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  • 公開日:2016.11.25
  • 最終更新日: 2025.03.21
米テイラーギターズのサステナブル・ブランディング
    • 池田 真隆

    「社会貢献マインドを持ったミレニアル世代の感性に期待している」と話すボブ・テイラー氏(撮影:福地 波宇郎)

    ギターの指板に使う黒檀の資源枯渇が問題になっている。米大手のテイラーギターズ(本社カリフォルニア州サンディエゴ)は、これまで捨てていたB級材(茶色や白黒の縞模様)をA級(漆黒)と同価格で買い取り、木材を余すことなく使い切る製造方法に切り替えた。創業者のボブ・テイラー氏に、その理由と同社の哲学を聞いた。

    ――2011年に、スペイン系企業と合弁でカメルーンの木材加工工場を買収しました。違法木材を排除して、B級でもA級と同価格で買い取ることに決めました。このような経営判断はどのようにして下せたのでしょうか。

    ボブ・テイラー(以下ボブ):買収しようと思ったのは、合法の黒檀を使いたいと思ったからです。米国では、2008年に絶滅危惧種の輸入を規制する改正レイシー法が成立しました。この法律が通ったときに、アフリカのサプライヤーは信頼できないと真っ先に思いました。

    ギター作りにおいて、黒檀はものすごく貴重な材です。たとえ、現地のサプライヤーが合法だと言っても、本当にそうだろうかとひっかかるところがありました。だから、本当に信用するためには、実際に行き、自分たちで工場を所有するしかなかった。ですが、工場に行ってみたら、そこで働く従業員には一刻も早く助けが必要だと分かりました。助けとは、経済的な支援と技術的な支援のことです。

    現地の人たちの生活レベルはあまりにも貧しかった。そして、木の切り方についても改善が必要でした。木は切っていますが、植えていませんでした。この2つを優先的に取り組み、その後、合法的に切れる木だけを切るように指示しました。しかし、このことは口で説明すると簡単に聞こえますが、最も難しいことでした。非合法な木を切ることが横行していましたからね。

    年月をかけて、何度も何度も従業員とコミュニケーションを取り、コンセプトを伝えていきました。サステナブルな価値観を浸透させるには、自分の感覚で理解しないといけません。米国から来たあいつにとっては大事かもしれないけど、家族を食べさせることが最も重要だと考えている従業員は少なくありません。彼らに対して一方的に、「この木を切るな」と伝えても意味がない。

    しっかりと人間関係を築いて、納得してもらうしかない。工場を買収して5年経ったが、今は問題なく、従業員も理解して信じてくれています。

    B級材の黒檀はまだら模様が入っている(撮影:福地 波宇郎)

    ―信頼し合うにはお互いが納得するまで話し合うことが必要ですか。

    ボブ:もちろん。現地に定期的に訪れて、交流することは不可欠です。ですが、大事なことがもう一つあります。それは、そこで働いている人のモチベーションを高めることです。

    適正な給与を支払い、職場環境などを整えることも大事なプライオリティーの一つです。工場に行って気付いたのですが、働いている人たちの扱われ方がひどかった。ぼくら米国人や日本人などは平均的に考えると、裕福な富を持っています。忘れてはいけないのは、その富をシェアすること。地元でもお金が回るようにすることが大切です。

    ――B級の黒檀をA級の価格で買い取っています。それまで黒かったギターの指板が、茶色になることで、消費者は離れていきませんでしたか。

    ボブ:黒檀の枯渇が迫っているのに、そもそもギターの指板が黒くないといけないということはどうでもよい話です。ぼくらはギターのサステナビリティを追及したので、木を全部使い、木を切るスピードを遅くしないといけなかった。

    ぼくらのメッセージを消費者に伝えたとき、多くの人が受け入れてくれました。その証拠に、テイラーギターズのYou Tubeチャンネルでは、ぼくが話している動画が最もPVが高い。消費者だけでなく、ビジネスパートナーにも隠さず伝えています。日本で販売代理を務めている山野楽器の山野政彦社長が工場を訪れたとき、黒檀の種を植えている芝生に案内しました。その芝生は、虫食い状態でひどかった。

    一般的に考えると、サプライヤーにこのような芝を使っていることは怖くて見せられない。でも、ぼくらのミッションは木をすべて使い切ること。ぼくらのメッセージが伝わり、山野社長からは、日本で販売できることに誇りを持ったとメールをもらいました。会社のトップがしっかりとした倫理観を持ち、自分の言葉でメッセージを伝える姿勢を見せれば、ステークホルダーは必ず反応してくれるのです。

    ぼくの仕事は、消費者たちが望む未来へ引っ張っていくこと。消費者に背中を押されて、そこに行くのではありません。なかには、消費者は欲しがっていないと決めつけ、消費者の影に隠れてしまう経営者もいる。でも、ぼくは、「こっちに行こうぜ」と言うのがリーダーの役目だと考えています。

    ――サステナビリティを追及すると、「利益が取れるのか」と株主から反発に遭うこともあります。サステナビリティと利益の二兎を追うために心がけていることは何でしょうか。

    ボブ: ぼくらは木を使う会社なのでアドバンテージがありました。サステナビリティを全面に押し出すことで、自然とブランディングが高まりました。ギター業界は、木を植えず、大量に消費してきました。現実問題、100年後もギターを作るには、木が必要です。

    木は成長するまでに時間が掛かるので、今植えなくてはいけません。だから、ぼくらが今取り組んでいるプロジェクトは、ぼくが死んだ後に、形になるものばかり。ようするに「何をトレードオフするのか」です。未来のことを考えるのなら、短期的な利益を妥協することは当たり前です。その前提に立って、予算を組むのです。

    私は妻と資金を出し合い、UCLA大学などと連携し、黒檀の調査を進めています。黒檀の植樹について研究していますが、テイラーギターズからは出資していません。長期的な投資に関しては、この会社でできないと判断したので、個人で資金を出すことにしました。

    もし企業がサステナビリティを追及するようになり、利益が落ちるというのなら、それが本来の利益なはず。その分の上乗せられた利益はどこかから盗んできたお金。今の時代、経営者はこういう発想にならなければいけません。

    ボブ・テイラー:
    1974 年 「アメリカン・ドリーム」という名のギターショップでの同僚カート・リスタグと共にテイラーギターズ社を創業、テイラーと名のつくギターを作り始める。その後40 年以上を経て、アコースティックギター会社を育て上げた20 世紀唯一のアメリカン・ルシアー(ギター制作者)となる。現在ではギター制作をアンディ・パワーズに任せ、音楽を愛する未来の世代のためにトーンウッドの供給を保護するべく、新しい森林再生モデルなど持続可能な取り組みを行っている。

    written by

    池田 真隆(いけだ・まさたか)

    株式会社オルタナ オルタナ編集部 オルタナS編集長

    1989年東京都生まれ。立教大学文学部文芸思想学科卒業。大学3年から「オルタナS」に特派員・インターンとして参画する。その後、編集長に就任し現在に至る。オルタナSの編集及び執筆、管理全般を担当。企業やNPOなどとの共同企画などを担当している。 「オルタナ」は2007年に創刊したソーシャル・イノベーション・マガジン。主な取材対象は、企業の環境・CSR/CSV活動、第一次産業、自然エネルギー、ESG(環境・社会・ガバナンス)領域、ダイバーシティ、障がい者雇用、LGBTなど。編集長は森 摂(元日本経済新聞ロサンゼルス支局長)。季刊誌を全国の書店で発売するほか、オルタナ・オンライン、オルタナS(若者とソーシャルを結ぶウェブサイト)、CSRtoday(CSR担当者向けCSRサイト)などのウェブサイトを運営。サステナブル・ブランドジャパンのコンテンツ制作を行う。このほかCSR部員塾、CSR検定を運営。

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