• 公開日:2025.08.01
キリンと東大、商品原料を生産する紅茶葉農園のウェルビーイング可視化へ 
  • 廣末 智子
スリランカの紅茶葉農園で働く人たち(2018年3月撮影、キリンホールディングス提供) 

キリンホールディングスと東京大学大学院は、「午後の紅茶」などの原料を生産するスリランカの紅茶葉農園への支援活動が、現地で働く人のウェルビーイングにどう影響するかを可視化する研究を始めた。商品を開発する企業が、原料生産地の自然や労働環境の改善に積極的に関与する責任が増す中、環境面、人権面ともにより丁寧なアプローチを行うことで、経営の軸に据えるCSV(社会と共有できる価値の創造)の推進につなげる。 
 
気候変動や水源地保全、生物多様性など、環境課題への統合的なアプローチを実践する、キリンホールディングスの新たな一歩とも言える取り組みだ。 

2013年から農園の認証取得支援を継続

同社によると、現在、日本に輸入されている紅茶葉の約4割がスリランカ産。そのうち約2割が、同社が1986年から販売し、国内の紅茶飲料の中でもシェア1位を占める「午後の紅茶シリーズ」に使用されているという。 

そうした中、同社はこれまで、スリランカ農園に対するさまざまな支援を続けてきた。 CSV本部を立ち上げた2013年からは、スリランカの各農園が社会と経済、環境の全てにおいて持続可能な手法を用いて紅茶葉を生産していることを第3者機関が保証する「レインフォレスト・アライアンス認証」の取得を支援。2023年末までの累計で、スリランカ全土の94の大農園と629の小農園が同認証を取得するまでになった。 

さらに2024年12月からは、同アライアンスと共同で開発した環境再生型農業への移行を促進するツールの運用を通じて、主に小農園における、土壌の健全性や農園内の生態系の保全と回復、農園で働く人々の生活向上を促進する方法を提示するなど、細やかなサポートに力を入れる。 

またこの間、同社は2022年7月発行の「環境報告書2022」の中で、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が提唱するLEAP (Locate:発見、Evaluate:診断、Assess:評価、Prepare:準備、の頭文字)アプローチに基づき、スリランカの紅茶農園を含む自然資本の開示を世界で初めて試行するなど、グローバルな情報開示への対応をリードしてきた経緯がある。 

人権などに関する情報開示も関心高まる

スリランカの紅茶葉農園の直近の風景(2025年6月撮影、キリンホールディングス提供) 

今回の共同研究は、これまでの支援活動が生産地にもたらしたインパクト評価をより丁寧に行うべく、2025年から2027年までの期間で実施。具体的には、スリランカの紅茶農園で働く人たちのウェルビーイングの向上に寄与する要因を明らかにすることによって、企業活動がサプライチェーンの上流のステークホルダーに及ぼしている影響を解明する。実際の調査や分析は東京大学大学院新領域創成科学研究科の国際協力学専攻・森川想講師の研究グループが、現地の研究機関とも連携しながら担当する。 

同研究グループは、2010年から、スリランカの社会とコミュニティに関する研究を進め、経済的基盤の脆弱(ぜいじゃく)な同国社会に対する日本企業の貢献について関心を持つ中で、「キリングループのCSV活動の成果を詳細に検討する」という今回の問題意識に賛同し、共同研究への参画を決めたという。 

足元では、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)、TNFDに続く第3の情報開示の枠組みとして、サプライチェーンの上流に位置する労働者らの人権問題などを可視化するフレームワークであるTISFD(不平等・社会関連財務情報開示タスクフォース)のイニシアティブが2024年9月に設立され(2026年末にも初版の開示基準を公表予定)、世界的な情報開示の枠組みが拡大。今後は気候変動、生物多様性に加え、社会関連情報の開示に対する世の中の関心が高まることが想定されている。 

「自然と人に“ポジティブインパクト”を与える」 

また同社は今年5月、世界の自然保護団体や企業などでつくる「Nature Positive Initiative(NPI)」主導の、TNFDとともに企業活動の自然への影響を定量的に分析するパイロットテスト参画企業として認定を受けた。このため、今回の共同研究でも、スリランカの紅茶農園をフィールドに、ウェルビーイングに加え、ネイチャーポジティブの観点からも調査を進める。 

自身も現地を訪れ、生産者との対話を重ねている、同社CSV戦略部の美鳥佳介氏は、東大大学院との新たな共同研究について、「持続可能な原料生産に向けて、紅茶農園で働く人たちのウェルビーイングの向上につながる取り組みをどのように展開していったら良いのかを丁寧に探っていきたい。自然の恵みを原材料に、自然の力と知恵を活用して事業活動を行う企業グループとして、サプライチェーンに関わる全ての人々とともに、自然と人に“ポジティブインパクト”を与えるための取り組みを積極的に進めていきたい」と話している。 

written by

廣末 智子(ひろすえ・ともこ)

サステナブル・ブランド ジャパン編集局  デスク・記者

地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。

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