• 公開日:2019.04.12
サステナビリティと利益をどう両立させるか
  • 吉田 広子

左からakippaの金谷元気CEO、アグリメディアの諸藤貴志代表、READYFORの米良はるか代表

サステナブル・ブランド国際会議2019東京のセッション「利益を生み出すサステナブル・マーケティング」では、「社会的公正の最大化」という視点から「シェア」を軸に議論が展開された。駐車場のシェアサービス、シェア畑、クラウドファンディングサービスを展開する起業家3人は、起業の原体験や社会性と経済性との両立について話した。(オルタナ編集部=吉田広子)

これまでイノベーションは、メーカーや科学者が起こすと考えられてきた。一方で、「ユーザーイノベーション」は、製品やサービスの使い手である消費者や企業がイノベーションを起こすことである。

ユーザーイノベーションが専門の日本大学商学部水野学教授は、「使い手がイノベーションを起こすことで、より良い社会をつくっていける。根っこの考え方は、サステナビリティに近いものがあるのではないか」と分析する。

続けて、水野教授は「サステナビリティは利益度外視というイメージがある。ユーザーイノベーションはサステナビリティに近いが、かなり収益性を意識している。社会の満足度を高めるとともに利益をどのように考えているのか」と起業家3人に問いかけた。

困りごとを200個挙げ、事業を開発

2014年から駐車場のシェアサービスを展開するakippaは、アプリを通じて空いている駐車場と車を停めたいドライバーをマッチングしている。同社の金谷元気CEOは、ドライバーのメリットとして、1.キャッシュレス、2.予約可能、3.価格の安さ――を挙げる。現在の会員数は110万人、拠点数は2万9000に上る。「『あいたい』をモビリティでつなぐ」をビジョンに掲げる同社は、新規事業を検討する際に生活で困っていることを200個挙げ、そのなかから同サービスの開発に行きついたという。

アグリメディアの諸藤貴志代表は、「都市と農業をつなぐ」を掲げ、シェア畑を展開している。88農園(20万平米)で、2万人が利用している。諸藤代表は、農家の後継者問題が全国各地にあるなか、都市近郊の農園であれば地域住民が使うのではないかと仮説を立てた。調査したところ、家庭菜園に興味がある人は62%に上るのに対し、実際に取り組んでいる人は20%にとどまり、「このギャップをうめることがビジネスになると考えた」(諸藤代表)。

READYFORの米良はるか代表は、だれもがやりたいことを実現し、思いの乗ったお金の流れを増やすため、日本で初めてのクラウドファンディングサービス「READYFOR」(レディーフォー)を開始した。これまでに総額8億円、1万件のプロジェクトを実施したという。達成率は75%に上り、世界的な平均の30%を大幅に超えている。米良代表は「起業家やNPOにお金が流れれば、持続可能な社会になると信じている」と語る。

社会的なインパクトを重視

水野教授からの「なぜ非営利ではなく、ビジネスなのか」という質問に対し、3者に共通していたのは、「より大きなインパクトを出すには、利益を出し、再投資する必要がある」という点だ。

アグリメディアの諸藤代表は、前職はデベロッパーだった。「起業したいという思いはずっと抱いていた。世の中に大きなインパクトを出せる事業は何かと考えたとき、農業が一番変化を必要とされていて、大きな変化を起こせそうだと思った」と振り返る。そこで、兼業農家だった同級生と同社を立ち上げたという。

水野教授は、「サステナビリティは大義の世界で、情も大切。これからは、大義に利益が加わる新しい形の『義理人情』が広がっていくのではないか。社会性と経済性のバランスを取りながら、さらに頑張ってほしい」と期待を込めた。

written by

吉田 広子(よしだ・ひろこ)

株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナ副編集長

大学卒業後、ロータリー財団国際親善奨学生として米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。2007年10月に株式会社オルタナに入社、2011年から現職。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。

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