
サステナビリティの主役は、次世代を担う若者だ。15歳から25歳の若者たちが集うサステナブル・ブランドのユースコミュニティ「nest(ネスト)」は2024年度に3期目の活動を行い、「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」で活動の経過を展示したほか、2日目のランチセッションでは第3期のメンバーたちが活動を報告。企業や自治体とのネットワークを持つサステナブル・ブランドの中で、若者たちが何を考え・感じ・実行してきたのか。本記事では、メンバーたちの思いの込もった活動報告をレポートする。
Day2 nest(SB Japan Youth Community)第3期活動報告 登壇者 足立萌愛美・nestプロデューサー 関西大学 政策創造学部 植原誠一郎・nest 第3期メンバー 井野嵩才・nest 第3期メンバー 広島大学 総合科学部 佐藤凛・nest 第3期メンバー |
nestとは:課題と自分を探求する次世代共育プログラム
nestのビジョンは「課題と自分を探究する思考力を身につける」ことだ。活動は、社会課題への理解を深める「社会問題探求」と、自分自身を見つめ社会との関わり方を探る「自己探求」の2つの軸で展開される。第3期は多様なバックグラウンドを持つ約20人のメンバーが、オンラインも活用し全国・海外から参加。多くの企業・団体の協力の下、活動が行われた。
今期のnestでは特に、「立案・実行・評価・改善」というサイクルを社会課題をベースに回すことを重視。活動を大きく「社会問題探究」と「自己探究」に分け、このうち前者では、テーマごとに専門家との対話を交えながら現状と理想のギャップを問題として捉え、その解決策を模索するワークが行われた。例えば「サステナブルフード」を題材とした回では、日本サステイナブル・レストラン協会からIUU(違法・無報告・無規制)漁業の問題が提起された。また「ジェンダー・セクシュアリティ」回には一般社団法人fairの松岡宗嗣氏を招き、「LGBT差別禁止法」の制定を目指すことを仮定し、市民の声と政治のギャップを感じながら、署名を集める方法などを検討した。
また「自己探究」のワークでは「どの部分で自分が社会に貢献できそうか、貢献している時にワクワクするか」を考えた。興味関心や強み弱みを書き出し、仲間との対話を通じて新たな気づきを得たり、日々の感情の動きを可視化し、自己理解を深めるワークが行われた。
自分なりのアクションで、社会実装に挑む

こうした活動の中で学んだことを生かし、年度の後半では自ら関心のあるテーマに対する独自のアクションの企画・実行に挑戦した。サステナブル・ブランド国際会議での活動報告では、第3期で生まれた6つのアクションのうち3アクションから、推進メンバーらが登壇。年間のプロデューサーを務めた関西大学政策創造学部の足立萌愛美(もなみ)氏のファシリテーションで、各取り組みの概要が披露された。
関係人口の質を問い直す

植原誠一郎氏は、東京都檜原村を舞台に、関係人口創出を目指したアクションを紹介した。第2期の活動では村の祭りでZ世代向けの企画を実施し、多くの参加者を集めたが、表面的な交流にとどまっている課題感が残り、プロジェクトを継続したという。村の店舗へのインタビューから「檜原村の水質悪化」という新たな課題を発見し、水問題にも目を向けた。檜原村が山の水を利用しており、近年の気候変動による水不足の可能性がある一方で、その「不便さ」が住民の絆を生んでいることを学んだという。植原氏は、「本当の関係人口とは、その土地の暮らしを受け入れること。ファンを増やす『交流人口』ではないと気づいた」と語り、今後は「暮らしを受け入れる」ための体験プロジェクトを展開するとした。
需要創出で技術革新を後押しする水素キッチンカー

井野嵩才(たかとし)氏は、「水素社会の実現に何が必要か」をテーマに活動。水素の多様な可能性を認識しつつも、「需要が小さいために供給への投資が進みにくく、コストも下がらない」という課題に着目した。現在のグリーン水素価格に見合う潜在需要の発掘を目指し、マツダや本田技研工業などへ取材を重ねた。その中で生まれたアクションが「水素キッチンカー」だ。調理器具に使う電力の供給源として燃料電池を活用し、将来的には水素の直接燃焼による調理も視野に入れる。「消費者に近いキッチンカーを通じて、需要家が水素を身近に感じられるようにしたい」と井野氏。サステナブル・ブランド国際会議での実証実験やモデル事業化を目標に掲げる。
複雑な問題を自分ごとにする軍縮教育カードゲーム

佐藤凛氏らのチームは、軍縮・平和教育を促進するカードゲーム「核ジャン(かくじゃん)」を制作した。「核問題の本質を考え、自分ごととして捉えられるようになること」を目指した背景には、佐藤氏自身の海外経験から感じた教育への問題意識と、模擬国連参加を機に深めた核問題への関心がある。軍縮教育が十分に普及していない現状や、知識習得に偏りがちな課題を認識し、核抑止という複雑な構造や心理的ジレンマをゲームを通じて体験的に学べるように設計。学校での体験会や専門家へのヒアリングも実施した。佐藤氏は「このゲームが、一人ひとりが核問題について考え、行動するきっかけになれば」と語る。
この他にも、「サステナジレンマ図鑑」や「企業視点から見てみる移民・難民問題」、体験型展示「偏見の眼鏡を外そう展」といったアクションが生まれ、サステナブル・ブランド国際会議の専用ブースで紹介された。
第4期に向けて、価値をつなぐ
6月からは、第4期の活動も始動する。第3期活動報告の場で、足立氏は「nestには本当に多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まる。だからこそ、ここでしか出会えない仲間がいる」と強調。「何かをしたいと思っている学生が、それを実現できる場は本当に少ない。この価値をこれからもつないでいきたい」と締めくくり、今後のnestの活動と、企業や団体との更なる連携へ期待を寄せた。
nestについて詳しくはこちらから
横田 伸治(よこた・しんじ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
東京都練馬区出身。毎日新聞社記者、認定NPO法人カタリバ職員を経て、現職。 関心領域は子どもの権利、若者の居場所づくり・社会参画、まちづくりなど。