
サステナビリティに関するコンサルティング・調査会社、グローブスキャンの最新の世論調査によると、支持政党や世代を問わず、米国人の70%以上が企業にDEI(多様性、公平性、包摂性)や気候変動に継続して取り組むよう期待していることが分かった。(翻訳・編集=小松遥香)
グローブスキャンは3月25日から28日にかけて、米国の成人1004人を対象に世論調査を実施した。企業の社会的責任、サステナビリティへの取り組み、アドボカシー活動(社会課題を解決するために関係者に働きかける活動)に対する国民の温度感を伝える内容だ。
米国の経済、社会、政治、自然環境は劇的な変化にさらされている。そうした中、調査結果によって明らかになったのは、たとえ非協力的な政権によって逆風が吹こうとも、気候変動対策やDEIの推進に継続して取り組む企業とCEOは強力な支持が得られるということだ。それは回答者が民主党支持者でも共和党支持者でも変わらない。
今回の調査は、グローブスキャンが毎年発表する世論調査「Radar」の一環で行われたパルス調査(簡易的な調査を短い期間に繰り返す調査)。調査結果は、ESGやパブリック・エンゲージメント(大学などの研究機関がその成果を市民社会に共有すること)を取り巻く状況が困難を極める中、企業経営者には顧客との関係を築き、ロイヤルティーを向上させるための多くのチャンスがあることを示唆している。
主な調査結果を紹介する。
- 基本的な価値観は変わっていない。
環境や社会課題に対する基本的な関心や価値観は、米国の政治経済が混迷を極める中でも依然として変わらない。こうした価値観に変わりがないということは、サステナビリティへの移行を支える最も重要な基盤の一つである国民の「社会に対する意見」が失われていないということだ。
- 企業の責任あるリーダーシップに期待が高まっている。
米国の市民は、企業がサステナビリティや社会課題について正々堂々と意見を述べることを強く支持している。消費者の期待に応える姿勢と強い信念を持つ企業はこうした課題を明確に発信し、ブランドへの信頼を向上させられる可能性を秘めている。
- サステナビリティに関する市場機会は依然として非常に多い。
グローブスキャンの調査によると、米国の消費者のサステナブルな製品への関心は継続しており、企業やブランドには、消費者が自らの価値観に合った製品・サービスを購入できるように取り組むチャンスが残されている。
- 支持政党に関わらず、国民は企業に取り組みの継続を求めている。
- 調査した米国の成人の71%が企業は気候変動対策に注力すべきと回答。
- 同じく72%が企業はDEIに注力すべきと回答。
- 共和党員の56%がDEIを、58%が気候変動への取り組みを支持しており、支持政党を問わず意見が一致している。
- Z世代からベビーブーム世代、またそれ以前の世代も含めて、あらゆる世代の回答者の過半数が気候変動とDEIの取り組みを後押しすることに賛成している。
- CEOの意思表明を期待している。
回答者の過半数(共和党員の半数以上を含む)が、CEOはDEIと気候変動への取り組みを公の場で支持し、それらを促進するための対策を示すべきだと考えています。
- 気候変動やDEIにとどまらない企業のアドボカシー活動が求められている。
企業が淡水の保全や社会課題について意見を表明し、女性が人工妊娠中絶を選ぶ権利やLGBTQ+ の権利を擁護することを支持する声は多い。支持層の多くは民主党員で、無党派層や共和党員からの支持にはばらつきがある。それぞれの層に合わせたメッセージの発信が必要であることが示されている。
- 気候変動対策のための増税や物価上昇については意見が割れる。
しかしながら、共和党支持者を含むすべての層の40%以上がこうしたトレードオフに理解を示している。
- サステナブル製品の購買は増加しているものの、価格の高さは障壁のままだ。
より多くの米国の消費者が環境に配慮した製品を購入するようになっている一方で、価格の高さは相変わらず意識と行動とのギャップが縮まらない主要因だ。
- 科学・学術機関への信頼が低下している。
昨年の調査に比べ、グローバル企業に対する信頼は向上した。一方で、科学・学術界への信頼はやや低下しており、この傾向は特に女性やミレニアル世代、X世代において顕著だった。反対に、Z世代や共和党員の間では信頼が高まった。
- 抗議行動は効果的な手段だと認識されている。
抗議行動やボイコット、デモの効果に対する信頼は2024年以降、高まっている。とりわけZ世代や民主党支持者の間でその傾向があった。
グローブスキャンのクリス・コールターCEOは、「トランプ大統領が選ばれ、経済・政治的な謀略が起きましたが、サステナビリティに対する米国の世論や消費者の意識・行動には強力なレジリエンス(回復力)があります。気候変動やDEIのような課題への関与や関心は以前と変わらず、持続可能性への期待も失われていません」と話す。
今回のグローブスキャンによる調査結果は、大統領選後に行われた他の調査結果とも一致する。すでに行われていた調査でも、社会や環境のサステナビリティに取り組み続ける企業への超党派の支持があることが指摘されていた。
ジャスト・キャピタルによる第8回年次調査「米国人のビジネスに対する視点」では、以下の3点について、国民が企業に期待することが一致していた。
- 敬意と思いやり、公平性を持って、従業員や顧客に接すること。
- 製品やサービス、業務について、正直に透明性を持って顧客とコミュニケーションを取ること。
- 倫理的かつ誠実にビジネスを行い、不正があれば責任を取ること。
2025年2月に実施したキャロル・コーン・オン・パーパスとハリス・ポールの調査においても、支持政党を問わず、米国成人のおよそ半数は現政権下でも、企業が社会課題への取り組みにおいてより重要な役割を果たすことを求めていることが明らかになった。
環境に関しては、2025年2月のオセアナの調査で、米国の消費者の10人中8人がプラスチック汚染による海や健康への影響を懸念していることが明らかになった。プラスチックの生産量の削減や、企業に使い捨てプラスチックを使用した製品・食品容器を減らすよう求めることに対し、党派を超えた広い支持があった。
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