロッチェの「nejiru Furniture」。要らなくなった衣類を“ねじって”椅子やオブジェにするという発想で、よく見ると家具の端からシャツの袖がのぞいているのが特徴。アップサイクルだからこそ、一つひとつ形もデザインも同じものができない、唯一無二のデザインで、「これほどまでにスタイリッシュな表現になるのか」と、あらゆる角度から作品をのぞいてしまいました。
他にも、コロナ禍で大量に使われたアクリルパーテーションを回収し、再びアクリル板に再生する緑川化成工業の取り組みや、廃棄されるカキの殻を塗料材に混ぜて活用するロックペイントなど、「廃棄される運命だったもの」に新たな命を吹き込む企業の姿勢が随所に見られました。

体と心を整える、ウェルビーイングなひととき
アトリウムを抜けてオーバル広場に進むと、アトリウム内とは違った雰囲気でマルシェやブースが立ち並びます。オーガニック素材のお菓子やアイス、酒粕の入浴剤など、どれも手に取りたくなるものばかり。芝生の上では、モデルの福田萌子さん主宰の「100人バレトン」が開催され、多くの参加者が朝から地球と体を癒す時間を共有していました。

広場の中央には、卓球ラケットの余材から作り上げたという、カラフルな卓球台が置かれていました。体験デザインを得意とする博展が新渡戸文化学園の中学生と探究学習の授業で作り上げたという、アップサイクルの卓球台で、その存在感に、通りがかりの人も思わず1ゲーム参加していきます。ゲームをきっかけに自然と“余材”のストーリーに触れ、エシカルを体感できる空間になっていました。

「ごみ」を「資源」として捉え直す
今回のイベントで最もハッとさせられたのが、“CITY RESOURCE HUB”。いわゆるごみ捨て場です。ここでは、イベントで出た廃棄物をスタッフに手渡すと、スタッフが細かく分別してくれます。単にごみ箱へ捨てるのではなく、スタッフに「手渡す」というプロセスを経ることで、自分が「ものを手放す」ことに無自覚だったと気付かされました。ごみだと思っていたものが分別次第では「資源」に変えられると気付けると、これからのごみ捨ての感覚も変わってくるのではないでしょうか。
たまった資源は、RECOTECHの廃棄物の計量管理システム「pool」で測定され、その場でイベントから出る廃棄物の種類や量をグラフ化。最終的に、イベントの制作時に出た資源と、イベント終了時にその資源がどのように処理されたかを計測し、「資源循環率」が可視化されるそうです。

このイベントの素晴らしい点は、エシカルを「感覚」だけで終わらせず、「資源循環率」として数値化・可視化している点。
2024年から同じ仕組みで資源のインフローとアウトフローを計測してデータ化し、2024年の課題であった調達(バージン材の大量使用)を2025年は大幅改善し、マテリアル・サーキュラリティ率(資源循環性)を向上させたそうです。エシカルをうたうイベントだからこそ、イベント自体も資源循環に配慮した設計・運営にこだわる、主催としての覚悟を強く感じました。
夜には、ごみを捨てる音をDJがリアルタイムで音楽に変える「TRASH PARTY」も開催され、「楽しく分別する」という新しい体験に、自然と体が揺れました。


ビジネスの裏側にある本気
「エシカル」という言葉の入り口は、やはり「知る」ことにあります。今回のイベントで特に興味深かったのは、普段の生活ではなかなかスポットライトが当たることのないBtoB企業の「課題や解決への挑戦」を数多く知れたことです。
一見すると、自分たちの暮らしとは直接関係がないように思える企業の技術や解決策かもしれません。しかし、そんな展示を見ているうちに、「じゃあ自分の仕事ではどうか? 普段の生活で生かせることはないか?」と自分自身の生活を考えるきっかけを与える、そんな場になっていました。
どの企業も、課題に誠実に向き合い、同じ持続可能な社会に向けて、着実に自社の取り組むべきことを進めている様子がとても印象的でした。BtoBのビジネスを「生業」とする船場と博展が、あえて一般生活者向けのイベントとしてこれを開催したからこそ、普段は見えにくい「ビジネスの裏側にある本気」が伝わってきたのだと感じます。
こうした体験を通して心に生まれた小さな「気付き」が、日々の暮らしの中でちょっとした変化を生み、一人ひとりのアクションになり、大きな循環の輪となって、私たちの街をより豊かなものに変えていく。そんな未来への手応えを感じさせてくれる1日でした。
松浦 緑子
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 パートナー
2020年〜2025年までSB JAPANのイベントディレクターとして携わる。現在は、イベント会社の広報に携わる傍ら、SB-Jのほか、サステナビリティ・エシカルを軸に活動中。アウトドアが趣味。














