• 公開日:2025.12.18
世界の潮流を先読みして企業戦略を磨く――第4回SB-Japanフォーラム
  • 眞崎 裕史

企業のサステナブル戦略を支援し、議論と実践の場を提供する法人コミュニティ「SB-Japanフォーラム」の本年度第4回が2025年11月26日、東京都内で開かれた。今回のテーマは「Global」。海外で開催された2つの国際会議の報告を中心に、世界のサステナビリティの潮流を読み解き、企業戦略を磨くための視点が共有された。

「上流」を見て規制を先読みする

フォーラム本編の前半では、SB国際会議サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏が「IUCN WCC報告 世界は何を目指しているのか?」と題して講演した。足立氏は、4年に一度開催される国際自然保護連合(IUCN)の世界自然保護会議(WCC)が、数年後の条約や規制の先行指標になると指摘。「川の下流で流れてくるものを待つのではなく、上流を見ることで規制を先読みする」重要性を解説した。

足立直樹氏

今年はそのWCCの開催年であり、足立氏はアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで10月に開かれた会議に参加した。今回、投資家がメインプレイヤーとして参入し、産油国であるUAEが開催地となったことで「エネルギー転換」と「自然」の統合が大きなテーマとなったという。会議で採択されたアブダビ宣言では、ビジネスに対して「再生型経済(Regenerative Economy)への移行」と「自然破壊的な活動からの資金の引き揚げ(Divestment)」が要請された。

さらに足立氏は、企業活動に直結する重要な動きとして、IUCNが発表した新たなアプローチや基準を紹介。社会課題解決に自然の力を活用する「NbS(Nature-based Solutions)」の国際基準第2版や、企業のネイチャーポジティブな成果創出を支援するツール「RHINO(ライノ、Rapid High-Integrity Nature-positive Outcomes)」が発表され、これらが今後の投融資の条件になる可能性に言及した。また、サプライチェーン上の大規模な環境破壊行為を国際的な刑事法の領域とみなす「エコサイド(環境殺害)」の認定に関する決議が採択されたことにも触れ、企業経営のリスクが「ソフトロー」から「ハードロー」へとシフトしている現状に警鐘を鳴らした。

増田典生氏(右)

ゲストスピーカーとして登壇した日立製作所の増田典生氏は、自社のグローバルなサステナビリティ体制を紹介。海外売上比率や外国人従業員が6割を超える現状を踏まえ、各地域のヘッドクオーターが連携して課題に取り組む体制を構築していると述べた。増田氏は「ビジネスの波はアメリカから来るが、規制の波はヨーロッパから来る」と指摘し、双方の動向を注視する重要性を強調した。

サステナビリティ・リーダーの4つの役割

本編の後半は、SB国際会議アカデミック・プロデューサーの青木茂樹氏(駒澤大学教授)が「サステナブル・ブランド国際会議 2025サンディエゴ」(2025年10月)の参加報告を行った。青木氏は、米国で一部見られる「グリーンハッシング(サステナビリティへの取り組みを公に語らない姿勢)」の動きに触れつつも、CEOの97%が持続可能性を中核戦略に組み込むことを期待している、という調査結果を紹介した。

青木茂樹氏

続いて、セッションで印象に残った3つのテーマを取り上げた。1つ目は「計画的陳腐化から計画的循環性へ」。Hondaの事例などを挙げ、製品設計の段階から修理や再利用を前提とした循環型モデルへの移行が進んでいることを示した。American Hondaの登壇者は「製品イノベーションの95%は、サプライヤーやパートナーとのコラボレーション」と語り、外部を巻き込む重要性を示唆したという。

2つ目のテーマは「消費者の行動をどう捉えているのか?」。青木氏は、米国でもサステナビリティを意識した購買行動が増加している、とする調査結果を紹介。特に、企業の透明性や誠実な姿勢が消費者の支持を集める事例として、洗剤ブランドの「セブンスジェネレーション」を取り上げた。同社はScope3の温室効果ガス排出量の削減など、「目標未達」でも正直に公開する姿勢などが評価され、購買したいブランドとして名前が挙がっている。

最後のテーマは「サステナビリティ・リーダーシップ・フレームワーク」。P&GのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)が提唱するサステナビリティ・リーダーの4つの役割として、「触媒(Catalyst)」「連携構築者(Coalition Builder)」「体系化者(Codifier)」「文化の維持者(Culture Keeper)」を紹介。組織内外に影響を与え、ステークホルダーを結集し、理想を実行可能な戦略に落とし込み、サステナビリティを推進する文化を根付かせることがリーダーの使命であると解説した。

理想の実現に向け“青黒い”人間に

グループディスカッションでは、参加者から活発な意見が交わされた。海外の情報収集におけるハードルとして、言語の壁だけでなく「サステナビリティは新しい文化であるため、言葉の定義や背景が分からないと英語が話せても理解が難しい」といった声が上がった。また、情報収集の手段として「有識者やその団体のSNSをフォローすれば、こちらにも情報が入ってくる」といった実践的なアイデアも共有された。

サステナビリティ・リーダーとしての役割について、増田氏が「ESGはどこか青くさい。それを実現するためには、いい意味で“腹黒く”立ち回る必要がある」と述べた上で、「“青黒い”人間になることが必要だ」と語った。参加者からは「サステナビリティ担当だけは、マジョリティにおもねらない気持ちでやっていかないと、どうしても大きい方に引っ張られる」「理想論だと言われても言い続けることが大事」といった決意が語られ、各社が直面する課題を乗り越えようとする姿勢を共有した。

本編に先立ち、2つの分科会を開催した。SSBJ(サステナビリティ基準委員会)分科会では、QUICK ESG研究所フェローの山本高嗣氏をゲストに迎え、SSBJ基準を企業価値向上にどう活用するかについて議論が行われた。マーケティング分科会では、生活者をサステナブルな社会へ誘う事業構想をテーマに議論。顧客像を具体的に設定する「ペルソナ分析」を用い、ターゲットとなる生活者の価値観やライフスタイルを深く理解し、製品やサービスをいかにフィットさせていくかについて意見交換した。

次回のSB-Japanフォーラムは2026年1月20日、「地方創生」をテーマに開催される。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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