• 公開日:2025.11.04
埼玉・飯能の“やまねの里”で生物多様性保全を考える酒造り
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豊かな自然と多様な生態系を誇る埼玉県飯能市で、林業・農業・酒造りを通してサステナブルな取り組みを実践するやまね酒造。酒造会社という枠を超え、自然と生物多様性と共に歩む環境保全専門企業として、今、注目を集めている。代表・若林福成さんに、その独創的な活動の源泉と、未来へのビジョンを伺った。

生き物と米が結んだ酒造りへの道


「祖父母が米農家だったので、子どもの頃の遊び場はもっぱら田んぼ。物心ついた頃からオタマジャクシやザリガニ、カブトエビといった田んぼに生息する水生生物たちはとても身近な存在で、いつの間にか生き物が大好きになっていました」と、若林さんは自身の幼少期を振り返る。

「大学では水生生物の生態学を専攻し、卒業時には中学・高校の理科の教員免許も取得しました。生き物に囲まれて育ち、ごく自然に、将来は生き物に関わる仕事をしたいと思うようになったんです」

そんな若林さんが、現在の事業の形をおぼろげに描きはじめたのは20歳の頃だ。

「米農家だった祖父は、農作業を終えると毎晩、日本酒で晩酌をしながら幼い私に話してくれました。『福成、じいちゃんが好きなお酒は、お米からできてるんだよ。じいちゃんが育ててるお米からできてるんだ』と。当時は、漠然と『そうなんだ』と思っただけでしたが、発酵が微生物の働きによる化学変化だということを大学で学び、改めて生き物の力のすごさに感銘を受けたんです。そして、酒造りを通して、目に見えない小さな生き物たちの命の営みを伝えたい、と思うようになりました」

埼玉に根ざす木桶仕込みの伝統産業


現在、やまね酒造のすべての酒は、国内の日本酒製造において1%未満だといわれる希少な木桶製造で造られている。若林さんはなぜこの製造方法を選択したのだろうか。

「木桶には、目に見えない無数の微生物が住み着いています。彼らは発酵を手助けするだけでなく、お酒に複雑で奥行きのある味わいを与えます。多くの酒蔵が品質安定のために火入れを行うなか、弊社ではあえて生酒にこだわっています。“酒造りとは微生物が行うものであり、人間はその活動のサポートをさせていただいているだけ”だと考えているからです。生酒とは、酵母菌が生き続けている状態のお酒であり、味わいは刻一刻と変化します。私たちはその変化すらも美しいものだと捉え、自然や生き物に寄り添った酒造りを進めていくつもりです」

やまね酒造が使用する木桶の木材の半分は、埼玉県飯能市で生産された「西川材」だ。加えて、酒造りに不可欠な米や水も、埼玉県産にこだわっている。

「今年から、原料のお米の約半量を無農薬米にすることができました。埼玉県内で無農薬栽培を行う米農家は限られているため調達は困難ですが、土地の自然や土壌の生き物にやさしい農法を目指し、最終的には酒造りに使う全量を埼玉県産無農薬米にしたいと考えています」


信念を持って酒造りに取り組んでいる若林さんだが、その過程でさまざまな壁に直面することも。

「木桶職人の数は年々減少しており、埼玉県内には木桶職人がいません。そのため、埼玉で採れた木材を香川県小豆島まで送り、製造を依頼しているのが現状です。私はぜひ、飯能で木桶職人を復活させたいと考え、江戸時代から続く地元の林業家の方と小豆島の『木桶職人復活プロジェクト』に参加するなど、連携した取り組みを行っています。地元の森の木で木桶を作り、地元の米や水で酒を仕込み、地元で消費する。そうした一連の流れを『やまね酒造モデル』として確立し、地域資源や伝統技術の継承、そして何よりも生き物たちへの敬意を伝えたいと思っています」

恩師の言葉で出会った飯能の自然


若林さんがここ飯能市にやまね酒造設立を決めたのは、高校生の頃に出会った尊敬する昆虫学者の言葉がきっかけだ。

「当時、毎週のように通った東京・上野の国立科学博物館でカメムシの権威である友国雅章先生と出会いました。大好きな生き物たちの話を夢中でしていた私に、先生が『君が話す生き物の多くが、埼玉県飯能市にいるよ』と教えてくださったのです。酒蔵の場所を決める際、全国50カ所以上の候補地を巡りましたが、最後には、かつて先生からいただいたこの言葉が決め手となりました。先生の言説どおり、飯能市には、ツキノワグマやモモンガ、ニホンヤマネなど、多くの生き物が生息しています。樹上性のニホンヤマネが棲(す)んでいるのは、森の健全性の証。木桶を作るために適した強度の木材は、そうした健全な森でないと育ちません。彼らほど、森と酒の価値を一緒に伝えてくれる存在はいないと確信し、『やまね酒造』の名前を決めたのです」

「やまね酒造モデル」を世界へ


やまね酒造の環境保全に対する取り組みは、酒造りの枠を超えて広がっている。

「屋号の由来でもあるニホンヤマネは、私たちの活動の象徴です。現在、お酒の売り上げの一部や各種イベント開催などで得た資金を使い、飯能市内に約100個の巣箱を設置してヤマネの調査・保全を行っています。また、最近、やまね酒造の活動を体現する場所として、築220年を超える江戸時代建造のかやぶき屋根の古民家と周辺の久須美演習林を取得しました。その一帯を『やまねの里』と位置づけ、今後、新たな生物多様性保全に向けた取り組みの舞台としていきます。ニホンヤマネのほか、敷地内で見つかった絶滅危惧種のトウキョウサンショウウオや希少植物のエビネ、茅場に生息するカヤネズミといった生き物たちの保全も進めていく予定です」

彼の活動の根底にあるのは、次世代に自然や生き物の大切さを伝えるという強い使命感だ。やまね酒造では、小学生から大学生までの若い世代を対象にした自然観察会なども積極的に実施している。さらに、今後は「やまね酒造モデル」を広く一般化するべく、経済的な循環を生み出すことも目標に掲げている。

「直近では、森林セラピーなど山の恵みを体験できる高付加価値型のツアーを計画しているほか、かやぶき屋根の家を一棟貸しの民泊にして、学生さんや企業の方々が自然保全を考える場として提供していきたいです。そのほか、海外のお米を使った酒造りも計画中。売り上げの一部を現地の環境保全活動に当て、日本の伝統文化産業と海外の主食米を連携させて、世界中の生き物を守る活動につなげていけたら、これ以上うれしいことはありませんね」

【参照サイト】
やまね酒造   https://yamaneshuzo.jp/

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