• 公開日:2025.05.26
  • 最終更新日: 2025.05.26
共創のまちづくりを知る、全国3つの事例
  • 藤本 祐子

現代社会における地域課題は複雑・多様化し、行政や企業だけで解決することは人的にも財政的にも難しくなってきている。「サステナブル・ブランド国際会議2025 東京・丸の内」と同時開催された「第7回未来まちづくりフォーラム」では「共創事例ピッチ」と題した3つのトークセッションが行われ、公民連携で広がる全国のまちづくりの新たな可能性が共有された。 

洋上風力を契機とした持続可能なまちづくり 

パネリスト

池内直人・北海道石狩市企画政策部 企業連携推進課 新産業創出担当課長 
曽根進・JTB 企画開発担当部長 

石狩市は、広大な用地などの地域資産を活用し、2010年代から太陽光や風力発電など再生可能エネルギー電源やデータセンターを集積してまちづくりを行ってきた。2024年1月には、国内2例目の洋上風力発電所が市の湾港区域内で運転を開始。今後も大規模洋上風力発電所の開発が計画され、大きなビジネスチャンスが見込まれる。 

同市の池内直人氏は「『再エネの地産地活』をコンセプトに、再エネ電力の活用はもちろん、事業の周辺に生まれたチャンスも地域の活力にしたい」と語り、洋上風力発電の開発事業者や大手ゼネコンと地元企業をつなぐ組織の結成に取り組む。地元企業が主体となる組織が、洋上風力発電の関連業務の受発注を仲介し、地域産業の発展につなげる構想だ。 

(左から)JTBの曽根進氏、石狩市の池内直人氏

構想の実現に向けて、石狩市はJTBと協働してワークショップやイベントを開催。地域企業や市民を巻き込んだ結果、「回を重ねるごとに参加者が積極的になり、自分ごと化が進んだ」と池内氏は成果を強調する。JTBの曽根進氏は「JTBの長年にわたる産官学との接点や知見の蓄積を生かし、今後はDX・GX事業や視察・教育旅行、空き家の民泊への活用などによる交流人口の拡大においても連携できる」と語り、石狩市との協働・共創のさらなる発展を期待した。 

最後に石狩市の池内氏は、「新たな『地産地活』の達成には、地域の方々を巻き込んでいくことが必要。石狩市の特性を生かして民間企業と協働・共創を行い、地域全員で推進したい」と地域一体で取り組む重要性を指摘し、JTBの曽根氏も「環境と経済の両立は難しいが、石狩市とモデルケースを作っていきたい」と意気込んだ。  

くらしに寄り添い、社会課題を解決するまちづくりを 

ファシリテーター 
本山仁プライム ライフ テクノロジーズ 経営企画部 担当部長 兼 ブランド推進室 室長 

パネリスト 
小口太郎・ミサワホーム PLT 都市開発事業本部 プロジェクト開発部 開発課 課長 
尾崎彰彦・トヨタホーム 分譲開発事業部 販売企画室 室長 
熊谷一義・パナソニック ホームズ 都市開発事業部 プロジェクト推進部 部長 
若江暁久・ミサワホーム 街づくり事業本部 開発事業部 街づくり・医療介護コンサルタント課 課長

 

プライム ライフ テクノロジーズ(PLT)は、パナソニック ホームズ、トヨタホーム、ミサワホーム、パナソニック建設エンジニアリング、松村組の5社から構成されるホールディングス会社だ。2020年に「くらしとテクノロジーの融合」による未来志向のまちづくりを⽬指してパナソニック(現パナソニック ホールディングス)とトヨタ⾃動⾞で設⽴、三井物産を加えた3社が親会社となっている。 

「デベロッパーを超えた『くらしサポート事業者』」を目指すPLT。同社の本山仁氏は事業内容について、「まちづくりを通じた社会課題解決や、持続的な暮らしの向上、まちの価値創造に取り組んでいる」と説明する。具体的には、パナソニックとトヨタ⾃動⾞が持つテクノロジーを活かした先⾏技術開発や、グループ企業の建設機能の強化、さらにサービス事業を展開・充実させるための他社協業などを展開。グループ全体でのシナジー創出のため、グループ各社の枠組みを超えた共同プロジェクトにも取り組んでいる。 

(左から)ミサワホームの小口太郎氏、トヨタホームの尾崎彰彦氏、パナソニック ホームズの熊谷一義氏、ミサワホームの若江暁久氏

こうしたPLTを構成する各社から登壇した4名のパネリストが、それぞれPLTにおけるまちづくりの事例を紹介した。 

1つ目は、病院の建て替えを機に地域活性化を実現した「ASMACI神戸新長田」。ミサワホームが病院と共同企業体を設立し、2023年、神戸市長田区の震災復興を目指す再開発用地に病院と住宅の複合施設を完成させた。ミサワホームの若江暁久氏は「マンションと防災パークを併設し、病院が医療だけでなく地域コミュニティ形成の核も担った。地域の新たなランドマークとなり、人口回復、防災機能強化、地域医療の充実に貢献できた」と胸を張った。 

次に、パナソニック ホームズの熊谷一義氏は、福島県伊達市の戸建て住宅や商業施設などの複合型まちづくりプロジェクト「Up DATE Cityふくしま」を紹介。同社は自治体や企業が参画する協議会を設置し、住宅建設からタウンマネジメントまで地元企業が行う仕組みを作り上げ、2023年にまちびらきを行った。「地元企業の主体性を高める意識改革と、その活動のフィールドの提供を通して、持続可能なまちづくりのための『仕組みづくり』に貢献できた」と熊谷氏は解説し、この手法は全国的にも展開できることを示唆した。 

3例目は、トヨタホームの尾崎彰彦氏が、産官学連携で取り組んだ埼玉県久喜市の「BLP南栗橋スマートヴィラ」を紹介。人口流出を止めるため、同社と東武鉄道は、久喜市・イオン・早稲田大学と共に、宅地開発や保育園の誘致、駅舎や遊歩道の改修、イオンの開業、さらに自動配送ロボットの実証実験などを実施した。「重要なのは、各社の取り組みを連動させ、地域の魅力向上につなげたこと」と尾崎氏は強調する。2022年にまちびらきをして以来、現在もまちの進化は続き、南栗橋エリアの人口は増加に転じたという。 

最後に、小学校跡地を活用して地域のものづくり産業を活性化させる事業について、ミサワホームの小口太郎氏が発表した。製造業が盛んな一方、産業の空洞化や後継者問題などを抱える大田区で、小学校跡地にコミュニティセンター・共同住宅兼店舗・工場アパートを設置する計画だ。同社はこうした取り組みにより、国内外の大手企業やスタートアップなど多様なプレイヤーを誘致し、試作開発段階における部品発注を区内町工場に展開、経済効果を波及させるといった「ものづくりエコシステム」の構築を目指す。また人材の交流や育成の促進、職人の生活環境の整備、防災力の強化にも取り組み、「区内製造業の持続的な操業と地域コミュニティの活性化へ貢献したい」と小口氏は語る。 

最後にPLTの本山氏は「社会課題解決は採算が厳しいが、各社が知恵を絞って取り組んでいる。競合だった各社が1つのグループとなり、多様な解決策を具体的に提案できるので、さまざまなご相談をお待ちしている」と会場に呼びかけた。  

地域が輝く宮崎市のコミュニティづくり

ファシリテーター 
田口真司・エコッツェリア協会 コミュニティ研究所長 

パネリスト 
岩見健太郎・宮崎市 総合政策部 都市戦略課 公民連携推進室 課長補佐 兼 公民連携推進室長 
杉田剛・一般社団法人宮崎オープンシティ推進協議会 創発本部 本部長

 

セッションの冒頭、ファシリテーターの田口真司氏は大手町・丸の内・有楽町エリアのまちづくりを手掛けてきた経験を踏まえ、「人々が集いやすいプラットフォームを作ることは、コミュニティづくりにおいて大切な要素だ」と指摘。「対話の場」の重要性を語った。 

(左から)エコッツェリア協会の田口真司氏、宮崎市の岩見健太郎氏、宮崎オープンシティ推進協議会の杉田剛氏

続いて宮崎市の岩見健太郎氏は、2022年より同市ホームページ上に公民連携総合窓口を開設し、市が提示するテーマ、民間団体が自由に発想するテーマそれぞれに対する提案を24時間365日受け付けるなど、民間団体と連携を図ってきたことを紹介。2024年には、さらなる連携を目指して、一般社団法人宮崎オープンシティ推進協議会(MOC)を設立。地元企業の経営者らが理事を務め、市長・副市長も参画するもので、MOCの杉田剛氏はその取り組みについて、①ローカルスタートアップの発掘・育成、②地元企業のオープンイノベーション、③食産業・農業の革新と発展、④交流・共創の場の4テーマを掲げて進めていると語った。 

2025年4月、MOCは宮崎市民・県民だけにとどまらない九州全体の交流を見込んで、活動拠点を初開設。ファシリテーターの田口氏が「先にコミュニティを作り、後に拠点を持つ流れは理想的だ」と語ると、杉田氏は「MOC理事の豊富な地元人脈が、コミュニティづくりを促進した」と説明。拠点への期待として「新しい発想を持つ人が身近にいる環境が得られる」とし、岩見氏も「このプラットフォームはMOCや宮崎市にとって大きな強みになる」と語った。 

パネリスト2名の終始息の合ったやり取りに、田口氏からは「自治体と民間が同じ目線を持つ、理想的な関係性」との評価もあった。杉田氏は最後に来場者に向けて「オープンイノベーションとかアクセラレーションとか、カタカナを使っていても意味がない。何事においても、地元の方が腹落ちするよう翻訳して、耳を傾けてもらうための工夫が必要」とメッセージ。岩見氏は「宮崎に来れば、いろいろな出会いがあり、新しいビジネスや価値の創出にチャレンジできる。そんな場をこれからもたくさん作っていくので、ぜひ宮崎に来てほしい」と会場に呼びかけ、セッションを締めくくった。 

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