
コメ価格の引き下げが耳目を集める中、工場などから出る、食べられないコメを原料に、FSC認証パルプを組み合わせてできた紙の活用が広がりつつある。その名も、「kome-kami(コメカミ)」。名刺やパンフレット、化粧品や日用品のパッケージに使用されるほか、オリジナルのメモ帳も登場するなど、アップサイクルがアップサイクルを呼ぶユニークな素材だ。今日、5月30日はごみゼロの日――。
環境負荷低減に注力、1890年創業の老舗紙問屋が開発
kome-kamiは、1890年創業の紙問屋で、さまざまな用紙の企画販売を手がける「ペーパル」(奈良市)が2021年に商品化した。同社は2008年にFSC/COC認証を取得して以降、環境負荷低減を強く意識し、循環する素材としての用紙開発に注力。その一環で生まれたのがkome-kamiで、煎餅工場やその他の工場などでコメを加工する過程や、流通の過程でどうしても排出され、食用としては使い道のなくなってしまったコメを買い取り、原料としている。

工場などでどうしても排出される、「食べられないコメ」とはどんなコメか? 同社の5代目で、kome-kamiの開発者でもある、取締役の矢田和也氏によると、煎餅などへの加工中に破砕されて発生する、見た目は粉状であったり、「コメのかけら」のようなもので、トン数などは公表されていないものの、全国のさまざまな工場で大量に出ている。さらには猛暑などの影響で保管中のコメに虫などが発生してしまうケースも少なくない。各工場では、そうした食用では使えないが、工業用では使えるコメを廃棄物とは位置付けず、「未利用資源」と呼ぶ。その一部は飼料として活用されているものの、「とてもではないが使い切れていないのが現状」だという。
またkome-kamiは、通常、パルプに別の素材を混ぜ込んで作られる紙の多くが、接着剤として化学薬品を使用しているのに対し、そうした薬品ではなく、これも食べられないコメから作った糊(のり)を使用。さらに紙の表面にもコメ汁を加工した塗工液を施すことで、強度の高さと発色の良さを実現した。
この原料としてだけでなく、化学薬品の代替としてコメを使うことの環境負荷低減効果について、矢田氏は、「一つ一つの薬品を作るのに、化学薬品工場では、石油由来のプラントで化学結合や化学反応を起こさないといけない」という観点から、「紙の製造時に排出するCO2を、1ロット(約6トン)当たり、約104キログラム削減することにつながった」と説明する。この数字は、第3者機関として環境リサイクルセンターに検証を依頼した結果、示されたもので、約12本のスギが1年間に吸収するCO2の量に相当するという。
江戸の文化を現代の印刷技術に合った形に
元来、紙の原料には、古くからコメが使用されてきた。江戸時代にはコメを糊や紙に使う文化が花開き、浮世絵の発色を良くしたり、筆のにじみ防止にも使われ、多種多様なコメ入りの和紙があった。Kome-kamiはそうした文化にヒントを得て開発したものであり、矢田氏は、「工芸品ではなく、現代の印刷技術や加工技術に合った形に応用し、量産体制にまでもっていくところがいちばん難しかった」と開発の道のりを振り返る。
きっかけはフードバンク支援の思い 売り上げの1%を寄付
ヒントを得たのは江戸文化だが、きっかけは別のところにあった。「県立滋賀大学でフードバンクの支援をされている准教授との出会いです。日本全体のフードロスが年間523万トンにも及び(2021年度の推計値)、子どもの10人に1人が貧困に直面しているにもかかわらず、フードバンクが活動すればするほど赤字に陥っていることを知り、なんとかこれを支援する仕組みを作りたいと強く思って」と矢田氏。
そこから、「コメの力を引き出すことで、CO2とフードロスを削減し、困りごとを抱える人をサポートする、新たな循環を広げる」という目標のもとに、kome-kamiは生まれた。売り上げの1%は全国フードバンク支援協議会などに寄付する仕組みだ。
アップサイクルがアップサイクルを呼ぶ
コメ由来、固形シャンプーのパッケージに

ナチュラルで優しい風合いのkome-kamiは、商品化から約4年を経て、さまざまな企業に活用されている。当初は名刺やパンフレットなどに使われることが多かったが、最近は、お洒落でなおかつ環境配慮型のパッケージとして、お菓子などの食品をはじめ、化粧品や日用品などにも用いられ、エシカルでサステナブルな素材として注目が高まる。アップサイクルがアップサイクルを呼ぶ形だ。
例えば、2023年には牛乳石鹸が、“サステナブル視点”で開発した初のブランドとして発売した固形シャンプーとコンディショナーのパッケージに採用された。ライスオイルなどコメ由来の成分を配合した商品で、kome-kamiはパッケージの素材としてまさにぴったりだったのだろう。お馴染みの牛乳石鹸のマークを真ん中に配した、丸くてお洒落なデザインのパッケージは、「日本パッケージデザイン大賞2025」の銀賞を受賞している。
“2度おいしいおにぎり?”メモ帳komemoとは

また最近では、kome-kamiを素材とし、「CO2とフードロス削減に貢献する、2度おいしいおにぎりあります。」をキャッチコピーに、見た目にもユニークで可愛いアップサイクル文具が、大一印刷(福井市)から発売されている。同社によると、昔ながらの活版印刷機を使用し、職人が一冊ずつ手作業で印刷することで、米粒のふっくらとした立体感や、紙の表面に生まれる陰影が指先に伝わるようにしたという。
商品名はkomemo(コメモ)。キャッチフレーズのおにぎりは、「コメの魅力を伝えるため」、日の丸弁当と、三角おにぎりに見立てたデザインから取ったものだ。
こうしたkome-kamiの広がりを、開発者の矢田氏は、「年々いろいろなパッケージに採用され、知らないところでアップサイクルされているようで嬉しい」と受け止める。その一方で、「活動の芯である、フードバンクへの支援がまだまだ足りておらず、この規模を10倍、100倍と大きくしていきたい。コストとのバランスを見直し、寄付の比率を増やすことも含めて取り組んでいく」と気持ちを引き締め、前を向く。
コメの力を引き出すことで環境に配慮し、社会的な意義にもつなげる、まさに2度おいしい、サーキュラーな紙素材として、kome-kamiの挑戦は続く。
廣末 智子(ひろすえ・ともこ)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙の記者として21年間、地域の生活に根差した取材活動を行う。2011年に退職し、フリーを経て、2022年より現職。サステナビリティを通して、さまざまな現場の思いを発信中。