• 公開日:2025.07.18
特別企画「オープンセミナー」でサステナビリティを学ぶ
  • サステナブル・ブランド ジャパン編集局

ビジネスと社会の再生に向け、革新的な突破口を探った「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」。エリア内を会場にした展示や多彩なセミナーを通じ、サステナビリティに関する学びや発見につなげる「OPEN SEMINAR & EXHIBITION」が同時に開催された。ここでは、サステナブル・ブランド国際会議の特別企画として開催されたオープンセミナーと、最終日のBoF(Birds Of A Feather、懇親会)の様子を報告する。

店舗オペレーションと脱プラを両立

気候変動が加速し続ければ、コーヒー豆やジャガイモなど、身近な農作物の生産に一層の影響が出ることは避けられない。「手軽にハンバーガーを食べることができない時代が到来するかもしれない。人口減少による労働力不足も喫緊の課題。SDGs、ESGへ注力することは事業存続とイコールだ」。ファシリテーターの合同会社波濤代表の玉木巧氏は冒頭、マクドナルドがサステナビリティに取り組む本質を示し、セッションをスタートさせた。

日本マクドナルド サステナビリティ&ESG部マネージャーの飯澤雄三氏によると、同社は2030年までに温室効果ガス排出量を50.4%削減(2018年比)する目標を掲げており、2024年時点で21.3%の削減を達成している。飯澤氏は、再生可能エネルギーの導入や店舗設備の改善にもついても紹介。プラスチックの削減については、同社ストラテジックソーシング部マネージャーのアダム由香利氏が「カトラリーやサラダカップなどを、2025年末までに順次プラスチック製から紙製などへ移行している」とロードマップを示しながら説明。店舗オペレーションとの両立を図りながら推進する、と力説した。

同社は全国に約21万人のクルーを抱えている。サステナビリティ&ESG部の儀賀柚奈氏は「働きがいをすべての人に」を実現すべく、外国人や障がい者の雇用、独自の人材育成システムなどを整備していることを挙げた上で「女性活躍の支援に加え、男性の育休取得へのアプローチや店舗・サプライチェーン全体の人権尊重を通し、引き続きDEIの推進に取り組む」と意欲を見せた。

生活者の防災意識、どう高めるか

防災や減災をテーマとした本セミナーでは、各メーカーと防災専門家の視点から、生活者の防災意識を高める方策などが提案された。ファシリテーターを務めた博報堂の吉田啓一氏は冒頭、「世界で発生するマグニチュード6.0以上の地震の17.5%が日本で発生している」と指摘。気候変動による自然災害の増加を踏まえ、さらなる備えの必要性を強調した。

ミサワホームの商品・技術開発本部技術部担当部長の秋元茂氏からは、南極基地で活躍する「かぐやプロジェクト」と題する移動基地ユニットの開発や、災害時に仮設住宅として展開可能なグランピング施設の事例が紹介された。日本製紙クレシアのマーケティング総合企画本部マーケティング部部長の長谷川敏彦氏は「『いつも』の選択が『もしも』の備えになる」とし、長持ち・コンパクトなティッシュペーパーやトイレットペーパーなど、同社が展開する日用品を通した防災対策を紹介した。

防災アナウンサーの奥村奈津美氏は、仙台の放送局で経験した東日本大震災をきっかけに、被災地支援活動や防災教育に取り組んでいる。それらの活動を紹介した奥村氏は「気候変動による災害の激甚化が進む今、緩和と適応が求められる。二酸化炭素の排出量を削減するために、家庭の電力を再エネへ切り替えることから始めてほしい」と訴え、電力シフトの必要性を呼びかけた。

「職場の声」が社会を動かすアクションに

「豊かな共生世界の実現」をパーパスに掲げる花王は、ESG戦略「Kirei Lifestyle Plan」のもと、2022年から「職場のロリエ」プロジェクトをスタートした。職場のトイレにおけるナプキンの備品化を目指すこのプロジェクトは、導入企業に対し、ナプキンを入れるボックスと生理を理解できる研修動画コンテンツを提供。企業側はナプキンを購入してボックスに入れ、トイレに設置する仕組みという。

サニタリー事業部の田村優樹氏は、パフォーマンスの低下など、月経随伴症状による経済損失は年間約5700億円に上るとのデータを紹介しつつ「職場のロリエは、職場の声から生まれたプロジェクト。企業の職場環境の改善を後押しできれば」とプロジェクトの背景や狙いに言及。導入企業が360社を超えた(2025年2月時点)ことに触れ、「誰もが安心して働くことができる職場づくりへのムーブメントを起こしたい」と語った。

またESG戦略部マネージャーの棚橋弘枝氏は、この取り組みを「ESG戦略に沿ったパーパスドリブンなアクション」と説明。「こうした取り組みを企業で成立させるには、社会課題の解決に取り組みながらビジネスも成長させられるプロジェクトにすることが大事だ。今後、社会を動かすアクションが世の中に広がれば」と期待を込めた。

自然の回復が事業機会やリスクに

三井住友フィナンシャルグループは2024年5月、神奈川県伊勢原市で220ヘクタールの森林を取得し、「SMBCの森」と名付けた。同社は経済と社会の両面から企業価値の向上を目指しており、5つの重点課題(マテリアリティ)を設定。環境課題については、トランジションの支援を通じた脱炭素社会の実現と、自然資本の保全・回復への貢献を掲げている。SMBCの森は、環境省の「自然共生サイト」に認定された生物多様性に富んだ地域で、同社は森林由来のクレジットの創出や環境教育プログラムの実施、バイオマス発電や間伐材等を活用した森林業の活性化などに取り組んでいる。

セミナー後半では、日本の林業の現状や課題などを議論した。多くの自治体で林業の新規部門立ち上げに関わる、かたばみ緑化造園本部山林部次長の塩塚真吾氏は「森林は誰のものか」と問題提起。森林には、私的側面と公共的な側面の両方があると指摘し、「実験の場」として「SMBCの森」の取り組みに期待した。NPO法人・日本森林管理協議会(FSCジャパン)の三柴ちさと氏はEUDR(欧州森林破壊防止規則)を紹介した上で、「自然を維持するために企業が何をしているのか。そういったことを公開しないと、企業は今後、信用されなくなるのではないか」と指摘した。

三井住友銀行管理部開発グループ、グループ長の進藤晃氏は「SMBCの森」に関連して、「伊勢原自然塾」など環境教育の取り組みを紹介。最後に、三井住友フィナンシャルグループ社会的価値創造推進部の副部長、松岡哲也氏は「(自然や森林を)回復させることが、事業機会やリスクに直結するようになってきている。SMBCの森というローカルな活動がグローバル問題を考えるきっかけになり、実際の取り組みからお客さまのソリューションにつながることもある」と述べ、ネイチャーポジティブの実現へさらに尽力する考えを示した。

5つのテーマで交流深める

サステナブル・ブランド国際会議のスピーカーと参加者らが交流するBoFは、「次世代共創」「平和な世界をデザインする」「プラスチック 環境・共創・未来」「サントリー『水タイムズ』」「サステナブル・コミュニケーション」の5つのテーマ別に開催された。それぞれのテーマに興味・関心が深い参加者が集まり、積極的に意見交換。飲食を楽しみながら、ブランドの垣根を超えた新たな交流が生まれていた。これら5つのBoFは、積水化学工業、80 ACTIONS、三井化学、サントリーホールディングス、Sincの協賛の下、実施された。    

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