• 公開日:2025.11.20
第6回 SB Student Ambassador 北陸ブロック大会
三位一体で取り組むまちづくりとは 北陸の高校生61人が議論
  • 眞崎 裕史

サステナブル・ブランド国際会議の学生招待プログラム「第6回 SB Student Ambassador ブロック大会」の北陸大会が2025年11月1日、福井大学文京キャンパス(福井市)で開催された。北陸地方から10校61人の高校生が参加し、「今だからこそ、三位一体で取り組むまちづくりの在り方を考えよう」のテーマで実施。地域の課題解決に向けて、産官学の協働で何ができるのか、活発な議論が展開された。

新幹線開業を追い風に、観光で持続可能なまちづくりを

オープニングには、地元の福井県交流文化部副部長の山田輝雄氏が登壇。2024年3月の北陸新幹線福井開業を大きな転換期と捉え、観光を通じた持続可能なまちづくりについて語った。開業後、観光消費額は前年比23.5%増の1513億円、観光客数は17.6%増の2069万人といずれも過去最高を記録。この勢いを単なる交通利便性の向上に終わらせず、地域の魅力を再発見し、持続可能なまちづくりへつなげるチャンスだと強調した。さらに、自然塾の開催といった教育旅行への注力や、空き家を新たな住まいや宿泊施設として再生させる取り組みに言及し、「持続可能なまちづくりは誰かがやってくれることではなく、自分たちが作る未来だ」と高校生に力強いメッセージを送った。

大学で眠っていた技術を社会実装へ

基調講演には東海大会に続いて、岐阜大学発のベンチャー、FiberCraze代表取締役社長の長曽我部竣也氏が登壇し、自身の起業経験を共有した。大学の研究室で30年間眠っていた革新的な繊維加工技術の社会実装を決意した経緯などを語り、「失敗しながらも『しこう』を続けていく必要がある。『思考』と『試行』の両方。アイデアをまず一歩、形にしていくことにトライしてほしい」と高校生に呼びかけた。

「紙ごみゼロの福井」へ、リサイクルの意識改革を

特別プログラムでは、福井のリサイクル業界を70年以上にわたりリードしてきた増田喜の代表取締役、増田喜一郎氏が「『紙ごみゼロ』の福井を目指して」と題して講演した。増田氏は、福井県全体で廃棄物処理に年間約100億円の税金が使われている現状を指摘。そのうち約31億円が「紙ごみ」の焼却に充てられていると説明し、紙リサイクルの推進は経済面(エコノミー)と環境面(エコロジー)の両面で有効であると訴えた。

増田氏は、燃えるごみの中の紙を「紙ごみ」、リサイクルされる紙を「古紙」と定義し、言葉を使い分けることで意識改革を促した。また、自社の取り組みとして、機密文書を安全に抹消・リサイクルするサービスや、子どもたちにリサイクルの大切さを伝えるキャラクターによる出張授業などを紹介。「私たちの使命は『紙ごみゼロの福井を目指し、未来の子どもたちの笑顔を守る』こと。リサイクルという活動を通じて、思いやりの心やものを大切にする心を育んでもらいたい」と力を込めた。

「曲面印刷」技術が持つ可能性――秀峰

午後の部では、2つのテーマに分かれてワークショップを実施した。まず協賛企業による講演が行われ、その後、高校生たちがグループディスカッションと発表に臨んだ。

1つ目のテーマは「テクノロジーとものづくり」。独自の「曲面印刷」技術を持つ秀峰(福井市)の代表取締役社長、村岡右己氏が講演した。この技術は、自動車の内装部品や住宅設備、さらには眼鏡やデジタルカメラなど、さまざまな立体物へフィルムを使わずに直接印刷できるのが特徴。木目調や虹色など、多彩なデザインが可能で、トヨタの「アルファード」やスズキの「スイフトスポーツ」といった人気車種にも採用されているという。

村岡氏は、自動車業界で広く使われる塗装やフィルムによる加飾工法が抱える環境課題を指摘。「塗装はCO2をたくさん排出するし、フィルムも材料の廃棄ロスが多い」と語る。一方、秀峰の曲面印刷は、必要な部分にのみインクを転写するため無駄が少なく、従来のフィルム工法と比較してCO2排出量を40%削減できるという。この環境性能の高さから、一般社団法人環境共創イニシアチブから「先進設備」に認定されたと紹介した。

講演の最後には、電気を流す「導電インク」や、室内光でも発電する「ペロブスカイト太陽電池」など、印刷技術が持つさらなる可能性にも言及。「色や柄をつけるだけでなく、機能性も付与できるのが印刷の面白さ」と語り、「未来は誰かがつくるものではなく、皆さんで創るもの。技術とアイデアで、北陸から世界を変えていこう」と高校生たちを鼓舞した。

続いて高校生たちは、「北陸地域の価値を曲面印刷技術で創り出そう」のテーマでディスカッション。自身でデザインした印刷を工芸品に施し、土産品として持ち帰る「北陸三昧(ざんまい)印刷ツアー」や、味は良いが見た目の問題で市場に出回らない「未利用魚」にマグロなどの柄を印刷して食品ロス削減につなげる「ネタ寿司」など、ユニークな提案が相次いだ。また、薬の錠剤にアニメのキャラクターを印刷し、子どもが薬を飲みやすくするアイデアなどもあり、その独創性に、観覧した大人も舌を巻いていた。

目指すは「創造的復興」――和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会

2つ目のテーマは「復興まちづくり」。和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会でまちづくり委員会副委員長を務める奥田一博氏が、2024年正月の能登半島地震からの復興に向けた取り組みを紹介した。能登半島の中央部、七尾湾に面した和倉温泉は、震度6強の激しい揺れに襲われ、全旅館が休業を余儀なくされた。奥田氏は「過去の日本の災害史上、これだけの規模の温泉地では初めてのこと」と、被害の甚大さを語った。

奥田氏は、人口も減少し、旅館の規模も縮小せざるを得ない厳しい現実を前に、「『元に戻す』ことは衰退につながる」と指摘した。目指すのは持続可能な「創造的復興」だと力を込め、復興ビジョンのコンセプトを「能登の里山里海を“めぐるちから”に。和倉温泉」と紹介。そこには能登半島全体を巡る、世代を巡る、経済を巡らせる、温泉で体の血液を巡らせる、という多層的な意味が込められているという。

復興プランの策定に当たっては、旅館や商店だけでなく、住民参加の意見交換会「和倉トーク」や、地元の小中学生との対話も重視。「子どもたちの意見も、決して大人の真似事ではなく、実際にまちづくりに取り入れようとしている」と、次世代にバトンを渡すことができる、持続可能な温泉地づくりへの思いを語った。会場の高校生には、まだ具体的な議論が進んでいない「和倉温泉駅を基点としたサステナビリティとモビリティを考えよう」というテーマを提示。「皆さんの意見が5年後、10年後の和倉温泉の姿になる可能性がある」と述べ、高校生ならではの自由な発想に期待を寄せた。

早速ディスカッションに臨んだ高校生らは、地域資源を活用した具体案を次々に考えた。駅の待ち時間を楽しむためにSNS映えスポットや足湯を設置する案や、旅館で不要になった食器などを販売する「めぐる市」と連携したアプリ開発、海釣り公園の設置といった、観光客と住民の双方の視点に立ったアイデアが提案された。それらに対し、「この短時間で考え出すなんて、天才!」といった声も上がった。

高校生が提案する北陸の未来、斬新なアイデアが続々

ワークショップの終了後は、各テーマの議論を代表して、2チームが全体発表を行った。

「テクノロジーとものづくり」のテーマの代表チームは、秀峰の曲面印刷技術を「人」に応用する「ボディプリント」というアイデアを発表。お祭りのロゴを腕や顔にプリントして一体感を高めたり、美術館の入場チケット代わりにしたりすることで、若者の参加を促し、ペーパーレス化にも貢献できると提案した。これに対し、秀峰の村岡氏は「ものにしか印刷したことがなかったので、人にするという発想に驚いた」と笑顔で評価した。

テーマ「復興まちづくり」の代表チームは、和倉温泉の復興について多角的に提案。街のコンセプトを「和モダン」に統一した景観づくり、多様な交通手段の導入、北陸三県の温泉街が連携する合同プロジェクトなどを盛り込み、和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会の奥田氏から「そっくりそのまま実行させていただきたい」と絶賛された。

最後に、基調講演を行った長曽我部氏が再び登壇し、1日を総括した。高校生たちが短時間でアイデアをまとめ上げ、発表までやり遂げたことを「本当に素晴らしいこと。自信を持ってほしい」と称賛。その上で、「仕事とは価値を提供すること。今日皆さんが考えたアイデアが、本当に困っている人の助けになるのかを検証していくプロセスが大切になる」と、アイデアを具体的な行動に移す重要性を説いた。「今日のきっかけを経て、一歩ずつ皆さんの行動につなげていってほしい」と、未来を担う高校生たちに力強いエールを送り、大会を締めくくった。

written by

眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。

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