![]() 設立者のマルティッグ-イムホフ夫妻
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スイス・チューリヒ近郊ののどかな町に事務所を置くテート-タットは、紙を中心とした材料で文具やデコレーションを作っている。ほっと心をなごませるような色使いと形の80製品以上を、スイス国内はもとより、米国、日本、オーストラリアでも販売している。(チューリヒ=岩澤里美)
テート-タットは、社員のほとんどを占める約450人が障がい者という珍しい企業だ。といっても事務所にはその障がい者らの姿はなく、設立者でありデザイナーであるマルティッグ-イムホフ夫妻がいるだけ。
障がい者らは、国内と隣国ドイツの知的障がい者施設や精神障がいを持つ人たちのクリニックに住んだり、通院したりしている。彼らの仕事は、デザインを形にする生産だ。もちろん有給で働いている。試用期間を経て、最終的に週に最低約16時間の就労を目指す。
美術学校の同級生だった妻のブリギッタさんとご主人のベネディクトさんが、障がい者と仕事を始めたのはすでに18年も前のことだ。
当時は、「ソーシャルファーム」という考え方がスイスではあまり一般に広まっていなかった。障がい者が主戦力となって働くことは、勇気を必要とした。夫妻は「設立当時はモデルとなる企業がスイスには全然なかったので、手探りで進んでいました」と振り返る。
それでも2人はどうしても起業したかった。障がい者たちがしている機械類の組み立て作業などが、各自の技能に合っていないと強く感じたからだ。その状況を目の当たりにしたのは学生時代だった。チューリヒのクリニックを見学した時、衝撃を受けたという。美術を学んでいた2人は、障がい者たちももっと創造的な仕事ができるはずと直感した。
「市場に出す商品を作っていくわけですから、障がい者なら誰でも良いというわけではありません。でも、いったん私たちの仕事に就くと、みんな表情が明るくなるのがはっきりとわかります」と2人は声をそろえる。
![]() 毛糸玉をつけた「ポンポン・クリップ」はしおりとしても使える
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慈悲に訴えない商品を
2人が変えたいと思ったことはもう1つあった。障がい者たちが日用雑貨などを作って売ると、障がい者が作ったからという慈悲で買う傾向がある。筆者の印象では、スイスは特にそういう人が多い。
「設立当初からの目標は、市場の一商品としてテート-タットを買ってもらうこと。買う人の慈悲に訴えないように、障がい者が作ったことをパッケージには記載しません」
文具やデコレーションは使いやすさも大事だが、やはりデザインが重要だ。デザインの決定では、障がい者たちのことも忘れない。
「実際に障がい者たちが働く場をよく見に行きます。そこでインスピレーションを得ることもあります。作りやすいデザインであることも重要なので、特別な補助工具を開発したりもします」
また、デザインや生産だけがうまく進んでもバランスは取れないと、施設のスタッフや販売取次の人たちとの人間関係にも気を使う。いま市場はクリスマス商戦真只中。テート-タットの社員たちも製作で大忙しだ。
岩澤 里美(いわさわ・さとみ)