
米オーガニック石鹸ブランドなどが先頭に立った企業の協働体制「パーパス・プレッジ」が2025年春にスタートする。ステークホルダー資本主義を念頭に置いた10のコミットメントを提唱し、その達成を誓うよう企業やブランドに呼びかける試みだ。社会的な目的を持つ食品やコスメ企業14社がすでに参加を表明済みで、責任あるビジネスの新基準を打ち立てようと意気込んでいる。(翻訳・編集=遠藤康子)
米国のトランプ新政権は、価値主導型の経営手法から距離を置くことをビジネス界に求めている。そうした姿勢にすかさず対抗姿勢を示そうと新たに誕生したのが協働体制「パーパス・プレッジ(Purpose Pledge)」だ。2025年3月に開催されたナチュラルオーガニック製品の展示会「Natural Products Expo West 2025」で立ち上げが発表され、社会的な目標や意図を掲げてステークホルダー資本主義モデルに尽力するパーパス主導型の企業・ブランドが10のコミットメント達成を誓うことを表明した。
パーパス・プレッジを率いるのは、オーガニック石鹸ブランドのDr. Bronner’s、コンサルティング会社のLIFT Economy、NPO組織One Step Closerだ。3団体は新旧を問わずさまざまな企業に対し、パーパス・プレッジに参加して、ステークホルダー資本主義の原則に基づいた企業経営を基準にした10項目から成る主要コミットメント達成を約束してほしいと呼びかけている。
これに応じて参加を名乗り出たのが、自然食品やオーガニック食品を扱うKuli KuliやOrganically Grown Company、小規模コーヒー農家を支援するPachamama Coffee Farmersなど13ブランドだ。パーパス・プレッジはOne Step Closerのプロジェクトとして動き出す。
パーパス・プレッジの狙い
「パーパス・プレッジは、意識を持つだけでなく、実際に意義ある行動を起こそうと呼びかける取り組みです。世界各地の卓越したパーパス主導型の企業に対し、さらなる前進を目指してお互いに目標を課し、それに挑んでいこうと働きかけています。この取り組みはビジネスのあり方を変える世界的な指針になるはずです」。そう語ったのは、One Step Closerの共同創業者でエグゼクティブディレクターのララ・ディキンソン氏だ。One Step Closerは、食料や農業、地球が直面する重大な問題に立ち向かうという価値観で結ばれた最高経営責任者(CEO)のネットワークである。「開発的なリーダーシップと組織の構造転換に全力を注ぐOne Step Closerと一体となって前向きな変化を連鎖させるため、説明責任、明確な目標設定、協働に向けた流れを加速させていこうというのがパーパス・プレッジの目的です」
パーパス・プレッジは、陸路または海路のサプライウェブ(サプライチェーンの進化版と言われる次世代の商流・物流)を通じて製品を生産する飲食、ヘルス、ウェルネス、パーソナルケア、アパレル業界向けに発案されている。その狙いは、厳格なコミットメント達成に向けたロードマップと支援体制を提供し、企業がパーパス主導型の長期的投資を必要に応じて得られるようにすることである。
「旧態的な利益第一主義によって物質的な時代が訪れました。人類が暮らしやすい未来へと進んでいくためには変化が必要なのです」と話すのは、LIFT Economyの共同オーナーであるケビン・バユック氏だ。インパクト主導型企業に特化したコンサルティング会社のLIFT Economyは、人種差別がなく全ての人が恩恵を享受できる、再生型で地域自立型の経済の創造とモデル提案を使命としている。「参加企業がパーパス・プレッジに誓いを立てることは極めて重大な前進です。多くのビジネスが経済変革という長い道のりに意義ある形で貢献しようと奮い立つでしょう」
ハードルを引き上げる
2023年秋、Dr. Bronner’s、LIFT Economy、One Step Closerの代表者が集まり、加速する世界的ポリクライシス(戦争や人権侵害、気候危機、経済的な不確実さなど複数の問題が同時発生して危機の連鎖が起きること)について話し合った。このポリクライシスの根底にあるのは、気候変動に拍車をかけ、社会的・経済的な不平等を悪化させてきた株主第一の資本主義だ。
話し合いの結果、既存の認証制度や基準、財務モデル、政策は、この喫緊の課題に対処する上では全く不十分であり、多くの企業は見せかけだけのグリーンウォッシングやパーパスウォッシングに手を染めて問題を悪化させている、という結論に至った。開発と説明責任のための確固たる協働体制なしでは、企業が適切な経営を目指していくら努力したところで成果が得られないことは疑いようもない。
3団体はその後、取り組みに向けてゴールを練り上げ、真のパーパス主導型企業とは何かを定義したのちに、意義ある変化の促進を掲げてパーパス・プレッジを創設した。成長する企業は生産者、サプライヤー、従業員、顧客、コミュニティ、地球、そして相互で構成されるマルチステークホルダーのエコシステム上に成り立っている。それらを前提に、ステークホルダーのウェルビーイングを軸にインパクトを推進していくことを目指して、わかりやすく実行可能な指標を打ち立てたのがパーパス・プレッジだ。こうした指標は有意義で、測定可能で、期限付きであるよう意図されており、目的を行動に変えるべく一丸となって取り組むコミュニティはこれを支持している。
パーパス・プレッジは、熱心なリーダーシップの下、透明性や説明責任、言葉を並べることより成果を重んじる系統的かつ実行可能な計画に従って、責任あるビジネスの新基準を打ち立てることを目指している。
10のコミットメントを掲げる
他に先駆けてパーパス・プレッジに参加する14のブランドは、10のコミットメント実現に向けてこれから複数年に及ぶ旅に出る。
1.製品の質―参加企業は、目的を持って製品を開発し、それを使用/消費する顧客ならびに全ステークホルダーの生活とウェルビーイングに恩恵を与えることを約束する。現時点では、米国の非営利団体EWG(環境ワーキンググループ:Environmental Working Group)の化粧品データベース「EWG Skin Deep」とパーソナルケア製品向け「EWG認証」を除き、異なる成分から成る製品の品質、実用性、効用を客観的に評価する第三者基準がいまだ存在していない。そのため、パーパス・プレッジ参加ブランドは自社製品が「ウェルビーイングに有益かどうか」について責任を持って判断する。 2.独立したガバナンス―パーパス・プレッジ参加ブランドは、財務業績の健全性とともに、自社の価値観と目的に合致した意思決定を下すことを優先する。そのためには、CEOと取締役会の過半数がパーパス・プレッジに共同署名し、自社が掲げる長期的なパーパスと全てのステークホルダーのために尽力することを表明しなければならない。 3.清廉潔白なサプライウェブ―参加ブランドの主力製品は、健康で再生できる土壌、公正な労働条件(該当する場合)、動物福祉を含む総合的で厳格かつエコソーシャルな基準を満たさなくてはならない。「環境再生型オーガニック認証(リジェネラティブオーガニック認証:ROC)」の取得が望ましい。 4.公正で偏りのない報酬―パーパス・プレッジ参加企業は、本社が所在する国で働く従業員について、最高賃金と最低賃金の比率を最大で20対1に設定し、賃金をその範囲内で維持しなければならない。 5.生活賃金の保証―パーパス・プレッジ参加企業は、MIT生活賃金計算方式(マサチューセッツ工科大学が考案した生活賃金算出方式)を基準に採用し、従業員がそれぞれの地元で適切な生活水準を維持できるよう保証しなければならない。 6.包摂性―インクルーシブ(包摂的)な企業文化であるかどうかを評価するために、職場における包摂性の意識に関する従業員エンゲージメント調査を毎年実施するとともに、その結果に基づいて行動計画を立案する。 7.コミュニティエンゲージメント―パーパス・プレッジ参加企業は、純収入の1%以上または純利益の10%以上を慈善事業などのために確保しなければならない。慈善事業への寄付のほか、政治団体への寄付、温室効果ガスの排出削減、フェアトレードへの取り組みや投資もこの対象に含まれる。 8.気候ポジティブ―パーパス・プレッジ参加企業は、気候変動の緩和に向けてカーボンネガティブの達成に努め、生態系の健全性と大気にプラスの影響を与える存在にならなくてはならない。具体的かつ検証可能な進歩を実現するために、科学的な目標を根拠にした期限付きの戦略計画を策定しなくてはならない。 9.廃棄物ゼロの循環達成―パーパス・プレッジは、循環型経済に向けて廃棄物ゼロの達成を意味する「TRUE(資源の利用と効率性:Total Resource Use and Efficiency)認証」を取得することを参加企業に求める。そうすれば、埋立てごみ・焼却ごみ転換率が90%以上となり、クローズトループ(水平リサイクル)が達成されて環境へのインパクトは最低限に抑えられる。 10.能力開発―パーパス・プレッジ参加企業は、開放性、透明性、知識の共有を約束し、他の参加企業に専門知識やリソースの提供、指導を率先して行う。相互に支え合う文化を確立すれば、全参加企業がコミットメント達成に向けて進んでいくことが可能になる。その結果、より大きなコレクティブインパクト(官民、市民、NPOなどが連携して社会問題に取り組み成果を上げること)が実現するとともに、説明責任を果たし、発展を遂げ、パーパスを持って取り組む企業から成るネットワークへの道が開かれるだろう。 |
パーパス・プレッジに参加するKuli Kuliの創業者でCEOのリサ・カーティス氏は「私がKuli Kuliを立ち上げたのは製品を売るためではありません。市場を活用した変革手段として持続可能なスーパーフードを販売し、小規模農家が貧困から脱却することを助けるためです」と語った。「パーパス・プレッジに参加できて期待に胸を膨らませています。インパクト拡大に向けて学んだり、取り組んだりできることがきっとたくさんあるでしょうから」
展示会「Natural Products Expo」では、パーパス・プレッジの立ち上げをアピールするために、Dr. Bronner’sのCosmic Engagement Officerを務めるデイビッド・ブロナー氏がState of Natural and Organic keynoteの冒頭でスピーチを行う。それに続けて公式立ち上げパーティーが開催され、パイロット参加企業とメディアに対してパーパス・プレッジの目標と体制について詳しい説明が行われる。
「オーガニックや自然食品の業界は何十年も前から、エコで健康的で社会的責任のある製品開拓に取り組んできました。Dr.Bronner’sの創業者で今は亡き祖父のエマニュエル・ブロナーはきっと、これまでの進歩に驚くと同時に、世界の現状を知ったらひどく落胆すると思います」とデイビッド・ブロナー氏は話す。「私たちは社会として、自然の資源を採取したり搾取したりするのではなく、エシカルなビジネス慣行をベースにした経済を共に受け入れなくてはなりません。パーパス・プレッジは企業に対して、公正で健全な経済の実現を目指して共に立ち上がり、協力して歩んでいこうと呼びかける取り組みです」
パーパス・プレッジの詳細については公式ウェブサイトをご覧ください。