
医薬品などを扱うツムラが2021年に立ち上げた「#OneMoreChoice プロジェクト」 。生理やPMS(月経前症候群)のつらさを我慢しなくていい社会を目指し、これまで社内外でさまざまな活動を行ってきた。その新たな企画として、7月24日から27日までの4日間、丸ビル1Fのイベントスペース「マルキューブ」(東京都千代田区)で「違いを知ることからはじめよう展」が開催された。生理やPMSがもたらす身体的・精神的な症状を、マンガや音声、疑似体験を通して「自分ごと」として捉える体験型の展示だ。一人ひとり異なる生理やPMSの症状への理解を深める、重要なきっかけ作りの場となった。
「知ってもらいたい」と「どうすればいいか分からない」
#OneMoreChoice プロジェクトは、ツムラが2021年3月の国際女性デーに合わせてスタートさせた、生理などに関する課題解決を目指す取り組みだ。発足当初から、女性が心身の不調を我慢して仕事や家事をすることを「隠れ我慢」と定義。「隠れ我慢のない社会」を目標に、企業向けの研修プログラムや生理症状を可視化するプロジェクトなど、社内外で取り組みを展開してきた。
今回の「違いを知ることからはじめよう展」は、プロジェクト5年目にあたる2025年に新たに実施した「生理に関する意識と実態調査」で明らかになった課題意識から生まれた。全国の20代〜60代の男女3000人を対象としたこの調査では、生理を経験したことのある女性の57.9%が「生理・PMSに伴うつらさが日常生活に影響する」と回答。さらに、56.8%が「周りから理解されにくい症状がある」と感じている実態も明らかになった。


特筆すべきは、「生理・PMSについて、人によって症状やその度合いなどつらさが違うことを知ってもらいたいと思うか」という質問に対し、日常生活に影響があると答えた人の実に91.9%が「知ってもらいたい」と回答した点だ。一方で、周囲の人々も決して無関心なわけではない。生理・PMSでつらそうな人に対し、「サポートしたいが対応の仕方が分からない」と感じている人は、男性で82.2%、女性でも70.5%に上る。
この「知ってほしい」という切実な願いと、「どうすればいいか分からない」という戸惑いの間に存在するギャップを埋めるために今回の展示が企画された。目に見えず、かつ個人差の大きい生理・PMSに伴う症状や日常への影響を、五感を使いながら体験し、理解を深めることが目的だ。
多様な症状を可視化・体感する4つのエリア
企画展は、①イントロダクション、②気づく、③想像する、④向き合う、という4つの展示エリアで構成された。
「②気づく」のエリアでは、日常に潜む「隠れ我慢」を視覚と聴覚から可視化する。俳優の井桁弘恵さんやマリウス葉さん、動画クリエイターのくまみきさん、あざみ夫婦さんが協力した「日常の『副音声』」と題した展示では、一見いつも通りに見える写真の前に立つと、登場人物が抱える心の内が音声で聞こえてくる。また、SNSメディア「モアドア(MOREDOOR)」と共創したマンガでは、同じ出来事を登場人物それぞれの視点から描くことで、思いのすれ違いや本音を知るきっかけを提示した。
続く「③想像する」のエリアは、展示の核となる体験型コンテンツが充実。ここでは、生理・PMSの症状であるだるさ、眠気、集中力の低下などを疑似体験できる。例えば「倦怠(けんたい)感ですこし歩くのも疲れるコート」は、ずっしりとした重りが仕込まれており、体が重く、思うように動かせない倦怠感を再現する。実際にコートを着用した参加者からは、「想像以上に重くて動きづらい」「背中をまっすぐ伸ばすのがつらい」といった驚きの声が上がった。他にも「身体が重だるくて起き上がることが難しいベッド」や「眠くてどうしても目を開けていられないミラー」など、当事者の声から作られたユニークな展示が並ぶ。

さらに、医療テック企業のリンケージの協力のもと、生理痛を疑似的に体験できるVR体験装置「ピリオノイド」も設置された。腹部に貼ったパッドから電気刺激を送り、子宮が収縮するような痛みを再現する装置だ。性別や年齢を問わず多くの来場者が列を作り、生理に伴う身体的なつらさの一端を体験することで、その症状が日常に及ぼす影響への理解を深める場となった。
「隠れ我慢」のない社会へ、それぞれの選択肢を見つける

展示初日の7月24日には記者発表会が開催され、ゲストとしてモデル・タレントの池田美優(みちょぱ)さんが登壇した。企画展を体験した池田さんは、「素晴らしい企画。『隠れ我慢』の実態がもっと知られるような社会になってほしい」とコメント。自身の経験も踏まえ「人によって症状が違うことを多くの人が知ることで、自分のつらさを言いやすく、周りにも理解されやすい環境が作れるのではないか」と展示内容に強く共感を示した。
同じく登壇したツムラの宮城英子・コーポレート・コミュニケーション部コミュニケーションデザイン課長は、「#OneMoreChoice」というプロジェクト名には「我慢に代わる選択肢」という意味が込められていると説明した。展示でも、最後のエリア「④向き合う」は、来場者一人ひとりが自分に合った「我慢に代わる選択肢 = OneMoreChoice」を考え、カードに書き込んで共有するコーナー。自分や他者の選択肢を知ることで、視野を広げるヒントを得る場となった。宮城氏は、「この展示を通して、それぞれの立場で我慢に代わる選択肢を見つけることが、誰もが心地よい社会に近づく一歩となれば幸いです」とビジョンを語った。
一人ひとりが自分にとっての#OneMoreChoiceを考え、実践できる社会へ。大きな話題を呼んだ今回の展示は、その実現に向けた大きな一歩となったはずだ。
山口 笑愛(やまぐち・えな)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 インターン
ミネルバ大学在籍中。ユースコミュニティ「nest」に参加したのがきっかけで、高校1年生からSBに関わる。今はファッションと教育を主軸に、商品制作、メディア、イベント企画を通して発信活動中。