• 公開日:2025.08.29
JICA、TICAD9でアフリカへのインパクト投資の新機軸 EPSA6の実践目指す  
  • 横田 伸治
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2025年8月20〜22 日に横浜市で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD9)。その熱気の中で、独立行政法人国際協力機構(JICA)がアフリカのSDGs達成に向けた新たなイニシアチブ「IDEA(Impact Investing for Development of Emerging Africa)」を発表した。2028年のTICAD10までに15億ドル規模のインパクト投資を目指すこの構想は、日本政府のアフリカへの資金協力方針「EPSA」の具体プランの一つとして、アフリカの持続可能な未来を官民連携で切りひらくものだ。その意義を、TICAD9で行われたテーマ別セッション「SDGs達成に向けたアフリカにおけるインパクト投資促進」の模様から、背景にある制度的進化と長年の国際連携の文脈も踏まえ、掘り下げる。 

民間を巻き込んだインパクト投資への要請 

アフリカが直面する貧困、食料安全保障、エネルギーアクセス、保健医療など、山積する課題の解決を公的資金だけで賄うことは難しく、民間投資の動員が重要となる。鍵として期待されるのが、財務的なリターンと並行して、ポジティブな社会的・環境的インパクトを同時に生み出す「インパクト投資」だ。セッションに登壇したJICA担当者は「投資を通じて社会的・環境的インパクトを創出し、SDGsの達成に貢献する。これこそが、今アフリカの開発に最も必要とされているものです」と力を込めた。 

財政難により、日本の開発協力の在り方そのものも変化している。日本の政府開発援助(ODA)は1997年度の1兆1687億円から、2025年度には5664億円に減少。公的資金の投入には限界が見え、今回のTICAD9で日本政府は、次回TICADまでの3年間におけるアフリカ投資の目標額公表も見送った。こうした背景を受けて期待が高まるのが、民間による投資や技術開発、イノベーションだ。2025年4月に改正されたJICA法は、ODAの一形態であるJICAの海外投融資の対象を拡大。より多様で柔軟な金融支援を可能にし、民間セクターとの連携を深めることで、より大きなインパクトを創出するための制度的な土台を固めた。 

「共創」と「インパクト」が核 

TICAD9でJICAが示した新たな投資イニシアチブ「IDEA」も、民間セクターを巻き込むことに重点が置かれた。その哲学は、2つのキーワードに集約される。 

一つは「共創 (Co-creation)」。国内外の多様なパートナーとの連携を前提とし、より大きなインパクト創出を狙う。立ち上げ時点での共創パートナーとして、アフリカ開発銀行(AfDB)、英国政府系開発金融のBII、三井住友銀行(SMBC)といった、アフリカで豊富な実績のある金融機関が名を連ねた。 

特にAfDBとの連携は、2005年から続く「アフリカの民間セクター開発のための共同イニシアチブ(EPSA)」の歴史に根差している。インフラ整備や民間企業支援を目的に、今回のTICAD9でも新たに第6次フェーズとなる「EPSA6」が発表された。2028年までの3年間に55億ドル規模の資金協力が行われる予定で、IDEAはこのパートナーシップの延長線上の、実践的なアクションプランと位置付けられる。 

2つ目のキーワードは「インパクト」。IDEAは、投融資額という財務的な数字だけでなく、それによって創出された社会的・環境的インパクトを可視化し、公表する。「事前に期待されるインパクトを設定し、継続的に捉え、評価結果をまとめる。そして、集計したインパクトを次回のTICADで公開する」とJICA担当者。これはJICAにとっても新たな挑戦であり、インパクト投資における透明性を重視する姿勢の表れだ。投資の重点分野として、「包摂的成長」「グリーン成長」「食料安全保障」「保健医療」の4つの戦略的な柱を設定し、アフリカの持続可能な開発に欠かせない領域へ、資金を重点的に振り向ける計画となっている。 

アフリカの有力ファンド3社への出資 

IDEAは構想だけでなく、具体的なアクションを伴ってスタート。TICAD9のセッションでは、アフリカで高い実績を持つ3つのファンドおよびベンチャーキャピタルへの出資が発表され、各社が登壇した。 

アフリカ最大級の投資ファンドの一つ、ヘリオス・インベストメント・パートナーズ共同創業者のトペ・ラワニ氏は「JICAが日本とアフリカの架け橋になるというコミットメントは素晴らしい。このパートナーシップを誇りに思う」と期待を述べた。社会課題解決を目指すスタートアップを支援するベンチャー・キャピタル、ノバスタ・ベンチャーズのマネージングパートナー、アンドリュー・カーサーズ氏は「アフリカの成長エンジンは地球にとってポジティブなテクノロジーで活用されるべきだ」と語り、気候変動分野での連携にも意欲を見せた。インパクト投資のパイオニアとして知られるアービシュカー・グループ創業者のヴィニート・ライ会長は「JICAとのパートナーシップに自信を持っている」と力強く宣言した。 

TICAD9でのセッションの様子(JICA提供)

TICAD9では、共創パートナーであるAfDB、BII、SMBC、そしてJICAの担当責任者らがパネルディスカッション形式で議論も行った。「開発金融機関の役割は、民間資金を呼び込む『触媒』となること」「アフリカに投資しないことにはコストが伴う」といった指摘のほか、国内金融機関の視点からは、近年、AfDBやコートジボワール政府が日本市場で発行した「サムライ債」のアレンジを例に挙げ、「新しいタイプの投資家をアフリカに連れて行きたい」との意欲も示された。 

課題を乗り越えるためのプラットフォーム 

一方で会場からは、アフリカが直面する根深い課題も指摘された。一つは、アフリカの国内投資家の不在だ。ケニアから来日したという参加者は「アフリカの成長ストーリーに、なぜアフリカの投資家が参加できていないのか」と問題提起。また、投資における構造的な不均衡も指摘された。女性起業家や地方のスタートアップなど、本当に資金を必要としている層に届かず、一部の成功した企業に資金が集中する現状への懸念が示された。パネリストたちは、投資判断におけるジェンダーレンズの導入や、意識的にマイノリティが経営する企業へ資本を振り向けるなど、構造的課題に真摯に向き合っている姿勢を強調した。 

さらに、為替リスクという実務的な障壁もある。民間投資家にとって最大の懸念の一つであり、これに対する実践的な解決策が求められた。各機関とも、この問題の重要性を認識しており、現地通貨建てでの融資や、為替ヘッジ手段の開発などを模索していることが語られた。 

IDEAの「共創」の枠組みは、まさにこうした複雑な課題に、多様な知見を持ち寄って挑むためのものだ。JICA法の改正による機能強化と、AfDBとEPSAに代表される長年の国際連携という二つの流れに沿った、日本の開発協力の具体プランIDEAは、アフリカの持続可能な未来を創造するための、より包括的で実践的なプラットフォームとなる。15億ドルという目標は、あくまで一つのマイルストーンに過ぎず、その先にある、質の高い成長と、一人ひとりの人間の安全保障の実現に期待したい。 

written by

横田 伸治(よこた・しんじ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者

東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。

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