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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
コミュニティ・ニュース

一貫したサステナビリティの追求を――クリエイター視点で考える、伝わるサステナブルアクション:SB特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」(3)

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サステナブル・ブランド ジャパン編集局
セッション6・7では、クリエイターたちが思いを熱く語った。左から右田氏、倉地氏、牧野氏、有田氏。

企業は生活者に向けたサステナブルアクションをどうマーケティグやブランディングにつなげていくか。いや、その逆で、まずはブランドらしさを体現し、それをどうサステナブルアクションにつなげていくかという発想こそが大事ではないか――。サステナブル・ブランド ジャパンが9月27日に開催した特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT 2023」では、最後に、プランナーやクリエイターとして企業のサステナビリティの支援に携わる専門家がそれぞれの立場から発表し、企業、そしてブランドは生活者にどうサステナビリティを伝えていけばいいのかを参加者全員で考えた。(廣末智子)

Session -5  サステナビリティになぜストーリーが必要なのか

講演者:
足立 直樹・ SB国際会議 サステナビリティ・プロデューサー

共感し、伝えたくなるストーリーを 科学的裏付け忘れずに

セッション5ではSB国際会議 サステナビリティ・プロデューサーの足立直樹氏が、企業がサステナビリティを推進していく上で、生活者とコミュニケーションをとっていくためのポイントを解説した。

自身、生態学の研究者でもあった足立氏は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が、世界中の科学者数100人が合意した結果のレポートであることなどを踏まえ、「環境に関わるサステナビリティとは完全に科学であり、企業も科学を前提に行動せざるを得ない」と強調。その上で「それをどう生活者に伝えていくか」のヒントとして、今年9月にAppleが発売した「Apple Watch Series 9」を例に挙げた。

今回のモデルチェンジでは、機能的に大きなバージョンアップがなかったこともあって世間ではそれほど話題にならなかったが、実は非常に画期的な製品だという。なぜなら、Apple史上初のカーボンニュートラル製品だからだ。

例えばこの時計は、すべて再生可能エネルギーでつくるか、再生可能エネルギーを使えなかった部分はオフセットすることで、製造過程で排出されるCO2を実質ゼロにしている。輸送するのにも飛行機を使わずに船を使うことで、輸送におけるCO2排出量を85%削減することにも成功しているという。

「これは一つのストーリーだと私は思う。こういうストーリーは人の心を動かす」と足立氏。ストーリーでサステナビリティを語る効果は、第一に分かりやすいこと、そして人々の共感を呼び、その共感がブランドのパーパスや価値観を生活者に強く印象付けることだという。一方で、「グリーンウォッシュに当たるのではないか」いう人々の懐疑心は常にあり、事実に基づく裏付けや、ブランドとしての行動の一貫性が重要になるのは言うまでもない。

「ストーリーを有効に使って理解者であるファンを増やし、サステナビリティの取り組み、商品やソリューションをどんどん広めてほしい。そしてそこには科学の裏付けをお忘れなく」

Session -6  異なる視点から見るブランドの未来 : PRとデジタルが語るサステナブル・コミュニケーション

パネリスト:
右田 清志郎・ マテリアル ビジネスプロデューサー/PRプランナー
倉地 栄子・メンバーズ CSV本部 脱炭素DXカンパニー主任

ファシリテーター:
高島 太士・Brands for Good コミュニケーション・プロデューサー/一般社団法人 NEWHERO 代表理事

ここからは、コミュニケーションの専門家であるプランナーやクリエイターが次々と登壇。セッション6では、“PR発想”を基点に企業のマーケティングコミュニケーションを手掛けるマテリアルでビジネスプロデューサーを務める右田清志郎氏と、企業のデジタルマーケティングを支援するメンバーズ CSV本部 で脱炭素DXカンパニー主任を務める倉地栄子氏が、それぞれのサステナブル・コミュニケーションについて語った。セッション6、7ともファシリテーターはBrands for Goodコミュニケーション・プロデューサーの高島太士氏が務めた。

もしインターネットが国家だとしたら… 環境負荷の側面を知るべき

「“MEMBERSHIP”で、心豊かな社会を創る」をミッションに掲げるメンバーズは、「日本中のクリエイターの力で」、気候変動や人口減少を中心とした社会課題解決に貢献するビジョンを描く。そのクリエイターの1人である倉地氏が会場に投げかけたのは、そもそも「デジタルはサステナブルなのか」という問いだ。

現状のデジタルがサステナブルでないことの例として、倉地氏は、環境負荷の側面から、「もしインターネットが国家だとしたら、その電力使用量は、中国、米国に次いで世界第3位となるだろう」とする見方があることを紹介。調達から製造、運輸、販売……と製品のライフサイクルにおける環境負荷の大きさがイメージしやすい他の製品と比べ、インターネットはそのイメージがつきにくいが、「24時間、永遠に使われている。年々世界で使用量が増えていることを知っておく必要がある」と警鐘を鳴らす。

さらに社会的には、インターネットの恩恵が受けられない層との情報格差や、同じ考えを持つグループが他の考えを排除することによって生じる対立、AIの発達などによるフェイクニュースの拡散などが負のインパクトとして挙げられる。「家事」という言葉で画像検索をかけると、女性ばかりが出てくるなど、ジェンダーの観点からも問題は大きい。

そのような問題意識のもとに、メンバーズが行っているのが、ウェブサイトを通じて知らず知らずのうちに増えているCO2排出量の削減を成功基準の一つに取り入れるなど、社会課題の解決を優先したDX支援事業だ。例えば古いサイトやページなどは残らないよう、極力ファイルを削減するのはもちろんのこと、環境に配慮した自動車を紹介するサイトでは、あえて文字でかたどった車を表現することで、その会社の環境に対する姿勢をエンドユーザーに伝えるといった工夫がなされている。

そこに込められているのは、「プロダクトとマーケティングがうまくできても、顧客との接点となるウェブサイトが企業の姿勢を表現できていないともったいない。大事なのは一貫したサステナビリティの追求」というクリエイターの視点だ。

多様な価値観が存在する時代だからこそ

一方、“PRプランナー”である右田氏は、企業から「サステナビリティに関する発信が生活者に認知されない」という相談が多く寄せられることから、「自社内で完結する、生活者向けではない取り組みをされているのではないかという印象がある」と指摘。その上で「まずは生活者に向けて発信し、生活者の行動を促すこと。企業が立案しながらも実際にサステナブルアクションを行うのは生活者であり、結果としてみんなでSDGsやサステナビリティを達成していくことこそが重要だ」と話す。

PRとはパブリックリレーションズという言葉の略だが、つい最近、2023年6月に、日本広報学会によって「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築、または維持する経営機能である」と定義された。

この定義について、右田氏は「注目してほしいのは、会社だけでなく、一個人としてもこのスキルは発動できること、『経営機能』の一つであること」と強調。その上で、「『PR思考』や『PR視点』とは共感を生むための考え方であり、さまざまな多様性のある社会の中で、違う価値観を持つ組織や人々との間で相手の思いを汲み取りながら共通項を見つけていく、その流れこそがPRのスキルだ」と続けた。

「人の気持ちを考えてあらゆるステークホルダーに接することはどの時代においても不変。多様な価値観が存在する時代だからこそ、『PR視点』を持つこと自体が必須なスキルとされるんじゃないか」。いちプランナーとして、右田氏は、生活者の共感を呼ぶことの重要性を繰り返し会場に呼びかけた。

Session -7  クリエイターの視点から見たサステナブル・ブランディングの奥深き役割

パネリスト:
牧野 圭太・ DE共同代表
有田 絢音・ The Breakthrough Company GO 
クリエイティブ コピーライター/プランナー

ファシリテーター:高島 太士

セッション7では、サステナブル・コミュニケーションを考える上での広告の果たす役割についてフォーカスし、コピーライターでありプランナーとして活動する有田絢音氏と、広告を通して社会にできることを発信し続ける牧野圭太氏が登壇した。2氏は今、クリエイターとしてそれぞれ何を大切にしているのか。

アクションと伝えることはセットで考えた方がいい

初めに有田氏は自身の仕事を「コピーライターというと、エモいキャッチコピーを考える人、というイメージがあるかもしれないが、もっとマーケティング的な思考で、そもそもこの事業をどういった言葉で伝えることができるんだろうと逆算して考えている」と紹介。所属するThe Breakthrough Company GOは、「宣伝領域にとどまらず、事業会社と一緒に事業そのものを考えるところから想像していくことを大事にしている会社」だという。

そんな有田氏は、自社のサステナビリティへの取り組みを生活者にどう伝えればいいか、というこの日のセッションを貫く問いに対し、「多くの企業がどんなアクションを取るのかを最初に決め、その後でそれをどう話題化していこうかと考えるから、そういう問いが生まれるのではないか。そうではなく、アクションと伝えることはセットで考えた方がいい」と提起する。

『いいアクション』で、かつ、『伝わるアクション』とはどのようなものか。その具体例を有田氏は、今年初めてリアルに参加したという世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」の受賞作品を紹介する形で示してみせた。理想は、『ブランドがやるべきことや、できること』と『社会の関心事』『(かっこいい、便利、おいしいといった)ユーザーの本音』の3つが重なった部分にあるという。

今年のカンヌライオンズで有田氏の目に留まったのは、「正直な卵」という名前のブランド卵の生産販売を行う会社の、動物福祉をテーマにした企画だった。世界中で狭いゲージの中でひたすら卵を産み続ける養鶏のあり方が問題になる中、このブランドでは「鶏が本当に広い場所で自由に動き回れる」ようにしているだけでなく、そのことを鶏の背に搭載したGPSによって計測し、1日の歩数や歩行距離を産んだ卵の表面に印字している。「ユーザーの本音として、たくさん歩いた鶏の卵はよりおいしそうに感じる」。上記の3条件が揃った好事例だ。

ほかにもイケアの使わなくなった家具を回収し、中古の家具に付加価値を付けて再販売するキャンペーンなどを有田氏は「ブランドのあるべき姿をまず定義し、そこから一貫してやるべきことをやっていく姿勢がユーザーの信頼を獲得している」と評価。「一つひとつのアクションこそがブランディングだ」と力説した。

文化的なものがあるから、この社会が成り立つ

一方、牧野氏は、2009年に博報堂に入社以来、コピーライターとして「広告を通して社会的意義のある活動をしたい」という思いを持ち続け、2021年に『何かを脱して、新しい道を切り開く』という意味を込めた、DEを創業した。

自身が手がけた「社会的意義のあるコミュニケーション」としては、スーパーでもコンビニでも野菜が買える時代にあって、「都市に青果の専門店があることが暮らしの豊かさや文化の面で大切ではないか」という発想で立ち上げた青果店のデザインや、「手のひらに文学を」をコンセプトとする8ページほどしかない小さな文庫本シリーズの企画・販売、京都の伝統産業である黒染めによる洋服のリサイクルなどがある。それらを貫くのは、「文化的なものがあるからこの社会がサステナブルに成り立つんだ」という強い思いだ。

企業とのコミュニケーションでも、さまざまな社会課題に対して何ができるかという切り口で取り組み、食品ロスをなくすことを目指す企業のブランディングでは『楽しい買い物でみんなトクするソーシャルグッドマーケット』という、まさにブランドとユーザーと社会的価値の3つの視点から企画を発想するなど、ポジティブな思考で手がけた実績が数多くある。

今年7月には千葉の内房にある、元学校だった施設を活用し、「エリア全体で、サステナブルローカル(持続可能な地域)を実現するための取り組み」を始めたところだという。「東京のど真ん中にいると、どうしてもなかなか資本主義から離れられない。そういったものから少し距離をとりながら、エネルギーやごみを巡る活動から始めていければ。興味のある方、ぜひ一緒に何かをやってみませんか」と会場に呼びかけた。

セッション6・7とファシリテーターを務めたBrands for Goodコミュニケーション・プロデューサーの高島太士氏は、自身もクリエイターである立場から、「サステナビリティという言葉のもとで、事業会社も変わっていかないといけないとのと同じように、クリエイターのスタンスも変わっていかねばならないのだという思いを強くした」と両セッションを総括。会場の室町三井ホール&カンファレンスでは登壇者と参加者によるネットワーキングが終日、活発に行われ、2年目となった特別企画「BRANDS FOR GOOD+ SUMMIT」は盛況のうちに閉幕した。

サステナブル・ブランド ジャパンは今後も、「Brands for Good」の参画企業を募り、ブランドの規模と影響力を活用し、生活者と共に真の変化を生み出すための取り組みをさらに加速させる。