
サステナブル・ブランド国際会議の学生招待プログラム「第6回 SB Student Ambassador ブロック大会」の東北大会が2025年10月4日、東北工業大学八木山キャンパス(仙台市)で開催された。東北地方の高校計22校から高校生123人が参加し、「地域産業の魅力を引き出し、若者が暮らしたくなるまちについて考えよう」という大会テーマの下、活発な議論を交わした。当日は企業や自治体による講演のほか、4つのテーマに分かれたワークショップが実施された。
東北工業大学の取り組みと宮城県の課題意識

大会は、会場を提供した東北工業大学の渡邉浩文学長による挨拶で幕を開けた。渡邉学長は、サステナビリティが世界の共通課題であると指摘し、「持続可能な未来の東北を作る」という視点の下、同大学が設置する「東北SDGs研究実践拠点」や全学共通科目「グリーンテクノロジー」「サステナビリティ入門」などの取り組みを紹介した。

続いて、宮城県企画部総合政策課の三浦周課長が登壇。「若者・女性が暮らしたくなる地域づくり」をテーマに、宮城県の人口動態を解説した。10代後半で県外からの転入が超過するものの、20代でそれを上回る転出超過に陥る現状をデータで示し、若者の定着が課題であると述べた。取り組み事例として、多様な働き方を導入して若手や女性従業員の確保に成功した気仙沼市の「斉吉商店」や、若者の起業を支援する県のコンテスト「Miyagi Pitch Contest」を紹介した。
普通じゃないことは、可能性

基調講演では、ヘラルボニーのISAI PARK店長である大田雄之介氏が登壇した。同社は「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、障害を「異彩」とポジティブに定義し、福祉を起点とした新たな文化の創造を目指す。国内外の障害のある作家とIPライセンス契約を結び、アートデータをさまざまなプロダクトや企業コラボレーションに展開。作家や福祉施設に適正なロイヤリティを還元するビジネスモデルを構築している。その結果、作家の中には親の扶養から外れて確定申告を行う事例も生まれ、「鳥肌が立つ、確定申告がある。」という意見広告で社会に問いかけた。
大田氏は「普通じゃないということ、それは同時に、可能性である」と語り、違いを排除せず、理解しようとし続ける姿勢の重要性を強調した。また、岩手県盛岡市に本社を置くことから「岩手の文化をとても大切にしている」と説明し、本社に併設された「ISAI PARK」が、障害の有無にかかわらず誰もがありのままでいられる文化発信拠点であることを紹介。「『障害者』という人物はこの世に一人もいない」と、一人ひとりが個人として向き合うことの大切さを訴え、講演を締めくくった。
続いて、昨年度の同大会に参加した古川学園高等学校(宮城県大崎市)の生徒が登壇し、「もったいないをありがとうに変えること」をテーマに活動報告を行った。家庭で使われずに眠っている文房具を回収し、必要とする施設へ寄付する「文房具バンク」の取り組みを紹介。校内アンケートで「寄付したい」という潜在的なニーズを把握した後、校内だけでなく駅や市役所にも回収箱を設置。活動は地域全体に広がり、2800点もの文房具を集めて子ども食堂など8団体に寄付できたという。この経験から「まずやってみることの大切さ」や「人と人とのつながりが力になること」を学んだと語った。
「ダム機能」を強化して若者の流出を防ぐには 七十七銀行

七十七銀行総合企画部サステナビリティ推進室の植松悠希氏は、「地域のサステナビリティ推進に向けて、私たちにできること」と題して講演した。同行の歴史や事業概要に加え、地域の最大の課題として少子化・若者流出による人口減少を挙げた。特に、大学進学時には東北に学生が集まるものの、就職を機に首都圏へ流出してしまう「ダム機能」の不全を指摘。この課題に対し、同行が地方創生の3要素「しごと・ひと・まち」の好循環を目指し、結婚相談所「77結び」の開業や若者向けシティプロモーションへの協力、スタートアップ支援など、従来の銀行業務の枠を超えた取り組みを展開していることを紹介した。
ワークショップでは、若者が定着するためのアイデアが議論され、「『アイラブ東北』をテーマに、東北出身の有名人が出演する広告動画を制作し、企業誘致やSNSでの店舗宣伝につなげる」といった提案がなされた。
地方紙だからこそできる地域活性化 福島民報社

福島民報社仙台支社長の大欠英樹氏は、「地元紙が取り組む持続可能な地域づくり」について語った。同社が新聞発行だけでなく、地域を盛り上げるための多様な活動を展開していることを説明。その中心的な取り組みが、産・学・官・民連携の「ふくしまSDGsプロジェクト」である。大欠氏は「誰一人取り残さない福島の復興、持続可能な社会、地域をつくっていきましょう」という活動理念を紹介し、出前授業や冊子発行、子どもから大人まで楽しめるイベント「ふくしまSDGs未来博」などを通じて、県民がSDGsを身近に感じ、行動するきっかけを提供していると述べた。
ディスカッションでは、「高校生が将来にわたり地元に暮らし続けたくなる地域づくり」がテーマとなり、「魅力とは『心の底から他の人に推せるもの』」と高校生自身の視点で定義し直すグループが見られた。
地域の魅力を発信して働き手を増やす マイナビ

マイナビ宮城支社の支社長、小池正徳氏は「地元で働く人を増やすためにできること」をテーマに講演した。同社が「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」というパーパスを掲げていることを紹介。東北圏の現状として、宮城県以外での転出超過や、県内大学への進学率の低さをデータで示した。大学生への調査で、地元就職を希望しない理由のトップが「志望する企業がないから」である点を指摘し、地元の企業の魅力をいかに伝えるかが鍵だと語った。その後のワークショップでは、「地元の魅力を再発見し、その魅力を伝える方法」について議論が交わされ、「高校生が企業を宣伝する大会」を企画し、YouTubeで配信して同世代に魅力を伝えるといった具体的なアイデアが生まれた。
窓の断熱から議論を深める YKK AP

YKK APサステナビリティ推進部長の三浦俊介氏は、「『窓』から考えるサステナビリティ」をテーマにプレゼンテーションを行った。日本では2050年カーボンニュートラルに向け、家庭部門で66%という高い温室効果ガス削減目標が課せられている現状を共有。住宅の省エネにおいて「窓」が極めて重要であり、夏の熱流入の約7割、冬の熱流出の約5割を占めることを解説した。
日本の既存住宅の多くで採用されているアルミサッシは、欧米で主流の樹脂サッシに比べ熱伝導率が約1400倍も高いとも指摘。窓の高断熱化は、冷暖房費削減やCO2排出量削減だけでなく、熱中症やヒートショックのリスクを低減する健康面でのメリットや、地域経済の活性化にもつながる点を強調した。ワークショップでは、「教室の場所によって体感温度が違う」という身近な課題から、グリーンカーテンの設置といったアイデアが提案された。
地域の学びを全国大会へ
テーマ別ワーク終了後は、各ワークショップの議論を代表して4チームが全体発表に臨んだ。

テーマ①「地域経済の活性化」の代表チームは、人口流出を食い止め、むしろ自分たちの地域に人が集まる理想像を「ドーナツ・トゥ・ストロー」と命名。若者にとって魅力的なイベント、出会い、仕事が不足していることを課題として、都市部の企業や店舗を誘致することを提案した。七十七銀行の植松氏は「辛らつに地域課題を指摘し、若者の仕事とプライベートの両面から考えていただけた」と拍手を送った。
テーマ②「地元メディアの使命」では、代表チームが地元に残りたいかどうかの理由を掘り下げ、「活気のあるまちづくり」と「地元の魅力発見」が必要だと発表。「魅力とは『心の底から他の人に推せるもの』」と再定義し、SNSをきっかけに実際に体験してもらうことで真の魅力が伝わるとした。福島民報社の大欠氏は、「『魅力とは何か』を高校生目線で深く掘り下げた点を評価したい」とコメントした。
テーマ③「担い手の育成」からは、「高校生が企業を宣伝する大会」を企画したチームが登壇。高校生が地元企業を取材・プレゼンし、その様子をYouTubeで配信して投票を行うというアイデアを発表した。マイナビの小池氏は、「すぐにでも実現できそうな具体的な提案。高校生が企業と接点を持つことで地元とのつながりが深まる相乗効果も期待できる」と称賛した。
テーマ④「住まいと環境」では、教室の場所による体感温度の違いという身近な問題に着目したチームが発表。夏と冬の太陽高度の違いを利用した窓の角度の工夫や、景観改善とCO2吸収を両立するグリーンカーテンの設置を提案した。YKK APの三浦氏は、「身近な問題から科学的に正しいアプローチを考えた論理展開が素晴らしい。『窓屋さんに向かって窓を減らす』というアイデアも自由で面白い」と評価した。
最後に、サステナブル・ブランド ジャパンの鈴木紳介カントリーディレクターが総括。今後の「SB Student Ambassador全国大会」への参加を呼びかけ、「皆さんが考えていること、感じていることを共有することが、これからの社会やブランドにとって価値になる」と語り、高校生の視点の重要性を強調して大会を締めくくった。
Student Ambassadorは今年で6回目の開催で、全国9都市でブロック大会が行われる。ブロック大会に参加した高校生の中から、動画選考会を経て、2026年2月開催の「サステナブル・ブランド国際会議2026東京・丸の内」内で行われる全国大会出場者が招待される。

横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。