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脱炭素特集

世界の食からエネルギーまで、温暖化が引き起こす危険な負の連鎖

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北村和也

連日の暑さに命の危険さえ感じる一方、熱波は私たちの「食」にも牙を向け始めている。8月下旬時点でスーパーなどからコメが一斉に消えたり、高値となった原因のひとつに、昨年夏の超高温がある。以前のコラムで日本の漁業の異変を書いたが、世界ではコーヒー・カカオ豆から、ワイン、オリーブオイルと、気候変動で収穫量が落ちたことによる高騰が起きている。
影響は食にとどまらない。銅や石油などの鉱物資源や、なんと脱炭素のために欠かせない再生可能エネルギーの電源にも及ぶ。温暖化がもたらす“複雑怪奇で危険”な連鎖についてお話しする。

影響を受けやすい農作物、主食に迫る危機

温暖化によるコメへの影響は、現状では品質の低下が最も大きい。家庭で白く濁った精米を見た人は多いであろう。実際には一等米が減少した程度で、“不足騒ぎ”の主要因は、政府による減反政策やインバウンドの需要増の影響と考えられている。
しかし、このまま温暖化が進めば、コメの収穫量は減少する可能性が高い。
以下のグラフは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)による、コメに対する温暖化の影響を予測したものである。

気温上昇によるコメの収穫量の変化予測(1981~2000年の平均比、パーセント)、出典:農業・食品産業技術総合研究機構

気温が4度上昇した場合に、コメの収穫量が1981年から2000年の平均に比べてどう変わるかをプラスマイナスのパーセントで示している。関東地方から西の地域では、平均で5~15%も減ると予測されている。一方、北日本では暖かくなることで逆に増加の傾向が見られる。
容易に想像がつく通り、農業は天候や気温に左右され、温暖化の影響を受けやすい。
共同通信が2年前に、地球温暖化などの気候変動により、品質低下や収穫量減といった影響が出ている農作物について行った調査では、43の都道府県でコメが挙げられた。このほか、ブドウ(31)、ナシ(28)、ミカン(20)と果物が比較的多く、野菜では、トマト(20)、豆類(17)、ネギ(14)となっている。
*( )内は、影響のあった都道府県の数

世界に目を向けると、すでに甚大な影響が見られている。海外での動きは、日本にいると価格の変化で感じることが多い。急に高値となったオリーブオイルやじわじわ値上がりし始めているコーヒーやチョコレートは、押しなべて気温上昇による収穫量の減少が背景にある。
一部に、作物が育つ場所、魚が獲れる場所が移動するだけ、との意見も聞かれる。しかし、育て方や販売ルートの確保、保存や運搬方法の確立など、新たな場所での“適応”には莫大な手間とコストがかかることを忘れてはならない。

異常気象による豪雨と渇水が及ぼす、連鎖的な負の影響とは

比較的分かりやすい農作物以外にも、温暖化の影響は確実に出始めている。
意外なのが、鉱山など鉱業に対するものである。異常気象による豪雨が採掘などの活動に大きな影響を与えているという。例えば、鉄鉱石の生産で世界一位、二位のオーストラリアとブラジルで、記録的な大雨のため操業中止などが相次ぎ、生産が大幅に低下したという。

一方、逆に、温暖化がもたらす干ばつや渇水などの水不足の影響も報告されている。
実は、鉱業での金属生産には大量の水が必要となる。オーストラリアでは全国の水の消費量の2%程度が工業生産に使われている。ところが、世界各地で発生する干ばつは、鉱業での生産に必要な地下水やダムの水不足をもたらしている。銅生産世界一のチリの近年の悩みは干ばつである。

負の連鎖は、温暖化の防ぎ手にまで及んでいる。
下のグラフは、世界の水力発電の発電量の変化(2022年⇒2023年)をまとめたものである。

世界の水力発電量の変化(2022-2023)、出典:IEA, CO2 Emissions in 2023

それによると、昨年2023年の世界の水力発電の総発電量は、前年に比べておよそ200TWh減少した。右のグラフに見るように、欧州では60TWh分増えているが、これは2022年にひどい干ばつに見舞われたものをやや取り戻したに過ぎない。そして、世界の減少分のおよそ3分の2を占めたのが、中国である(左グラフ)。
中国では、南部で大洪水、中部で干ばつという、温暖化ならではの極端な気候に襲われ、水力発電が歴史的な大不振となった。最大の問題は、水力発電のカバーを石炭火力発電に頼ったことで、2023年の中国、そして世界のCO2排出量の増加を招くこととなった。

ついに、温暖化は重要な再生エネ電源にも負の影響を与え始めている。ちなみに、世界の2023年のCO2排出量増加の最大の原因は、水力発電の不振、2番目は、コロナ後の航空機の復活であった。

命を守る闘いに備えるために

温暖化は、太平洋など島しょ国の海岸線での海面上昇による『住』の脅威を与えている。私たちの生命(いのち)をつなぐ『食』にも。そして、農業など一次産業にとどまらず、鉱工業の生産など『経済』への影響がさらに広がることは確実である。私たちは危機の中にいる。

一方で、ウクライナやガザの戦争(戦争は世界最悪の温室効果ガス増加の要因)や、レベルの低い政治がもたらす混乱と混とんが日本を含めて続いている。求められるのは、まず正しい危機の認識であろう。子どもたちなど、後を引き継ぐ人たちに地球を正しく残していくのは、危機を招いた大人たちの責務である。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役、埼玉大学社会変革研究センター・脱炭素推進部門 客員教授
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。