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  • 公開日:2025.05.08
  • 最終更新日: 2025.05.08
共創を「本物」にし、持続的インパクトにつなげる鍵とは
  • 井上 美羽

近年、社会課題の複雑化・多様化が進む中で、単一の組織では解決が困難な課題が増加している。一方で、多くの共創プロジェクトが立ち上がりながらも、その成果を持続的なインパクトへとつなげることができていない現状もある。本セッションでは、異業種の第一線で活躍する4人のパネリストが、それぞれの経験を基に共創プロジェクトの成功と持続可能性、そしてそれをけん引するリーダーシップの在り方について熱い議論を交わした。

Day1 ブレイクアウト

ファシリテーター
今津秀紀・Sinc 統合思考研究所 客員研究員

パネリスト
川瀬広樹・日本特殊陶業 エネルギー事業本部 カーボンリサイクル開発部 カーボンデザイン課 課長
平埜雄大・武田薬品工業 ジャパン ファーマ ビジネスユニット 流通・地域アクセス統括部 地域アクセス戦略グループ グループマネジャー
村野修二・三菱地所 丸の内開発部 ユニットリーダー
諸井眞太郎・TOPPANデジタル 事業開発センター LOGINECT事業開発部 部長

共創で医療アクセスの壁を越える

平埜雄大氏(左)

武田薬品工業は製薬会社としての枠を超え、さまざまなステークホルダーとの連携を通じて新たな価値創造を目指している。地方自治体や民間事業者と協働し、医療アクセスが困難な離島に住む患者への支援を行っている。

地域アクセス戦略グループのグループマネジャー、平埜雄大氏は長崎県・五島列島の事例を紹介。少子高齢化や医療従事者の不足が進む中、難病患者の協力を得ながら、福江島と久賀島間において、オンライン診療後の医薬品配送や、医薬品卸売業者と連携した医療機関への緊急配送の可能性を検証したという。

後半のディスカッションで平埜氏は「共創プロジェクトの成功には信頼が重要であり、オープンなコミュニケーションを通じて関係性を構築していくことが大切だ」と語った。また、持続的なインパクトのためには「1人のリーダーシップに依存せず、チーム全体での推進と人材育成が不可欠である」と続けた。

都市と地域をつなぐ知の交差点

村野修二氏

三菱地所は、都市開発という本業に加え、サステナブル領域での新たな価値創造を目指し、「ナレッジ・インスティテュート」という東京発の共創コミュニティを運営している。このコミュニティは、サステナブルなビジネスソリューションの創出を目的に、大企業、スタートアップ、大学、行政など多様なステークホルダーが集う場である。

ヨーロッパの先進的な機関(オランダ、デンマークなど)との連携も積極的に行い、知見の共有や共同プロジェクトの創出を目指しているという。

丸の内開発部ユニットリーダーの村野修二氏は「まだ20社ほどの小さなコミュニティではあるが、大学や行政、研究機関など多方面とつながりながら、新しいアイデアを出していきたい」と話す。具体的には、徳島県の企業と連携し、丸の内エリアにおける食品残さの循環型モデル構築など、都市と地域をつなぐ事例を紹介した。

ソリューションチェーンで「2024年問題」に挑む

諸井眞太郎氏

TOPPANは、印刷事業で培ってきた技術と知見を活かし、「デジタル&サステナブル・トランスフォーメーション」を推進している。

TOPPANデジタル事業開発センター LOGINECT事業開発部部長、諸井眞太郎氏は「日常生活の中で物流を意識したことはありますか?」とセッション参加者に問いかけ、トラックドライバーの時間外労働に制限が設けられることで発生する「2024年問題」を取り上げた。物流業界が大きな変革期にある中で、「中小企業だけでなく、大手企業も消費者の信頼を失いかねない」と、その逼迫(ひっぱく)した状況を指摘した。

諸井氏の部門では、物流ソリューション「LOGINECT(ロジネクト)」を立ち上げ、データの可視化・利活用、ハードウェアによる生産性向上、運用の最適化などを手がけている。「ロジネクト」は1社では実現できない仕組みであるため、物流を会社全体の経営アジェンダとして捉え、「ソリューションチェーンの構築こそが、スピード感ある変革には不可欠だ」と強調した。

地域内の連携で炭素循環型ビジネス創出へ

川瀬広樹氏

日本特殊陶業は、自動車部品メーカーとしての技術を基盤に、CO2回収・利活用技術の開発や、地域と連携した炭素循環型ビジネスの創出に取り組んでいる。

カーボンリサイクル開発部カーボンデザイン課課長の川瀬広樹氏は「工場から排出されるCO2を資源として活用したい」と語り、工場からのCO2を回収し、農業利用やドライアイスへの活用など、地域内での資源循環を目指す「地域CCU(Carbon Capture Utilization)」構想を推進していると紹介した。例えば愛知県蒲郡市での実証実験では、食品工場から回収したCO2をハウスみかんの栽培に活用する取り組みを実施。その中で、異業種間の文化的ギャップを埋める難しさにも直面したという。

共創ビジネスにおいては、「共創自体が目的になってしまうのではなく、『なぜ共創するのか』という共通の大目的を持つことが重要だ」と強調した。

成功と失敗を分ける最大の要因は

各社の事例発表後、ファシリテーターの今津秀紀氏から「成功と失敗を分ける最大の要因は何か?」という問いが投げかけられた。村野氏は、「共創プロジェクトを成功させるには、自社と同じ土俵にいると考えるのではなく、前提の違いを理解し、歩み寄る姿勢でコミュニケーションを取ることが重要」だと述べた。

続いて、「インパクトを持続可能にしていくには、どのような戦略や仕組みが必要か」という問いに対して、川瀬氏は「たとえ小さくても利益を上げることが継続の鍵になる」と回答。この意見を受け、高校生から「サステナブルな取り組みと短期的な利益の両立は可能なのか」という鋭い質問が寄せられた。これに対して川瀬氏は、「持続的な活動のためには経済性を無視できず、環境に良いだけでなく、事業としてきちんと収益を上げる必要がある」と説明した。

また、「リーダーに求められる役割」については、明確なビジョンの提示、オープンなコミュニケーションの促進、チームビルディングと主体性の喚起、共通目的の明確化と共有、多様なステークホルダーを巻き込む力、そして問題解決能力などが議論された。

最後に平埜氏は、「生成AIが発達する時代にあっても、人が介在するからこそ、他とは違う共創プロジェクトが生まれ、過去にはない新たなものを創出できる」と述べ、共創の本質に「人」がいることの重要性を強調。パネリスト各氏が賛同する中、セッションは締めくくられた。

written by

井上 美羽(いのうえ・みう)

愛媛県松野町在住フリーライター。地方で農を実践しながら、地方での食の魅力化に取り組む。 食、環境、地方を専門として、主に取材・インタビュー記事の執筆を手掛ける。 日本サステイナブル・レストラン協会や日本スローフード協会の事務局として、食にまつわるイベントプロデュース、コーディネーターなどを担当している。

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