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デンマーク企業の事例に見る〝360度デザインされた〟ブランドのコミュニケーションとは:SB特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」(1)

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サステナブル・ブランド ジャパン編集局
自社がブランディングを手がけたデンマーク企業の実例を元にブランドのクリエイティブコミュニケーションの手法について語るKontrapunkt Japan 代表取締役の濱口屋 有恵氏

サステナブル・ブランド ジャパンは9月27日、ブランドがコミュニケーションを通して生活者の行動変容を促すことを目的とした米国発のイニシアチブ「Brands for Good」の第2回目となる特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」を東京・日本橋の室町三井ホール&カンファレンスで開催した。その最初のセッションではデンマークのブランディング・エージェンシー、「Kontrapunkt(コントラプンクト)」社が、自社の手掛けたエネルギー企業が世界で最もサステナブルな企業へと大きく変革した事例をもとに、具体的な手法や考え方を披露した。(沖本啓一)

Session -1 境界を超えるクリエイティブ・コミュニケーション:海外事例から学ぶ日本の挑戦と可能性

講演者:
濱口屋 有恵 (はまぐちや・ともえ) ・ Kontrapunkt Japan 代表取締役

最初に問うのはブランドの〝適切さ〟

「世界で最もサステナブルな企業100社(グローバル100インデックス)」で、4年連続上位にランクインするデンマークの「オーステッド」社。同社は2023年現在、事業の95%がグリーンエネルギーという風力発電の大手エネルギー企業だ。ところが2017年にCO2削減に向けて舵を切るまでは化石燃料を主に取り扱う従来型のエネルギー会社だったという。旧社名はオイルとナチュラルガスを意味する「DONGエネルギー」だ。

オーステッドの事業変革、特にブランディングやコミュニケーションの変革に並走したのが同じデンマークに本社を持つブランディング・エージェンシー、「Kontrapunkt(コントラプンクト)」だ。デンマーク国内の空港のサイネージデザインや国営鉄道のブランディングなど官公庁、企業向けを問わず各国にクライアントを持ち、有名なレゴのロゴを手掛けたのも同社。資生堂やアシックス、日産自動車、三菱自動車工業などのブランディングにも関わり、国外の支社は日本にだけ存在する。

Kontrapunktがデザインを手掛けた企業やブランドのロゴの一例

登壇したのはKontrapunkt Japanの代表取締役、濵口屋 有恵氏。同氏はKontrapunktのフィロソフィーとして「まずブランドのコアであるパーパスやミッション、ストーリーやキーメッセージからつくり始め、ブランドのアイデンティをさらに体験へと落とし込む。コアになる部分を360度支えるようなブランドをデザインすることによって真に価値のあるものをつくっていくことをモットーにしている」と話す。

同社では、最初にクライアントに問うことがあるという。それは「御社のブランドは本当に今、適切でしょうか」というものだ。例えば「昔の消費者は〝何を買いたいか〟で物を買っていたのが、今は自分が〝何を信じているか〟で物を買う」というように、消費者や投資家、従業員の価値観は変化している。そうしたなかで重要視されるのが「適切さ」で、市場、従業員、社会の3つに対する〝適切さ〟の重なる部分にその企業の〝本当の適切さ〟があるという。

さらに濵口屋氏は、「ブランドを構築することは短期間で終わるプロジェクトではなく、長期的に継続するプロセスだ」と続け、「もちろんブランディングはデザインで着飾るだけではなくビジネスの戦略やHRやコミュニケーション、R&Dといった戦略と同等でなければならない。ビジネスとブランドのストラテジーに整合性があることが重要」と話し、本質を捉えたコーポレートブランドの構築の重要性を強調した。

オーステッドはどのようにして変革を成し遂げたか

ブラックエネルギーからグリーンエネルギーへと大きく舵を切る決断をしたオーステッドのCEOの決意も共有された

オーステッドの事例の場合、ブランドイメージの変革を実現するために大きく4つのステップを踏んだという。その第一段階が「方向性を決める」ことだ。Kontrapunktはブランドを構築するときに、必ずパーパス・プラットフォームと呼ぶ土台をつくる。パーパス・プラットフォームはまず3つの質問の答えを探すところから始まる。「企業にどのようなチャレンジがあるか」「そのチャレンジに対する目的(パーパス)は何か」「どのようにチャレンジを克服していくのか」だ。

ブラックエネルギーからグリーンエネルギーへ大きく舵を切る決断をしたオーステッドは、チャレンジを「居住可能な地球を維持するために実行動を取る必要がある」、パーパスを「グリーンエネルギーだけで稼働する世界を創りあげる」、そのために「グリーンで独立した、経済的に実行可能なエネルギーシステムを開発する」と答えを導き出した。さらにその答えを踏まえ、「Love your home」というタグライン(企業や商品などのコンセプトや顧客にとっての価値を伝えるフレーズのこと)を設定した。ここでいうhomeには「地球」と実際にグリーンエネルギーが使われる「自分の家」の2つの意味を込めた。

さらに、実際にこのブランドのプラットフォームを消費者に伝えるためのキーメッセージは「ビジネストランスフォーメーション」「洋上風力の可能性」「再生可能エネルギーの革新」「雇用創出」「行動を促す」と設定し、これらのキーメッセージを「変革の媒体者」というポジションで語ることまでを決めた。

これらは始まりとなる戦略で、企業にとってもっとも重要になると濵口屋氏は話した。

キーワードは「大胆で、前向きで、独創的」

コアとなる戦略が決まると、次にブランドのアイデンティティとなるデザインをつくる。デンマークの企業であるオーステッドはそのルーツを取り入れるため、同国で最も有名なデザイナーの一人であるアルネ・ヤコブセン氏のデザインにヒントを得たという。同氏は幾何学的なデザインに大きく影響されながらそれを有機的に大胆に変容させたデザイナーであることも、オーステッドのストーリーに一致した。

さらにデザインやコミュニケーションをつくる際、標語となったキーワードがあったという。すなわちBold(大胆である)、Optimistic(前向きである)、Inventive(独創的である)の3つだ。

風をイメージした、オーステッドの有機的なタイプフェイス

まず風をイメージした有機的なタイプフェイス(書体)を設定し、それに合わせてピクトグラム(視覚記号)を作成することでデザイン全体に統一感が出る。さらに空の色やヤコブセン氏の良く使う色からカラーパレットを作成した。

また見逃しがちな点として、濱口屋氏はコミュニケーションに使用する写真の設定を挙げた。日本企業のホームページなどでは既存のストックフォトを活用している場面が多く、それぞれの企業の違いが見えにくい。オーステッドではオリジナルの写真を活用し、DONGエネルギーだった当時では人が映った写真はほとんどなかったが、人を中心に写真のスタイルを決めたという。

さらに近年ではデジタルでコミュニケーションを図る機会が多いため、デジタル上で使用できるモーショングラフィックを制作した。風力発電の設備は海上に建設されることが多いため、波のアルゴリズムと渡り鳥の軌道のアルゴリズムを組み合わせた有機的な動きを意識したという。

単にロゴをつくるだけでなく、これらの表現を設定して初めて〝360度デザインされた〟ブランド・コミュニケーションのためのツールが出来上がるというわけだ。

では実際にどうやってブランドを構築するのか。濵口屋氏は「早くスタートする」、「関係者に自分もソリューションの一部だと感じさせる」、「発表し、成功をお祝いする」という3つのポイントを挙げた。

Kontrapunktがこのようなプロセスを踏みブランドを構築しようとするとき、必ずクライアント企業内のワークショップを何度も行うという。それは従業員の自社のブランドに対するエンゲージメントをできる限り高めるためだ。

一般的に、ほとんどの従業員が自社のブランドのパーパスなどを認知しているが、それをきちんと理解し、自分事として感じている従業員は少し減る。さらに行動の変化に取り組んでいるか、独自に行動できているかとなると上位1%程度になるという。

Kontrapunktの定義による、従業員の自社のブランドに対する認知・行動の階段

ここで注目すべき点は従業員がどれだけエンゲージされているかというデータだという。オーステッドの場合、変革前から78%という非常に高い数字だったが、変革を成し遂げた後に86%へとさらに飛躍している。「良いことをしてブランド価値を上げていくと従業員のモチベーションも上がる」と濵口屋氏は力を込めた。

信頼を得るために行動する

ブランド構築の最後のステップは実際に行動することだ。そのためにまず、顧客と接点があるところ全体での一貫性が重要になる。例えばオーステッドが提供する風力発電を実際に家でどれだけ使っているのかを顧客が見る場合、スマートフォンなどが使用される。その時に第二段階で設定したピクトグラムやタイプフェイス、カラーパレットによって「オーステッドが表現できている」ことが有効なだけでなく、例えば社屋の外観に木を使うといったこともコミュニケーションの手段となる。もちろん、サステナビリティレポートや年次報告書を通したコミュニケーションも有効だ。オーステッドは2030年から2040年までのコミットメントをそれらに記載している。

そして何より、同社は旧社名からの変革を2018年に社内発表、2019年にローンチし、1年後の2020年には早くも「最もサステナブルなブランド」に選ばれている。この速度感のある実際の行動こそが重要になるというわけだ。

このように企業、ブランドの適切さへの問いからプラットフォームに沿って、戦略的に構築することが肝要だ。濵口屋氏は改めて「重要なのは適切さ、ブランド戦略はプロジェクトではなくプロセスであること、体験にまで落とし込むこと、そして本質を捉えること。そのためにストーリーのある表現をつくり、みんなを巻き込んでちゃんと行動をとって」と呼びかけ、セッションを終えた。