• 公開日:2025.11.06
2030年代前半に大量廃棄の恐れ――新政権は太陽光パネルのリサイクル義務化再検討を
  • 廣末 智子
Image credit: shutterstock

全国各地で自然景観の保護や防災などの観点から問題になっている大規模太陽光発電所(メガソーラー)の規制強化を打ち出すなど、再生可能エネルギーの中核として普及してきた太陽光発電が、高市政権下で一つの転換点を迎えている。

そうした中、2030年代前半にも寿命のピークを迎え、大量に廃棄される恐れのある太陽光パネルの回収・再資源化の体制を整えようと、複数の環境NGOのネットワークが、国にパネルのリサイクル義務化を改めて求める署名活動を始めた。

太陽光パネルのリサイクル義務化は、2025年通常国会で法制化する方向で検討されていたが、8月に見送られた経緯がある。署名活動は、新政権に対し、法制化の再検討を働きかけるものだ。

仕組みを整えれば、廃棄が「資源循環」になる可能性も

経済産業省と環境省などの推計によると、太陽光パネルの廃棄量は、10kW以上の事業用太陽光発電設備を対象とするFIT制度の買い取り期間が終わる2030年代前半に急増し、2040年ごろには年間40万トン規模に達する見込みだ。現状の自治体や専門業者による産業廃棄物の処理体制では対応が追いつかず、このままでは多くのパネルが埋め立て処分される恐れがある。

国の「第6次エネルギー基本計画」の導入目標をもとに推計された使用済み太陽光パネルの排出量予測 出典:経産省、環境省「太陽光発電設備のリサイクル制度のあり方について」

太陽光パネルは発電効率を高めるため、カドミウムや鉛などの有害物質を含む場合があり、環境汚染や災害時の飛散リスクも指摘されている。一方で、アルミやガラスに加え、シリコンや銀、銅などの再利用可能な資源も多く含まれる。回収・リサイクルの仕組みを整えれば、廃棄問題を「資源循環」の機会に変えられる可能性もある。

もっともパネルの分解や素材の回収に高度な技術が必要で、メーカーや施工業者が自主的に回収・リサイクルを進めるには限界があるのが現状だ。こうした課題を受け、経産省と環境省は2024年から「太陽光発電設備リサイクルワーキンググループ」の下で検討を進め、2025年の通常国会でリサイクル義務化を法制化する方針をいったん固めていた。今年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画でも「義務的リサイクル制度」を含めた新制度の必要性が示されている。

政府、リサイクル費用を製造者負担から所有者の努力義務に?

しかし、政府は8月末、それまで検討してきた内容での義務化を見送った。主な理由は、太陽光パネルのリサイクル費用の負担を巡る制度設計にある。当初案では、拡大生産者責任(EPR)の考え方に基づき、メーカー(海外製造分は輸入業者)が費用を負担するとしていた。これに対し、すでにリサイクル制度が確立している家電や自動車では、所有者が負担する仕組みであることから、内閣法制局が「整合性が取れない」と指摘し、「待った」がかかったのだ。

このため政府は、メーカーによる費用負担を義務とする当初案を見直し、リサイクルを所有者の「努力義務」とするほか、大規模発電事業者にはリサイクルに関する報告を義務付ける案などを改めて検討。2026年の通常国会に提出する方向で調整を進めていると報じられている。

太陽光パネルが大量に破棄される未来を、今なら止めることができる

こうした中で立ち上がったのが、気候変動問題に取り組む国際NGOのネットワーク、Climate Action Network Japan(CAN-Japan)による署名活動だ。呼びかけ文は「太陽光パネルが大量に破棄され、埋め立て処分される未来…。今なら声をあげて止めることができるが、このままいくと現実になっていくかもしれない」と始まり、「太陽光パネルは100% リサイクル可能であり、大量に捨てられる可能性のある2030年代前半までにリサイクルを軌道に乗せる必要がある。そのために、回収体制を整備し、リサイクル事業者の協力を確保するには、パネルのリサイクル義務化が最も効果的な方法だ」と訴える。

ネットワークの構成員である国際環境NGOグリーンピース・ジャパンや同350.org Japan、同 FoE Japan、WWFジャパンなどの9団体は8月末、太陽光パネルのリサイクルを巡る政府の方針転換を受け、「日本政府に対して太陽光パネルのリサイクル義務化を求める」とする共同声明を発表していた。 今回の署名活動は、「多くの市民の声が集まれば、義務化は進むはず」とする思いから踏み切ったもので、署名サイトchange.org上で10月末に開始。11月5日時点で約2500人の賛同が集まったところだ。

新政権の姿勢と、環境NGOの主張の違いは

10月24日には高市首相が、就任後初めてとなる所信表明で、「原子力やペロブスカイト太陽電池をはじめとする国産エネルギーは重要」と強調。「GX予算を用いながら、地域の理解や環境への配慮を前提に、脱炭素電源を最大限活用するとともに、光電融合技術等による徹底した省エネや燃料転換を進める」と述べた。

所信表明の中ではメガソーラーに関しては触れていないものの、9月の自民党総裁選出馬会見などで、「外国製の太陽光パネルが国土を埋め尽くすこと」への強い反対と、「まもなく耐用年数を迎える初期型パネルの安全な廃棄は大きな課題だ」とする認識を示し、環境破壊の観点から規制強化の姿勢を強く打ち出している。

こうした新内閣の一挙手一投足を、環境NGOは注目し、言うべきことを言うスタンスで臨んでいる。

WWFジャパンは10月22日、新政権に対し「地球温暖化対策を早急に強化すること」を求める声明を発表した。この中で、高市首相が声高に主張する「メガソーラーの開発規制」に関して、WWFは「『自然保護』か『再エネ導入』かの二項対立に傾くことなく、地域の利益と再エネ導入の両立を目指すべきだ」との立場を強調。「規制にとどまらず、ソーラーシェアリング推進のための制度的・経済的措置や、屋根置き太陽光パネルの義務化、促進区域の設定支援などを早期に実施すべきだ」と訴えている。

一方で、太陽光パネルの廃棄問題については、政府と環境NGOの双方が深刻に受け止めている点は共通している。しかし、政府がリサイクル義務化を見送ったことに対し、NGO側は「パネルのリサイクルは環境負荷低減に必須であり、再エネの普及を進めるためにも、リサイクル義務化が不可欠だ」とする主張を崩していない。

一刻も早いリサイクル義務化を訴え続ける

太陽光パネルのリサイクル義務化の再検討を促す声は、新政権に届くのか――。署名活動を進めるCAN-Japan事務局の小畑あかね氏は、次のように話している。

「太陽光発電は気候危機を食い止めるために重要だが、一方でリサイクルがきちんと進むようにする必要がある。政府がリサイクル義務化の代替案として検討しているとされる『努力義務化』では、効果があるのか疑問。確実にリサイクルが行われ、コストを安くしていくためには全面義務化が必要だと考えている。太陽光パネルの大量廃棄は、“起きるかもしれない”ではなく、“このままでは起きてしまう”事態であり、この流れを変えないといけない。リサイクル義務化が法制化され、一刻も早くリサイクルの体制が整うよう、訴え続けたい」

EUでは2012年から電気・電子機器廃棄物を対象とするWEEE(Waste Electrical Electronic Equipment)指令のもと、使用済み太陽光パネルの回収・リサイクルが義務化されている。韓国でも2023年から拡大生産者責任に基づく制度が導入され、米国でも州単位でリサイクル義務化の動きが広がっているという。

日本でも、大量廃棄が現実味を帯びる期限が迫り来る中で、早急に、実効性のある制度設計と、その実装が求められていると言えよう。

【参照サイト】
・change.org
太陽光パネルのリサイクル義務化を進めてください!

・WWFジャパン等環境NGOの共同声明
日本政府に対して太陽光パネルのリサイクル義務化を求めます

・WWF声明
日本の国民と自然を守るために 高市新政権が地球温暖化を早急に強化することを求める

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

Related
この記事に関連するニュース

付加価値で精油づくり。捨てられる摘果「たんかん」を生かす、奄美の農福連携
2025.10.10
  • ニュース
  • #地方創生
  • #資源循環
肥だめの進化形?! 人間の尿など廃棄物を有効活用する最新研究
2025.10.09
  • ワールドニュース
  • #イノベーション
  • #資源循環
  • #カーボンニュートラル/脱炭素
「高度な資源循環」後押しする制度設計を――キリン、サントリーなど8社が政策提言
2025.10.02
  • ニュース
  • #サーキュラーエコノミー
  • #資源循環
  • #プラスチック
環境対応はコスト?価値? カシオ、花王、三井化学、エコマークの挑戦に見る“最適解”
2025.09.30
  • スポンサー記事
Sponsored by 三井化学株式会社
  • #サーキュラーエコノミー
  • #ブランド戦略
  • #資源循環
  • #プラスチック

News
SB JAPAN 新着記事

2030年代前半に大量廃棄の恐れ――新政権は太陽光パネルのリサイクル義務化再検討を
2025.11.06
  • ニュース
  • #資源循環
「女性首相誕生」の先に何を見るか――多様性社会の未来を問う
2025.11.05
  • ニュース
  • #ダイバーシティー
【サステナの現場から】第4回 ハーゲンダッツ、対話100%で進めるサステナブル調達
2025.11.05
  • コラム
  • #パートナーシップ
  • #サプライチェーン
埼玉・飯能の“やまねの里”で生物多様性保全を考える酒造り
2025.11.04
  • スポンサー記事
  • #生物多様性

Ranking
アクセスランキング

  • TOP
  • ニュース
  • 2030年代前半に大量廃棄の恐れ――新政権は太陽光パネルのリサイクル義務化再検討を