
個々の力を発揮するための施策として、企業や社会において推進されてきたDE&I(多様性、公平性、包摂性)。トランプ大統領の就任により、そのバックラッシュに揺れる米国の現状は、歩みを進めてきた日本企業にとっても逆風となることが懸念される。「サステナブル・ブランド国際会議2025東京・丸の内」では、障害のあるアーティストらによる作品のIPビジネスを手掛けるスタートアップ、ヘラルボニーによるワークショップを実施。参加者にとって、「DE&Iにわたしたちはどう向き合っていくべきか」を改めて考える機会となった。
Day2 ブレイクアウト 河村翔・ヘラルボニー ウェルフェア事業部 菊永ふみ・へラルボニー ウェルフェア事業部 コンテンツクリエイター |

冒頭、ヘラルボニー ウェルフェア事業部の河村翔氏は、同社の企業理念や事業内容について説明した上で、「ダイバーセッション プログラム」と題したこのワークショップを、「アート領域を中心として障害のイメージの変革へのアクションを起こしてきたヘラルボニーの新しい試みだ」と話した。続けて、DE&Iの概念を改めて確認し「とりわけ公平さを意味するエクイティ(Equity)が重要。また帰属意識を意味するビロンギング(Belonging)を追加した『DEI&B』といった表現に近年アップデートされつつある」と説明。企業においてDE&I推進は、単なるCSRにとどまるものではなく、全ての人の多様性を満たすことが目的でありS個々の豊かさや経営アジェンダの一つであることを強調した。
みんなと一緒にカードゲームを楽しむ!
ヘラルボニーのワークショップの正式なプログラムは、講演+ワークショップ「知る」、ボードゲーム型ワークショップ「感じる」、福祉施設訪問+ART制作「表わす」、の3部構成だが、今回は体験版として、5人で1チームを組みUNOをベースとしたボードゲーム型ワークショップ「感じる」のみを約70分で実施した。

ゲーム開始前のオリエンテーションで、講師を務めたろう者のコンテンツクリエイター、菊永ふみ氏から発表されたミッションは「みんなと一緒にカードゲームを楽しむ!」だ。
ぜひやってみたい! ここから、筆者もこのダイバーセッション プログラムを実際に体験してみた。

まずは基本的なUNOのルール説明の後、参加者1人につき視覚障害、聴覚障害、身体障害などが記入された1枚の役割カードが配布された。「車いすの使い手役」は座布団を敷き床に座ること、「聞こえない役」は耳栓とヘッドフォンを着用すること、「手が使えない役」は手にミトンをはめること、「見えにくい役」は視野狭窄(きょうさく)眼鏡の着用が条件となる。

各自役割に応じたアイテムを身に着けるなどして、「色が見えづらい」、「かなり集中しないと音が聞きづらい」といった自身の状況を各チーム内で簡単にシェアした後、10分間の前半の体験がスタートした。

UNOは同じ数字や同じ色、同じ種類のカードを出し、先に手札がなくなった人が勝ちという単純なルールのカードゲームだ。ハンディキャップがあること以外は通常のUNOと同様のルールでゲームを進めていく。
前半のゲームタイムを終え、車いすの使い手役からは「視座が低くなったことでカードが見えづらい。カードを出す際も枠内に手が届きにくい」、聞こえない役からは「低い男性の声はほぼ聞こえない。メンバーの声が聞こえないことで全体を通して発言がしにくく感じた」などの声があがった。
ここで、菊永氏は、役割カードの目的や意図を「ハンディキャップを背負う体験を通し、マジョリティが日常生活では気が付きにくい『無意識の特権』の存在が見えてくる」と語った。なるほど。確かにそうだ。
カードゲームを通じて多様性とインクルージョンを知る
後半に入る前には、各チームで独自のルールや進め方を考案するための時間が設けられた。前半の体験を生かし、どうすれば、マイノリティ性がある人と共にゲームを心から楽しむことができるかを模索するためである。
筆者のチームでは、話し合いの結果、以下3つのルールを作った。
1、カードの色ルールは撤廃し数字ルールへ変更する 見えにくい役から、緑と青が見えにくいと声が上がったため 2、紙皿に広げるようにカードを並べる ミトンをはめている手が使えない役は山束から1枚ずつめくることが困難であるため 3、全員レジャーシートを敷いた地面に座ってゲームを行う 車いすの使い手役と全員同じ視座になるため |

後半のゲームタイムを終え、チーム内で行われた振り返りでは「各々異なる状況を持ち公平性を目指す過程で、自然とゲームの目的が勝つことから自由に楽しむことへと変化した」などの意見が発表された。
真のDE&I推進は多様な人との対話から生まれる

締めくくりに菊永氏は「さまざまな人が本来持つ強みを発揮するためには、環境設計がカギとなる一方、その都度柔軟性を持ち変更することが求められる」と語った。
実際の職場環境においても、ワークショップ体験の前半と後半の間にディスカッションの場を持ったと同様に建設的な対話の場を設けることこそが本質的なDE&I推進につながる。
実際にワークショップに参加してみて、知識や論理のみでダイバーシティやインクルージョンを「理解した」つもりでいたと感じた。五感を働かせた原体験が、一人ひとりの違いを受容する組織を築く礎となるのだろう。
宮野 かがり (みやの・かがり)
神奈川県横浜市出身。学生時代、100本以上のドキュメンタリー映画を通して、世界各国の社会問題を知る。大学卒業後は事務職を経て、エシカル・サステナブルライターとして活動。都会からはじめるエシカル&ゆるべジ生活を実践。