• 公開日:2019.07.31
味の素、家畜飼料へのアミノ酸利用でSDGsに貢献
  • 環境ライター・箕輪 弥生

長年アミノ酸を研究している味の素は、家畜の肥料にアミノ酸を付加し、家畜の排せつ物から発生する窒素化合物などを削減させる事業を強化している。家畜飼料に足りないアミノ酸を補うことで窒素排出量を削減して水や土壌の汚染、温室効果ガスを減らし、家畜を健康に効率的に育成する仕組みだ。アミノ酸の研究を通じた食資源の確保や環境改善などSDGs(持続可能な開発目標)に貢献する戦略について、同社太田史生グローバルコーポレート本部ESGタスクフォース担当に聞いた。(箕輪弥生)

そもそも、動物の身体を構成するたんぱく質は、20種類のアミノ酸でできている。そのうち体内で合成されず栄養として摂取しなければならない約10種のアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼ぶ。

例えば豚の場合、主にとうもろこしや小麦などの穀物に、大豆かすなどを配合した飼料で飼育されるが、不足する必須アミノ酸を補うことによって栄養バランスが良くなり、飼料中のたんぱく質の吸収量も増える。

味の素はアミノ酸の研究課程の中で発見した発酵法により、1960年代から「リジン」「トレオニン」、「トリプトファン」「バリン」などの必須アミノ酸を生産、販売するパイオニアだ。

これらの必須アミノ酸を飼料に補うことで、飼料中のたんぱく質が有効に利用され、過剰なたんぱく質が窒素化合物として排出されにくくなり、窒素排出量を約3割抑制することができる。これにより、窒素化合物から作られるアンモニアによる悪臭の抑制や、土壌、水質の汚染、温室効果ガスの排出など環境への負荷が軽減される。

「アミノ酸の技術を生かし、途上国で乳幼児の栄養を改善する食品も開発している」と話す太田史生ESGタスクフォース担当

同社の太田ESGタスクフォース担当はアミノ酸の効果について「無駄な飼料を与えないで済むだけでなく、家畜の生育を向上させ、酸化窒素などの温室効果ガスの削減にもつながる」と話す。

味の素は、さらに乳牛に向けたリジン製剤「AjiPro®-L」の開発を進め、シェアを広げる。これは乳牛の腸で吸収させる独自の溶出特性をもつリジン製剤で、牛が胃でリジンを分解してしまい吸収されないという課題を解消して生まれた高機能タイプのリジンだ。

牛は豚や鶏などに比べて成長するために水や飼料の量を多く必要とすることから、環境への負荷の大きい畜産品だ。牛肉1kgを生産するためには、その7倍~11倍の穀物が必要(農水省調べ)になるため、飼料の抑制は環境負荷の削減に大きく寄与する。

そのため、同社は大学などと共同で牛に関する飼料用アミノ酸の研究を進めて新たな製品の開発を行うほか、より効率的な餌の設計なども顧客へのサービスとして積極的に進めている。

同社は飼料向けアミノ酸の製造拠点を海外に置いており、売上高も720億円(2018年)を超える。

太田氏は「飼料向けアミノ酸の事業は飼料の無駄を減らし、温室効果ガスの削減に役立つなど地球規模で役に立っている」と話し、「SDGsの目標では特に目標2『飢餓をゼロに』や目標13『気候変動に具体的な対策を』に貢献している」と分析している。

written by

箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。

東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。 著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。JFEJ(日本環境ジャーナリストの会)会員。 http://gogreen.hippy.jp/

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