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脱炭素特集

気候行動は「命をかけた闘い」、国連による呼びかけに各国政府や企業が応じなければならない理由

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北村和也

世界気象の日のテーマ「気候行動の最前線で」(出典:国際連合広報センタープレスリリース)

3月23日は「世界気象の日」であった。
国連のグテーレス事務総長は、この日に寄せて強いメッセージを発信した。気候は崩壊しつつあり、世界中で火災、洪水、干ばつが発生し、異常事態がニューノーマルとなっている、との現状認識をまず示した。そして、私たち全員が気候行動の最前線で団結しなければならないと呼びかけたのである。
実際にあらゆるデータと現実は、温暖化の急速な進行を示している。
今回の記事では、いくつかの数字と目の前にある現象を示すとともに、企業や政府の責任を再確認していく。

WMOのデータなどが示す地球の危機

グテーレス事務総長のメッセージでも引用された世界気象機関(WMO)の報告書「地球の気候の現状2023」が発表されたのは、国連によるリリースのわずか4日前であった。
報告書の内容は、まさに衝撃的であった。

・2023年の平均気温が174年の観測史上、過去最高を記録
・平均気温が産業革命前の基準値の+1.45度
・各種記録を軒並み更新:温室効果ガスの濃度、地表温度、海洋熱、海面上昇、南極の海氷面積の減少、氷河の後退など。特に、海洋の温度上昇、南極の海氷の減少、氷河の後退は懸念すべき

WMOのサウロ事務局長は、数々の負の記録更新を受けて「WMOは世界に向けて、レッドアラート(非常警報)を鳴らす」と最大限の警戒を促した。

国連のグテーレス事務総長は、2年前の2022年の世界気象の日にもメッセージを出していた。そこでは「人為起源の気候崩壊が今、あらゆる地域に被害を及ぼしています」としている。しかし、「地球温暖化が進むたびに、異常気象は頻発化、激甚化します」と未来形で語って早期警報と早期行動を呼びかけており、危機感のレベルがこれまでとはやや違う。実際の温暖化は、このわずか2年で、事務総長の想像さえもはるかに越え、非常警報まで進んだことが分かる。

海面温度の上昇と私たちに及ぶ大きな影響

WMOでも大きな懸念を示したデータの一つが、海の温度の変化である。
下のグラフは、Climate Reanalyzerがまとめる海面温度の世界平均値である。米国の海洋大気庁(NOAA)のデータなどを基に日々更新されている。

毎日の世界の海面温度の変化(1981⁻2024)*黒:2024年、オレンジ:2023年 (出典:Climate Reanalyzer)

縦軸は実際の温度、横軸は1月から12月の1年間を表し、1981年後半からの観測値を折れ線グラフで示している。
オレンジ色の折れ線が2023年のもので、昨年3月の後半から一貫して過去の数値を上回っていることが分かる。2023年の世界の海水温は、平均で観測史上最高となった。
ところが、今年(太い黒線)はそれをさらに超えて始まっている。2月末から3月初旬までは初めての21.2度台を記録した。

具体的な温度上昇で取り上げられるのは大西洋の北部が多いが、実は日本近海での上がり方も激しい。特に東北や北海道の太平洋側では、平年を2度から6度高い温度が観測されている。その直接的な影響は、水産業、魚種へのものが最も分かりやすい。
筆者は、岩手や青森などを訪れることが多いが、地元で決まって聞こえて来るのが、魚が取れなくなったという指摘である。特に、イカやサケ、サンマなどの特産の漁獲量が激減している。冷たい水を好む魚が暖かい沿岸付近に近寄らなかったり、北上したりしていて、サケは川を上がってこないという。
青森湾の養殖ホタテは、夏の猛暑で海水温が上がって稚貝が大量死してしまい、来年の養殖のめどが立たない。一時、原発の処理水の放流で中国の輸入が途絶えるとのニュースが駆け巡ったが、それどころか温暖化は養殖継続の根本を揺るがしている。

危機感を共有する気候行動のメリット

災害を引き起こす温暖化はもちろん脅威であるが、生活基盤を襲う影響はじわじわとすべての人を蝕(むしば)んでいくことになる。

振り返って、WMOの今年のテーマは「AT THE FRONT OF CLIMATE ACTION:気候行動の最前線で」であった。国連のグテーレス事務総長はメッセージで「私たち全員が気候行動の最前線で団結し、より良い未来のために闘わなければなりません」と呼びかけている。
特に企業に対しては、再生可能エネルギーへの移行や排出量を1.5度の上限に沿って削減することを求め、一方で、世界中の市民に、政府や企業に対して行動を起こすよう圧力をかける必要があるとまで言い切っている。最後は、「私たちの命をかけた闘いです」と最も強い口調で訴えた。

大前提として、政府や企業は温暖化の進行の実態を認識した上で、国連やWMOと危機感を共有しなければならない。そして、国際的、社会的責任を果たすべく、まさに気候行動(Climate Action)を実行に移さなければならない。

ここにきて、日本企業にも脱炭素や温暖化防止を意識した企業活動が目立ってきている。
二酸化炭素排出削減の目標設定や実施スケジュールの公表、Scope1、2、3のカウントも進む。国境炭素税などを見据えたICP(インターナルカーボンプライシング)の導入も始まっている。これまで料金プランで済ませていたCO2フリー電力の利用から、自家消費やPPAによる追加性のある電力利用も珍しくなくなってきた。

注目すべきなのは、これらの活動は企業価値を向上させる効果も生み始めていることである。ブランド戦略に則った個別製品の脱炭素化はその一例であろう。
一方で、中途半端やいい加減な脱炭素に向けての行動は、市民などからグリーンウォッシュという厳しい非難を浴びることも分かってきている。グテーレス事務総長が世界の市民に呼び掛ける「企業への圧力」は決して大げさではない。

この点では、特に日本政府は心してかからなければならないであろう。例えば、“移行”に名を借りたアンモニア混焼発電への肩入れなどは、すでにG7を含めた国々から化石燃料利用の延命との批判を受けている。アンモニア発電は2050年の段階で水素発電と合わせても全体の1%に届かないという予測が京都大学の研究グループから発表された。これでは“移行”への投資や開発の意味がない。

データが示す温暖化の急速進行と頻発化する災害などに対する説得力を持った気候行動だけが、政府の取るべき道である。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。