• 公開日:2025.10.15
微生物からロボットまで――ファッション業界の未来を作る最新技術5選
  • Tom Idle
Image credit: Jon Brown, courtesy of One x One

環境負荷が大きいことでなにかと肩身の狭い思いをしているファッション業界。とはいえ近年は、消費者や規制当局、投資家からの圧力もあり、化石燃料からの脱却や循環型モデルの構築に向けて少しずつ動いている。問題を一つどころかいくつも一気に解決する注目すべき技術も誕生しており、流行の追求と環境保護を両立できるサステナブルな時代が近づきつつあるのかもしれない。(翻訳・編集=遠藤康子)

ファッション業界は水の大量消費や端切れの大量廃棄といった問題を抱え、CO2排出量は世界全体の10%に達している。しかし、変化への機運は高まっているようだ。実際、サステナブルファッションの世界市場は小規模ながらも成長中で、単なる一過性の動きではない。そこで本稿では、環境への悪影響を低減するだけでなく、トレンドに左右されず長続きが可能な、より良い仕組みの構築につながるファッション業界の最新技術を5つ紹介する。

素材全てが土に返るバイオレザー製スニーカー

Image credit: Jon Brown, courtesy of One x One

ニューヨークのファッションブランドPublic School(PSNY)とファッション工科大学の研究チームが手を結び、ほぼ微生物由来の素材だけでできたスニーカーを開発した。アッパー(甲を覆う部分)とミッドソール(アッパーと靴底の間の部分)、靴ひもは、茶を原料にした発酵飲料のコンブチャと同じ製法で微生物を培養したバイオレザー製だ。植物由来のヴィーガンレザーは合成接着剤やプラスチック添加物が使われていることが多いが、このスニーカーはバクテリアナノセルロースと植物染料、天然コルクのみでできている。

・技術的な仕組み

このスニーカーにまず必要なのは、酢酸菌と酵母からなる共生培養体(菌株)のスコービー(SCOBY)だ。コンブチャの発酵によく使われるスコービー廃棄物を地元のコンブチャ工場から調達し、糖分を与えてバクテリアナノセルロースの生成を促す。このバクテリアナノセルロースは植物由来のセルロースより伸縮性と伸張強度に優れ、フットウェアに使えるだけの耐久性を持つ。これをスニーカー型にプレスして乾燥させ成形するので、裁断の必要がなく端切れも出ない。乾燥後は、豆乳を安定剤に使ったインディゴ(藍)やアカシアの樹皮とミロバランの実から抽出した染料で染める。アウトソール(接地する靴底)には天然コルクが使われており、使用後は全パーツをコンポスト(堆肥化)にすれば、土に返っていく。

・環境意識の高い企業が注目すべき理由

微生物由来のテキスタイルは、動物由来や化石燃料由来と違って真に再生型の素材だ。このスニーカーはまだ試作段階とはいえ、培養素材が環境負荷の抑制と高機能を両立し得ること、小規模かつ実験的なコラボレーションでも生産に関するファッション業界の考え方を大きく変え得ることを証明している。食品廃棄物の再利用、無駄の削減、堆肥化を同時に実現し、循環型デザインの多様な原則を体現したこのスニーカーの先に見えるのは、プラスチックが一切ない未来だ。

カーボンネガティブな生分解性の新繊維

Image credit: Heiq

セルロースを主成分とする物質からできた新しい生分解性の紡糸、それが「アイオニーク(AeoniQ)」だ。スイスの繊維イノベーション企業ハイキュ(HeiQ)が開発したこの新素材は、ポリエステルやナイロンといった化石燃料由来の合成繊維と同等の機能性を持ちながら、プラスチックは一切含まない。しかも、カーボンネガティブな素材であることが独立したライフサイクル分析で証明されている。

・技術的な仕組み

アイオニークは資源を循環させるクローズドループ式で生産されている。水のほぼ全てを再利用し、有害な溶剤も使われていない。原料は木材パルプや農業廃棄物など光合成由来の資源で、生産工程で炭素が貯留されるため、排出量は実質マイナスだ。使用後は産業用コンポストや土壌、海水に3カ月足らずで分解される。また、合成繊維と同じ方法で染色や加工が可能で、既存の紡績工場に組み込めるため、大規模導入もしやすい。

・環境意識の高い企業が注目すべき理由

アイオニークの魅力は、環境面のメリットと実用性が両立していることだ。スコープ3排出量や化石燃料由来の繊維、マイクロプラスチック汚染の削減を迫られているファッション企業であれば、製造インフラを全面的に見直さずに環境負荷を抑えた繊維に移行する道筋が見えてくる。ポルトガルでは製造計画が進み、ヒューゴ・ボスなどのファッションブランドとも提携済みで、アイオニークが市場に出回る日は近そうだ。

衣類縫製の完全自動化で廃棄物を減らすロボット

Image credit: Silana

衣類は今も手作業での縫製が一般的で、人間の労働力に頼る状況は何十年もほぼ変わっていない。スピードとコストが重視されるファッション業界では低所得地域への生産移転が進み、結果的に労働者のウェルビーイングと環境パフォーマンスが犠牲になることも少なくない。こうした状況を打破すべく、オーストリア発スタートアップのシラーナ(Silana)が衣類の縫製工程を完全自動化するロボットシステムを開発中だ。中核製品の「SiBot」は、人間の手を全く借りずに衣類を丸ごと縫製できる。生産はより速く、地域ごとに最適化でき、廃棄物も減らせるシステムだ。

・技術的な仕組み

SiBotは、縫製工程を細分化して各作業を専用ロボットが担うモジュール式にすることで、全工程の完全自動化を実現している。手作業が要らなければ、生産地を市場近くに移動しても値上げせずに採算が取れ、排出量と廃棄物の大幅削減が可能になる。リードタイム(発注から納品までの時間)も短縮されるため、ブランドは流行に速やかに反応したり、過剰生産による余剰在庫や値下げを避けたりでき、埋立地行きのごみも減る。これにより、衣類1着当たりの排出量を最大で40%も削減できる可能性があるという。精密なロボット生産によって、大量廃棄の一大要因である不良品も出にくくなる。

・環境意識の高い企業が注目すべき理由

ファッション業界の自動化導入は珍しくない。しかし、縫製ロボットによる全自動化は、布地のやわらかさ故に実現が難しいと考えられてきた。シラーナのシステムは、サプライヤーを本国に近づけるニアショアリングや透明性の確保、廃棄物の削減といった求めに応じるための第一歩となる。カーボンフットプリントの削減、過剰在庫の解消、バリューチェーン全体の労働環境改善を目指す企業にとっては、将来的に実現可能な解決策かもしれない。受注はすでに始まっており、初出荷は年内の予定だ。より複雑な作りの衣類にも対応できるよう技術開発が進んでおり、注目すべきテクノロジーだ。

プラスチックを完全排除した高機能の培養レザー

Image credit: 3DBT

ヴィーガンレザーや合成皮革の存在感が増す一方、動物由来の皮革はその丈夫さと手触りの良さから、高級ブランド業界では今も好まれている。とはいえ、森林伐採やメタンガス排出、なめし工程で生じる水質汚染など、環境負荷が大きい。そこで英スタートアップの3Dバイオ・ティッシュー(3D Bio-Tissues、以下3DBT)が開発したのが、動物の改変細胞から培養した人工レザーだ。動物の命を犠牲にせず、プラスチックや植物由来の充填(じゅうてん)剤も使っていない。生きている馬の細胞を少量、体に負担をかけない方法で取り出して培養すると、動物由来の皮革と見た目も手触りもそっくりなレザー風の素材になる。

・技術的な仕組み

同社は組織工学の技術を活用し、およそ6週間をかけて獣皮の構造を培養する。他の人工レザーはプラスチックやセルロースなど土台となる裏基布が必要だが、同社のレザーは細胞のみで成り立っており、土台は不要だ。同社はさらに、動物由来成分を全く含まない増殖培地「City-mix」を独自開発し、特許も取得。培養肉や培養レザーで一般的に必要とされるウシ胎仔(たいじ)血清を使っていないのが大きな違いだ。畜産業の副産物であるウシ胎仔血清は高価で、倫理的な問題も叫ばれている。この培養レザーは従来のなめし工程でも、普及しつつある持続可能な新しいなめし技術でも加工が可能だ。

・環境意識の高い企業が注目すべき理由

動物由来の皮革に代わる素材は次々誕生しているが、多くは合成成分を必要とするか、機能性と耐久性が追い付いていない。これに対し、3DBTの培養レザーなら、見た目と機能が牛革並みでありながら、動物の命を守り、環境への悪影響を大幅に削減できる。レザー生産に動物も土地も不要となれば、ファッション業界の大きな排出源が2つ消えるわけだ。高級ブランドにとっても、品質を下げずに透明性があり動物実験とは無縁のサプライチェーンを模索できるチャンスとなるだろう。

回収した炭素が原料のスニーカー用クッション材

Image credit: On

スイス発高機能フットウェアブランドのオン(On)が、排出炭素を使ったシューズ用クッション材「CleanCloud」を開発した。衝撃を吸収して足を支えるクッション材と言えば、石油ベースのEVA(エチレン酢酸ビニル)が一般的だが、CleanCloudは産業排ガスから回収した炭素が原料のEVAで、世界初とされている。温室効果ガスを再利用したこの技術により、オンは気候に優しく循環性に優れた製品に向けて大きな一歩を踏み出した。大量消費される他の素材の見本となるだろう。

・技術的な仕組み

CleanCloudの製造は、産業排ガスとして発生した一酸化炭素を回収することから始まる。ビール醸造と似た次の工程では、回収したガスに特殊なバクテリアを加え、液体エタノールに変換する。そこから液体を取り除いて生成されたエチレンを重合すると、CleanCloudの完成だ。その軽さと機能性は石油ベースのEVAに匹敵する。石油から炭素を新たに抽出するどころか、すでに気候に悪影響を与えている炭素を閉じ込めるところがCleanCloudの売りである。同社は4年前からこの技術を開発しており、今後は「Cloudコレクション」と「The Rogerコレクション」などで使用されるEVA全てをCleanCloudに置き換えていく予定だ。

・環境意識の高い企業が注目すべき理由

CleanCloudは、循環素材の実用性と拡張性における大きな転換点だ。また、開発と製造面で生化学企業ならびに樹脂メーカーと提携しており、複雑なシステム同士でも手を組んで廃棄物を価値に転換できることを証明している。機能性を妥協することなく化石燃料への依存を低減したい企業にとって、回収炭素が有効かつ規模拡大が可能な原材料になり得ることは注目に値する。CleanCloudは長期的な移行に向けた一歩にすぎないが、環境に害を与えないばかりか、環境を浄化する製品が誕生する未来を示している。

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