
個性的な店や若者らでにぎわう東京・下北沢の一角に、「日々の買い物が『ちょっと良い選択に』」をコンセプトにした新しい店舗が誕生した。サステナブルな商品や食体験を通じて地域コミュニティをつなぐ、その名も「みんな商店」。規格外の食材を使ったパフェなど、店内には資源循環を意識した品物が並び、来店者は商品を通じて社会課題に思いを巡らせる。「サステナブルな消費を身近に感じられる」場所として、今後注目を集めそうだ。
地域と一緒に育て、循環させる
大型連休に突入した4月末。店内に足を踏み入れると、フルーツの甘い香りに驚き、色鮮やかな野菜に目を奪われた。木の棚にはグレープフルーツやリンゴ、ニンジン、白菜、ビーツ、卵など、全国各地から取り寄せた旬の野菜や果物がずらっと並ぶ。全てオーガニックという。

「みんな商店」を運営するのは、社会課題の解決を目指し「誰が、どこで、どのように作ったものかがわかる『顔の見える』消費」を推進するUPDATER(東京)だ。同社戦略広報チームの豊島翔さんによると、「みんな商店」の名前には、生産者や客、店舗スタッフらがつながり、一緒になってつくり上げるという意味が込められている。1階と2階の2フロアを運営し、4月19日にオープン。初日には、俳優の小泉今日子さんも来店した。
1階はスイーツショップで、量り売りなど「ゼロ・ウェイスト・スーパーマーケット」を展開する斗々屋(京都)がプロデュースする。店内にはカメラ付きの計量器が設置されており、購入したい野菜や果物を台に置くと、AIの分析を経て値段が算出される。中には規格外の野菜や果物もあり、リーズナブルだ。
「規格外でも味は変わらない。『安くて、おいしい、安全』な品で、イチゴは入荷するとすぐに売れてしまう」と、マネージャーの柴田香帆さん。「量り売りだと、必要な分だけ購入するので、フードロスの削減につながる。パッケージ(包装)もなく、ごみを減らすこともできる」と笑顔を見せる。

看板商品の一つが「発酵パフェ」だ。消費期限の近づいた野菜や規格外のフルーツを発酵させ、パフェに加工する。容器はリターナブル瓶を使用し、店頭で回収・再利用。また「ゼロウェイストを追求」(豊島さん)する観点からは、コンポストに取り組む地元の「シモキタ園藝部」と連携している。バナナの皮など食べられない果物の皮は、乾燥させてミミズの力を使って堆肥化。その良質な堆肥を用いてハーブを育て、発酵パフェなどで利用。「地域と一緒に育てて、循環させるアクション」(豊島さん)を実践する。
商品一つひとつにストーリーがある
「ネオ駄菓子屋」「37棚商店街」「みんなの小上がり」――。2階にはユニークな名前のコーナーが広がっているが、そのコンセプトは「みんなでつくる、みんなが集まる、みんな商店」と一貫している。
「ネオ駄菓子屋」のコーナーは、懐かしい駄菓子の楽しさとサステナブルな価値観を融合。添加物の入っていない昔ながらの定番駄菓子や、地域限定の駄菓子をそろえる一方、植物由来のヨーグルトやフェアトレードのチョコレートなど、サステナブルを意識した商品が並ぶ。豊島さんは「混ぜこぜにすることで、新しい出会いが生まれる。それぞれの商品にストーリーがあるので、ぜひスタッフに尋ねてほしい」と説明する。

壁の一面は、棚一つひとつを小さな商店に見立てた「37棚商店街」だ。回収した服から生まれた帽子や、紙容器からアップサイクルしたタオル、障がいのある職人が手作りした石けんなど、多彩な商品が並ぶ。共通するのは「社会課題の解決に寄与する商品」で、法人と個人は有料、学生は無料で出店が可能だ。「みんなの小上がり」と名付けたスペースは今後、トークイベントなどでも活用が想定されており、来店者の交流を促進する。
都内の大学3年生、阿部幸世さんは知人の紹介で来店し、店内をじっくり見て回った。感想を尋ねると、「普段意識していない生産者の思いやストーリーを感じることができた。自分のアクションが、社会課題の解決につながっていると思うとうれしい」と話した。
豊島さんによると、「みんなの商店」が販売する商品には、それぞれにサステナブルなストーリーがある。しかし派手なポップアップを設けることもなく、商品の説明文は極めてシンプルだ。そこには「サステナビリティの話は、押し付けがましくなりがちだ。まずは『かわいい』『これ良いかも』と手に取ってもらうことが大切。そこからつながりが生まれ、気付きにつながる」との思いがあるからだ。

目指すは「日常の買い物が『ちょっと良い選択に変わる』場所」だ。「みんなの商店」責任者で、UPDATERのSX事業開発2部部長の間内賢さんは「消費の概念を変える場所でありたい。つまり、買い物を通じて社会に貢献している、と感じられる場所に」と力を込める。出店者や客、地域の人々らがつながり、ともにサステナブルな社会をつくる拠点となる――。「みんなの商店」の物語は、まだ始まったばかりだ。
不定休。営業時間は12〜18時。詳細は以下のウェブサイトを参照。 https://minna-showten.com/ |
眞崎 裕史 (まっさき・ひろし)
サステナブル・ブランド ジャパン編集局 デスク・記者
地方紙記者として12年間、地域の話題などを取材。フリーランスのライター・編集者を経て、2025年春からサステナブル・ブランド ジャパン編集局に所属。「誰もが生きやすい社会へ」のテーマを胸に、幅広く取材活動を行う。