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ブランドが社会とつながる、持続可能な未来へ  「サステナブル・ブランド ジャパン」 提携メディア:SB.com(Sustainable Brands, PBC)
チャンピオンに聞くサステナブル・シーフード普及への道

消費者を巻き込み、持続可能なエビの養殖業をつくる

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コミュニティ・ニュース

寄稿:シーフードレガシー

昨年開催された「第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード」。各部門で初代チャンピオンに輝いた企業や団体の方と、同アワードを主催するシーフードレガシーの花岡和佳男代表が対談する全3回のシリーズ寄稿。

「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」
日本生活協同組合連合会、WWFジャパン、BOMAR社(PT.Bogatama Marinusa)、WWFインドネシア

第1回ジャパン・サステナブルシーフード・アワードのコラボレーション部門の初代チャンピオンに輝いた「インドネシア・スラウェシ島 エビ養殖業改善プロジェクト」は日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)、WWFジャパン、インドネシアのBOMAR社(PT.Bogatama Marinusa)、WWFインドネシアとで進められています。

このプロジェクトは日本生協連が策定した「コープSDGs行動宣言」のうち、「持続可能な生産と消費のために、商品とくらしのあり方を見直していきます」とする考えのもと、インドネシアの南スラウェシ州で生産されているブラックタイガーを環境、社会、人に配慮した生産方式に転換すべく、2018年7月から3年間、ASC認証の取得を目指して進められています。生協組合員(消費者)が対象商品を購入すると1点あたり3円がこのプロジェクトに寄付され、その寄付金がファーマーの研修やマングローブの植樹活動などに充てられる仕組みになっており養殖現場、環境NGO、流通企業だけでなく消費者も巻き込んでサプライチェーンを構築する模範的な活動と言えます。今回、日本生協連の第一商品本部・本部長スタッフ(サステナビリティ戦略担当)の松本 哲氏にプロジェクトを始めたきっかけ、取り組みを聞いてみました。

責任のある調達の実現に向けて

日本生協連の第一商品本部・本部長スタッフ(サステナビリティ戦略担当)松本 哲氏

花岡:まず、このプロジェクトを始められたきっかけを伺えますでしょうか。

松本:日本生協連では何十年も前からからエビの直輸入事業を行っており、産地でのエビフライ加工など事業の高度化もすすみました。しかし、サステナブルな調達への取り組みは不十分でした。加工場での品質管理や(仕様通りに商品が製造されるための)トレーサビリティの点検はやってきましたが、エビが加工場に入って来るまでの生産現場の状況まではなかなか把握できていなかったと思います。

花岡:それを最初の原料から見直そうと思われたきっかけは何だったのですか?

松本:商品調達に関する社会的な要請が2010年代に大きく変わってきたと感じています。SDGsが2015年に国連で採択され、日本においても行政、事業者はもちろん、私たち一人一人にとっても大きな課題になってきており、より広く環境や社会に目を向けていかなければいけないという問題意識がありました。

花岡:海に関わらず沢山の商品を扱われていますが、その中でエビに着手したのはなぜですか?

松本:日本生協連の会員の各地の生協は、それぞれ事業を行い、商品を仕入れていますが、エビは日本生協連の商品の導入が比較的すすんでいます。これまで直輸入のメリットを活かして、おいしさと品質、バランスのとれた価格を追求し、消費者に支持されるように商品を充実させてきました。ブラックタイガーのエビフライは日本生協連の水産部門の代表的商品の一つですので、責任ある調達に向けてきちんと取り組みをしていくことが事業継続という観点からも大切なのではないかと思いました。

花岡:御会のような供給側がサステナブル・シーフードの新しい需要を作り消費を変えていく流れ、すばらしいと思います。

松本:会員生協ごとにそれぞれ取り組みがありますが、生協全体としてSDGsの達成に取り組んでいく流れになっています。そのような活動に共感していただいてい組合員の方には、積極的に受け止めていただいていると思います。コープ商品のブランドステートメントの一つ「地域と社会に貢献」がありますので、そういった役割を商品に持たせたいという思いがあります。

現地で養殖されているブラックタイガー

プロジェクト成功のカギは連携

花岡:プロジェクトを始めたり進めたりする上でどのような課題がありましたか?また、それをどのようにに解決しましたか?

松本:まず、パートナー(取引先)が取り組みにご理解いただけるかどうかがあります。日本生協連の役員や職員が現地の取引先を訪問したときに生協の取り組みを説明し、ASC認証の取得などの検討を要請しましたが、その中ではBOMAR社が真っ先に受け止めていただきました。
そこから、BOMAR社がWWFインドネシアの方に相談してお付き合いが始まって、日本生協連とのプロジェクトとして、提案がまとまり、プロジェクトが具体化していきました。

現地研修の様子

花岡:海外を含め様々なステークホルダーと関わるこのプロジェクト、成功の秘訣はなんでしょうか?

松本:それはやはりWWFさんの協力が非常に大きかったと思っています。

現地での取り組みはもちろん、国内での広報や寄付金付商品のコミュニケーションについてもいろいろ議論しました。今回のプロジェクトの対象の養殖池は、調達しているブラックタイガーの産地の一部なのですが、将来的には対象を広げてブラックタイガー全体へサステナブルな取り組みを拡大していくということで、コープのブラックタイガー商品のほぼ全てを寄付金付商品としてプロジェクトの意義と合わせて訴求することにしました。

花岡:日本のバイイングパワーでローカルの生産がサステナブルになり社会が豊かになっていくというのは、消費国である日本の責任という重要なところを果たされているなと思います。

松本:事業をよりサステナブルにしていくことも我々にとって非常に大事ですけれども、改善の活動を通じて、現地のエビの生産性が向上し、それによって産地の地域住民の生計が確立するという一つの課題解決につながっていければ非常に良いなと思いますね。

花岡:SDGsの12番「つくる責任、使う責任」、14番「海の豊かさを守ろう」、17番「パートナーシップで目標を達成しよう」に関する活動ですし、基本精神である「誰も取り残さない」というところにもつながっていきますね。

松本:そういう形でうまくいけるように頑張りたいと思います。

サステナブル・シーフードのムーブメントを盛り上げたい

花岡:プロジェクトが進んでいく中で去年応募しようと思われたのはなぜですか?

松本:ムーブメント自体を盛り上げていきたいということもありますし、審査員の方々に対しても生協の取り組みの今の到達状況をご報告できることもよいのではないかと思いました。

花岡:チャンピオンになって周囲で変化はありましたか?

松本:お取引先からも祝辞をいただきましたが、日本生協連の取り組みが社会的な評価を得られた機会になったことは非常にありがたいと思っています。また、様々な形でこのプロジェクトやエシカル消費の取組みに関わっている職員にとっても、評価されたことはよかったと思います。

日本生協連は、これまでも環境やSDGsの取組みで表彰を受けることはありましたが、水産部門としての受賞は初めてでしたので、とても前向きに受け止めています。私にとっても、仕事がやりやすくなったと感じています。

花岡:そうなんですね。このプロジェクト以外にも沢山の取り組みをされていますが、消費者意識の変化を感じる部分はありますか?

松本:認証商品が積極的に選ばれるといったところまではいっていないというのが率直なところですね。売場の水産商品の多くが認証されているイギリスやドイツなどとはまだ違うでしょうが、認知がすすむには時間がかかるだろうと思っています。

日本生協連の組合員モニターアンケートによると、MSC認証のロゴを見たことがある、買ったことがあるという組合員の数はこの3年で倍ぐらいになっています。認証商品の利用を一つのきっかけとして興味関心を持っていただければよいですね。プロジェクトについても、日本生協連だけでなく会員生協の広報紙やカタログで紹介しています。

2017年から毎年、「コープのエシカル」という冊子を生協役職員・組合員向けに作成していますが、2020年版では、プロジェクトの紹介と昨年度の商品の利用からの寄付(協力金)が900万円近くになったことを紹介しています。

花岡:すごい額ですね、寄付金だけでこれだけ集まったんですね。

松本:そうですね、寄付金対象のブラックタイガーの商品が年間300万点弱くらい利用されていることになりますね。

コロナ下でも歩みを止めない

花岡:このプロジェクトはこの後どう展開していくのでしょうか?

松本:プロジェクト期間は来年6月までですので、対象のASC認証の取得に向けて進捗と課題の確認をしていきます。プロジェクトに取り組むことで、産地の雇用関係や土地の権利などでの課題があることもわかりました。今は、コロナウィルス感染拡大の影響で活動に制約があり、当初の想定通りの進捗にはなっていません。また、今期のプロジェクト終了後については、今回の教訓、経験を生かしながら、プロジェクトを拡大していく方向で検討を進めています。

花岡:コロナ禍によって宅配サービスに対する社会的需要が高まり御会も大きく貢献されています。一方でコロナ禍は色々な問題を生み出し、どの組織も優先課題の選択が迫られています。御会の場合はSDGsの取り組みはこれから尚更大事だと思って優先順位を上げていくのか、あるいはそれどころではないと落としていくのか、どのようなお考えでいるのでしょうか。

松本:まだ、コロナ禍中にありますが、日本生協連は2018年に「コープSDGs行動宣言」を第68回通常総会で採択し、今年の総会では「日本の生協の2030年ビジョン」を採択しています。その流れに沿って「日本生協連SDGs取り組み中期方針2020-22」を定め、実行計画も作成していますので、しっかり取り組んでいくことは変わりません。

その実施計画においても、「インドネシア・スラウェシ島エビ養殖業改善プロジェクト」は位置づけられています。同時にこれらの課題においては、会員生協とともに生協組合員(消費者)とのコミュニケーションを丁寧にすすめていくことが大事だと考えています。

花岡:課題を自分ごととして解決を目指す、そのためにマルチステークホルダーとのコミュニケーションを大切にする、という姿勢があるからこそ、最初にインドネシアの生産者が動いた、今回のことは大事だと思ってWWFインドネシアに相談したというステップが進んだんだろうなとお話を伺ってて思いました。

松本:BOMAR社は、プロジェクトの話が出る以前ですが、来日して生協組合員の集まりで話をしたり、試食会をしたことが何度かありました。生協は、そういった産地と消費者とのつながりを大切にする、商品を非常に大事にすると感じていただいたのではないでしょうか。そのような経過があって、日本生協連からASC認証にチャレンジしませんかと提起をした時に受け止めていただけたのではないかと思っています。

花岡:グローバルサプライチェーンの長さや不透明さや脆さ、また、そもそも経済と環境、消費行動と自然資本の歯車が噛み合っていないことによる根本的な問題が、コロナ禍においてますます顕在化してきています。その中で御会のアプローチは、これらの問題解決の糸口になっていくのだろうと思います。


松本:これからの社会の変化について考えると、商品調達への関り方により深みが求められるのだろうと思います。全体としてどのように改善して、サステナビリティの方向に進んでいくのかをきちんと考えていかないと、事業を継続していくことが難しくなるかもしれません。

花岡:最後に、これからアワードに応募される方に対してアドバイスやメッセージをお願いします。

松本:今回の受賞で評価いただいた点は、いろいろな形でステークホルダーを巻き込んだ取組みであることだと思います。NGOのWWFと協働しながら、原料のブラックタイガーを調達し商品を製造するBOMAR社、商品を輸入し会員生協に供給する日本生協連、消費者である生協組合員に商品を販売する各地の生協、商品を利用する生協組合員(消費者)がそれぞれの関り方でプロジェクトを支えています。

一つの事業者ができることは限られたことですので、できる限りいろいろな形でステークホルダーと協力して取り組みを広げていく、あるいはより深く一緒に追求できるところを考えていくというのがこれからも大事ではないかと思います。このプロジェクトだけでなく、ステークホルダーとの協働や、消費者とのコミュニケーションを大切にしていきたいですね。

花岡:松本さん、有難うございました!

第2回ジャパン・サステナブルシーフード・アワード応募受付中!
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