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高校生が「次世代修学旅行」を考える――北陸新幹線延伸で福井の魅力を発信

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サステナブル・ブランド ジャパン編集局

3月23、24日に、「北陸新幹線開業記念特別イベント サステナブル・ブランド国際会議2024 福井シンポジウム」が福井市で開催された。北陸新幹線が金沢〜敦賀間で延伸し、福井駅に乗り入れたことを記念し、北陸新幹線福井誘客プロジェクト実行委員会とサステナブル・ブランド ジャパン(SB-J)が主催。福井県の5校の高校生と全国から選抜されたSB Student Ambassadorの高校生40人が参加した。初日は修学旅行参加者と受入側が“交流”を通し、互いに知識や体験をアップデートする新しい修学旅行について活発に議論を交わした。2日目は県内の高校生が企画した旅程を参加者が体験し、福井県の魅力を確かめた。

吉田氏

開会にあたり、北陸新幹線福井誘客プロジェクト実行委員会 委員長の吉田圭吾氏が挨拶し、「北陸新幹線福井誘客プロジェクト」とは、新幹線の延伸を契機に福井県の魅力を発信するものだと説明した。吉田氏は、プロジェクトの一環で県内の高校生が取り組んだ修学旅行のモデルプラン作成に触れ、「高校生が日常的に目にしている物事に焦点を当てたプランとなり、非常にユニークな内容となっている。今年5月には、首都圏の高校が新しい形の修学旅行を県内で実施する。事前に地元の高校生とオンラインで交流を深め、その中でプランをアップデートする旅になっており、このような取り組みは日本初だと思う」と力説した。

続いて、SB-J カントリーディレクターの鈴木紳介が挨拶。新幹線の停車駅ができたことによる福井県内の盛り上がりを「一時的なものではなく、持続させる必要がある。今日のこの会議が、福井の魅力を多くの方に知っていただくきっかけになれば」と話し、会場に集まった高校生を「この出会いを大切に交流していただきたい」と激励した。

杉本氏

また、来賓として福井県知事の杉本達治氏も駆けつけた。杉本氏は福井県ならではの歴史と魅力について言及。20世紀初頭、世界で戦争が頻発する中、ポーランドの戦災孤児やナチスドイツから迫害を受けていたユダヤ人を救済する拠点として敦賀が大きな役割を果たし「人道の港」と呼ばれたことや、県内の約7万年の歴史を持つ地層からは恐竜の化石が発見されていることなどを紹介し、「シンポジウムが実り多きものとなることを祈っている」と述べた。

漆原氏

さらに西日本旅客鉄道金沢支社長 漆原健氏も、新幹線の延伸で北陸三県を1時間以内で移動できるようになることから、「旅の価値が高まると同時に、通勤や通学など、北陸エリアのライフスタイルが変わる可能性を秘めている。新たなイノベーションにつながることを期待している」と話し、シンポジウムの成功を願った。

福井県内の高校生が次世代修学旅行プランを提案

パネルディスカッションでは「私たちが考える福井次世代修学旅行」をテーマに、福井県内の5校の高校生が、地域の観光や地元の魅力発見と向き合った1年間の活動と、プロジェクトを通じて変化した自分たちの考え方について発表した。ファシリテーターを務めた日本旅行総合研究所 主任研究員の椎葉隆介氏は、セッションの冒頭、今回の取り組みをきっかけに、教育旅行を目的とした旅行者が世界中から集まることに期待を寄せ、「次世代修学旅行は“交流”が鍵。生徒がワクワクしながら主体的に成長しつつ、地域の人々も成長できるような取り組みを考えている」とプロジェクトの近況を説明した。

会場の様子

高校生は、福井県内で実施可能な修学旅行の旅程のアイデアも含めて、多様な活動を通じて再発見した福井の魅力などについて等身大の言葉で語った。福井県立敦賀高等学校の生徒たちは、夏や秋に地域で何度もフィールドワークを行ったことに言及。昨年10月には静岡県熱海市の高校生と交流を深めた研修旅行を経験し、熱海高校の生徒たちが街を熱心に案内してくれた様子から地元の魅力をさらに深掘りして探してみようと意欲が湧いたと言い、「自分たちの地元には何もないと思っていたが、身近なところに魅力が眠っていることに気づいた。地域を知ることの大切さを実感した」と語った。

そして、プロジェクトを通じて考えた「敦賀1300年の歴史をひも解く度(たび)につながっていく旅」をテーマとした修学旅行のモデルプランを発表。「旅のストーリーを考える力が身についた。このプロジェクトが後輩たちに引き継がれていくのがとても楽しみ」だと今後への期待を寄せつつ、「福井県の魅力は、今日ここに集まっているような、歴史を語り継いでいく若者がいることではないか」と意見を述べた。

発表の様子

福井県立奥越明成高等学校の生徒たちは、プロジェクトを通じた思考の変化を中心に発表内容をまとめた。当初、生徒たちは地元・大野市の魅力について「水と自然」しかないと考えていたが、奥越地域の観光資源を調査する中で、そばなどの食文化や街の歴史、街並み、地元の人の温かさ、星空といった魅力を再発見したという。同校を代表して発表した生徒は、「今の私たちが思う大野市の魅力は、水、自然、星、歴史、食、人です」と自信を持って言い切ると、「観光客も観光に携わる人も、いろいろな刺激をもらい、成長するのだと実感した。人とのつながりがあってこそ、良い観光になると思った」「1年間の活動を通じて、自分たちの地域に誇りを持てたと同時に、多くの人に大野市の魅力を発信していきたいと思うようになった」とまとめた。

登壇者全員で行った意見交換の場では、新幹線延伸によって盛り上がりを見せるであろう地域の観光業について、「“シャッター通り”の商店街には、北陸新幹線のおかげで新しいお店も増え、にぎやかになってきた。これからさらに、にぎやかにできると思う」と敦賀高校の生徒が意見を述べた。さらに、プロジェクトを通じて、旅におけるストーリー性と交流の大切さを実感できたと手応えを語り合い、「これから修学旅行を経験する高校生たちにも、地元高校を含めた地域の人たちとの交流と、その土地ならではの日常生活や文化を体験してほしい」と意見をまとめた。

地元高校生も修学旅行生も人生を良い方向に変えるきっかけに

その後、SB-JのZ世代のコミュニティプラットフォーム SB nestに所属する入江遥斗氏と足立萌愛美氏がファシリテーターを務め、全国の高校生が福井県を旅先とした「高校生が考える、これからの旅行のカタチ」について議論を深めた。

ディスカッションの様子

ディスカッションでは、高校生らしい視点で多様な意見が飛び交い、歴史のある城等を観光資源に持つ丸岡エリアでの修学旅行について考えたチームは、「少人数で楽しむ自分たちで作るHome Stay」というアイデアを議論の成果としてまとめた。少人数であれば各生徒の興味関心に基づいたプランを実現できるうえに、ホームステイで現地の住民と交流することで、より深い学びを得られる修学旅行になるはずだという。

また、敦賀エリアの修学旅行について考えた2つのチームからは、同級生との団結力を高めながら、福井の歴史や文化に没入できる修学旅行のコンセプトについて話し合った。高校生たちは歴史をひも解く謎解きゲームや伝統産業の職業体験を提案。それらを通じて敦賀エリアを深く知ることで、「地域の経済効果や伝統産業の継承につながれば」などと話し合った。

豊かな自然を携える大野エリアについて考えたチームは、地域のコミュニティや星空保護区を生かした体験機会について議論。特に後者では、修学旅行生が地域の高校生とともに星空を眺め、ゆったりとした時間を過ごすことで「地元高校生も修学旅行生も、人生を良い方向に変えるきっかけになるのではないか」と修学旅行の新たな可能性を提示した。

会場では教員らも議論した
発表の様子

シンポジウムでは、高校教員や旅行業界の関係者などが参加した意見交換の場も設けられた。ここでは実務的な話を中心に、「修学旅行で企業と関わることも大きな経験になるのでは」「生徒が何を学びたいかを起点としてプランを考えることで学習効果が高まるはず」「生徒に自分事として修学旅行を捉えてもらう意識改革が必要」といったさまざまな意見が飛び交った。

1日目のプログラムを終えると、最後は日本旅行 執行役員 代表取締役常務取締役(当時)の舘真氏とSB-Jの鈴木が講評へ。

鈴木は、「『地元愛』が地域の価値を再発見するきっかけになり、その価値が固有のコンテンツとなる。それを旅行者に『ストーリー性』を持って伝え、共感を生む。この2点が今日の議論のポイントだった」と話し、「何十年後かにまたここで集まり、今日の議論を振り返ることができたらいい。ここで得たものを各自が今後の活動に生かしてほしい」とまとめた。

舘氏

舘氏は高校生の議論に強い感銘を受けたと話し、「ここで出てきた意見をしっかりと受け止めて、新しい旅に反映させていくことが我々の役割。修学旅行も含め、時代の期待に応えながら旅を提供していきたい」と力強く語った。

シンポジウム終了後は、参加した全国の高校生が福井市内のホテルへ移動。福井県立福井商業高等学校の生徒たちが懇親会を企画し、福井県産の米を食べ比べ、品評する「美味しいお米を食べ比べ! ~福井米1グランプリ~」を開催。福井の米の魅力を知り、その味を楽しみながら親交を深めた。

福井県の高校生が考案した旅程を体験、交流しながら地元の魅力を味わう

(左上から時計回りに)福井米1グランプリの様子、奥越地区の公園、丸岡地区の町並み、敦賀高校の生徒の発表

2日目は、福井県の高校生が考えた3種類のコースに分かれてエクスカーション(体験型見学会)を実施。大野エリアについては、福井県立奥越明成高等学校の生徒が企画した街の自然と歴史を体感するプランで、越前大野城の城下町を中心に散策し、大野市発祥のしょうゆカツ丼などを堪能した。

福井県立丸岡高等学校が企画した丸岡エリアのエクスカーションでは、地域産業である織物をテーマに国内最大のシャトル織機(旧式)を使ったチロルリボン(ジャガードリボン)の生産工場を見学。また、丸岡城の見学や「一筆啓上 日本一短い手紙の館」(資料館)で“大切な人”へ手紙を書いたり、丸岡産そば粉を使ったクッキー「そばっキー」作りなどを楽しんだ。「そばっキー」は同校発案で開発されたお菓子で、チロルリボンでラッピングし、手紙を添えた丸岡エリアのお土産として提案された。修学旅行の思い出を伝えられるものであり、旅から帰ってからも丸岡エリアを思い出してほしいという、生徒たちの思いが込められている。

敦賀エリアは福井県立敦賀高等学校が企画。革命や戦争で難民となった海外の人々を受け入れた歴史を伝える「人道の港 敦賀ムゼウム」を見学したのち、地域の名物であるソースカツ丼を楽しみ、地元で「けいさん」と親しみを込めて呼ばれる氣比(けひ)神宮を参拝して、同校の生徒たちが再発見した敦賀の歴史や文化の魅力を味わった。

参加した全国各地の高校生たちからは「同年代の人と交流することで、心からその土地を知ろうと思えた。自分の地元についてももっと知り、語りたいという地元愛を再確認できた」「地元高校生に案内してもらうことで、その地域ならではの魅力をたくさん知ることができた」「今回の体験を通じて、自分たちの地元にも多くの人が訪れるような企画を考えていきたい」といった声が上がり、エクスカーションはどの旅程も盛況のうちに終了した。

文:市岡光子