
化石燃料への依存から脱却しなければ、CO2を削減することは難しい。本セッションでは、燃料として藻類に着目したマツダ、水素でコーヒーを焙煎するUCCと、カーボンニュートラルを事業の中に積極的に位置づけて取り組む2社が登壇。さらに洋上風力の産業化を目指すスタートアップ企業アルバトロス・テクノロジーと、金融機関として脱炭素を後押しする立場から三井住友フィナンシャルグループが加わり、日本が目指すべき「次世代エネルギーの未来図」を議論した。
Day2 ブレイクアウト ファシリテーター 菅原聡・一般社団法人Green innovation 代表理事 パネリスト 長壁(おさかべ)一寿・アルバトロス・テクノロジー 取締役 COO 里見陵・UCCジャパン 執行役員 サステナビリティ経営推進本部長 髙梨雅之・三井住友フィナンシャルグループ 執行役員 グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサー 山本寿英・マツダ 技術研究所 所長 |
藻類を使った再生可能液体燃料の開発も――マツダ

2050年のカーボンニュートラル目標に向けて、自動車業界全体では、大きく、電動化の流れがある。だが、そこに取り組もうとする時、現状では、「各国の発電における電源構成が異なっていることが課題として挙げられる」とマツダ技術研究所所長の山本寿英氏は指摘した。ノルウェーなどの北欧諸国では、物を燃やさないクリーン発電が中心だが、中国や米国、日本などは化石燃料による発電が中心だからだ。このため、同社では、グローバルに電動化を進めるに当たって、「各市場のお客さまの状況や車の使い方に応じた、マルチソリューション戦略で開発を進めている」という。
具体的には、化石燃料で発電している地域では、内燃機関の革新的な効率改善によって省エネに努め、藻類を使った再生可能液体燃料の開発にも注力している。山本氏は「まだポテンシャルの段階」としながらも、「こうしたもの(藻類を使った液体燃料など)を活用して、内燃機関の搭載車でもカーボンニュートラルを実現できる」と、同社ならではの内燃機関の持つ強みに、自信をのぞかせた。さらに少し先の未来に向けては、内燃機関の特性を生かして大気中のCO2を吸い、きれいにして排出する「走れば走るほど、空気をきれいにする」技術にも挑戦中だ。
世界初、水素焙煎コーヒー量産の価値強調――UCC

グローバルにコーヒーを展開しているUCCにとって、気候変動の影響でコーヒー豆の生産に適した土地が2050年には現在の半分になってしまうとされる「2050年問題」は人ごとではない。気候変動で害虫や病虫が増えたり、災害が多発する中、「8割が家族経営で、そうした影響に脆弱な小規模農家が多い」という生産者へのサポートは最も重要な課題だ。コーヒー豆がないと我々は事業が全くできない」とUCCジャパン執行役員 サステナビリティ経営推進本部長の里見陵氏は、危機感をにじませた。
そうした課題意識から2022年3月に示したサステナビリティビジョンでは、「2040年までのカーボンニュートラル&ネイチャーポジティブアプローチ」を掲げ、その中で水素を熱源とする焙煎コーヒーの開発と販売に力を入れている。
焙煎のプロセスには熱が必要だが、電化の技術では難しく水素に着目した。同社とバーナーメーカー、焙煎機メーカーの3社で開発を進め、国からの助成も受けて事業化が実現。4月には大規模な工場設備が稼働し、世界で初めて水素焙煎の量産を開始するのを前に、里見氏は、「ポイントはグリーン水素を使っていること。CO2が出ないことと、味覚が良くなることが非常に大きな価値」と強調した。
洋上風力を日本の産業に――アルバトロス・テクノロジー

浮体式洋上風力を開発しているスタートアップ企業、アルバトロス・テクノロジーは、洋上風力を日本の産業とし、国内にサプライチェーンを作ることを目指している。同社取締役 COOの長壁一寿氏によると、直面している課題は2つある。まず、同社が開発している浮体式洋上風力は、法律上船舶扱いになり、船と同じ安全性を担保するための認証を取るのに苦労していること、そしてもう一つは、風力発電から大手メーカーが撤退し技術者が育っていないことだ。
現状では、洋上風力に取り組むには、海外のメーカーから部品などを調達しなければならず、メンテナンスもそのメーカーに依頼しなければならない。こうした状況を踏まえ、長壁氏は、「調達を海外に依存しないためには、国内である程度の需要が見込めることが必要。我々の研究開発をとにかく進めて、実証して実績を作っていくしかない」と力を込める。
さらに長壁氏は「洋上風車はざっくり言うと、1本で100億円の規模」と明かした上で、産業として成り立たせるメリットを強調。サプライチェーン作りでは「スタートアップが中心となって少しずつ集まりつつあるが、もっともっとプレイヤーが必要だ」と訴えた。
リスクを分散し、支援の流れを止めない――三井住友

3社の取り組み発表を踏まえ、事業資金を支援する立場の金融機関は、次世代エネルギーのプロジェクトをどのように見ているのか? 三井住友フィナンシャルグループ執行役員 グループ チーフ・サステナビリティ・オフィサーの髙梨雅之氏は「通常のチェック項目に加え、新しい次世代エネルギーでは、制度的なものを変更するリスクや技術的なリスクを分析する」という。
同社は社会的価値の創造を推進することを経営の柱の一つとして捉えており、高梨氏は、世界規模では脱炭素への逆風も吹くなか、「社内的にも大きなチャレンジとして、歯を食いしばって推進していく」と金融機関としての決意を強調。
リスクを分散する観点からは、2024年7月に政府系金融機関として設立された「GX推進機構(脱炭素成長型経済構造移行推進機構)」の意義に触れ、「民間の金融機関が取れないリスクを取る、最初の一歩を踏み出すための機能を果たしてくれると思っている。これを活用しながら、支援の流れを止めないようにしていきたい」と展望を語った。
次世代エネルギーがもたらすポテンシャルとは?

続いてディスカッションでは、次世代エネルギーがもたらす未来や、ビジネスにどのようなポジティブな変化が起こってくるのかが議論された。
長壁氏は、日本と同じ島国のイギリスでは、すでに洋上風力がエネルギーの50%を賄えるめどが立ち、さらに増やそうとしていると紹介した。「将来の良い未来というよりは、現実としてやらなきゃいけないこと。30兆円の化石燃料を輸入していて、仮に10~20%でも削減できて国内で産業が生まれたら、そのインパクトは5~10兆円になる。この資金を何に使うか? これが日本のポテンシャルなんじゃないか?」と問題提起した。
一方、髙梨氏は海外の水素プロジェクトが閉鎖になった例を挙げ、「実はそういったプロジェクトは、金利負担が大きくてうまくいかなかったというようなことがあったりする。だが、米国は今利下げ局面に入ってきており、時間が経てば金利負担は落ちてくる」と見ているという。
また水素プロジェクトでは、輸送コストが非常に高いことがネックになっているが、髙梨氏は「地産地消のプロジェクトが考えられるし、しっかりしたオフテイク契約をしている需要会社がたくさんある。やはりここは悲観しちゃいけない」と力強く語った。
最後にファシリテーターを務めた一般社団法人Green innovation 代表理事の菅原 聡氏は「次世代エネルギーに関しては、1社や1行では、取りきれるリスクの幅を優に超えている。だからこそ、今までと違うパートナーシップや政府の強力なサポートが必要になってくる。日本がエネルギー供給国になる可能性にチャレンジするには、まさにそこがキーとなる」とまとめた。
松島 香織(まつしま・かおり)
サステナブルブランド・ジャパン ニュースサイトの立ち上げメンバーとして参画。その後2022年12月から2025年3月まで、デスク(記者、編集)を務める。