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脱炭素特集

避けて通れない交通革命――脱炭素と地域課題解決の“二兎を追う正しい道”

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北村和也

焼津市で実施された「コミュニティーMaaSプロジェクト」で使われたグリーンスローモビリティ

日本各地でのEV(電気自動車)の導入や関係する取り組みのニュースが非常に増えている。特に、地方でのバスや小型車、軽トラックと乗用車以外のプロジェクトが目立つ。もちろん、EVとセットともいえる自動運転を目指す動きも定着してきた。
世界で圧倒的なシェアを占めるガソリン車だけでなく、運転手まで消えようとしているのは、まさに『交通革命』である。
革命を推し進めるのは脱炭素だけではない。地域が抱える深刻な課題解決のためにも必須な選択であるこの動きを今回は取り上げる。

地域から沸き起こる交通革命

上の写真は、静岡県焼津市での「コミュニティーMaaSプロジェクト」で使用された超小型EVで、「グリーンスローモビリティ」と命名されるように最高時速19キロの低速車である。
国土交通省によれば、「MaaS(Mobility as a Service)」とは、地域住民や旅行者の移動ニーズに対応して、複数の公共交通などを最適に組み合わせ、検索・予約・決済等を一括で行うサービスである。移動の利便性向上だけでなく、地域の課題解決にも資する重要なツールとされている。

この取り組みは、地元静岡の合同会社うさぎ企画が主催し、1月から2月にかけての31日間行われた。3台の電動自転車も加わり、1日乗り放題500円の電子チケットで市内の23カ所の停留所を利用するシステムであった。停留所は、コワーキングスペースや観光の名所、駅から離れた水産加工品の直売店などに設定され、延べライド数(人数×利用回数)520回で、市内の施設への来訪数は600回を超えた。

このほか、長野県野沢温泉村では、EV製造会社と共同で、三輪タイプのカーシェアリングの実証を始めている。EVシェアリングの実施だけでなく、将来的には村で保有する小水力発電(まくね川小水力発電所:97kW)の電力利用などで持続可能な観光をPRしたい考えである。また、群馬県渋川市では、1人乗りの電動車を使った市街地での実証試験が10月から予定されている。

地域が悩む、買い物難民の増加と運転手不足

すでにEVバスの路線での実装を終え、自動運転を行っている自治体もある。
茨城県境町で、3年前の2020年11月から運行を開始した。

茨城県境町で走る自動運転の路線バス (出典:境町WEBサイト)

バスは、道の駅を基点とし町の中心部を通る2路線で、計10キロメートル弱のルートを1日18便走っている。町には鉄道の駅がなく公共交通に乏しいため、「町民が安心して行き来し、住み続けられる町にする」との橋本町長の考えから始まった。
現状のEVバス(3台:フランス製)は運転を部分的に自動化した「レベル2」であるが、名実ともに自動運転となるレベル4(一定の条件の下で運転者なしの無人運転が可能)に対応する、新たなEVバス(エストニア製)のコミュニティバスとしての導入が決まっている。

これらの取り組みの背景にあるのは、地方に共通する「交通手段の不足」である。
境町も含め、公共交通が無かったり、縮小廃止されたりするケースや、老齢化で自動車の運転ができなくなる結果としての買い物難民の増加である。
これに追い打ちをかけているのが、いわゆる「2024年問題」である。
来年の4月1日以降、「自動車運転業務の年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称」で、同じ業務を行うのにこれまで以上の数のドライバーが必要になる。結果として、トラックやバス、タクシー運転手が不足することになり、日本バス協会の試算では、人口減なども加味すると2030年におよそ3万6000人のバス運転手が足りなくなるという。
前述した境町の橋本町長が、「運転手の人手不足を考えると、自動運転化は必然だ。」とテレビのインタビューで語っていたのが印象的であった。

脱炭素に逆行するだけでなく、交通革命も阻害するガソリン補助

EV化の本筋は、まず脱炭素対応である。
最終的に使われるエネルギーの形は、日本では、およそ電気2割、交通3割、熱5割と考えてよい。世界では、エネルギー利用の電化を拡大し、それを再生エネ電力で埋めて脱酸素化を図るというのが共通認識となっている。
交通では、ガソリン車からBEV(バッテリーEV)へのシフトがそれにあたる。

世界の新車販売に占めるEVの割合の実績(IEA)とRMI(ロッキーマウンテン研究所)の今後の導入予測

EVの導入は2020年を超えて急速に進み、現状では新車の15%程度、RMIの予測では、数年後の2030年には早ければ60%程度、場合によっては新車の9割近くがEVになるとしている。

日本ではやっと新車の割合が2%程度で、充電器の普及も含めEV化は格段に遅れている。何より肝心のトヨタが重い腰をやっと上げたばかりである。その一方、このコラムで取り上げたように、地域課題の解決の面から地方ではEV普及の先進的な取り組みが着実に拡大している。
そこで、不可思議と断定せざるを得ないのが、政府が継続するガソリン補助である。

X(旧Twitter)に登場したガソリン補助のPR (出典:資源エネルギー庁)

ガソリンの補助金は昨年1月下旬に始まり、すでに1年8カ月が経過している。今年6月以降、段階的に縮小し9月には終了するはずだった。しかし、円安などの影響で国民の負担が重いとして、4度目の延長となり年末まで続けることになった。
これに対して、マスコミ各社は社説などで反対を表明している。論拠は、バラマキと脱炭素に反するという2点で共通している。確かに、自民党の部会では、「国民に見えやすい形にすることが重要」と、175円が“見えやすく”強調された。解散の絡みもあって、さらなる延長の声まで出ている。補助は低所得者や公共交通などに限定すべきであり、そもそも車を持たない人への不公平感が半端ない。海外を見ても、イギリス以外の国ではとっくに補助を止めている。

ガソリン補助は何より、脱炭素に反する。つまり交通革命を阻害する。驚くことに、毎年減り続けていたガソリンの販売が昨年増加に転じた。
補助総額は年末には5兆円に達する勢いである。莫大なお金がCO2増加に使われる。一方、全国の小中高校の教室の断熱工事をすべて行ったとして、必要な額は7500億円と聞く。再生エネ拡大の肝となる系統線の増強に必要な額は6兆円から7兆円と言われている。各地での交通革命を推進するのに必要なお金はいくらあっても助かる。

政策の優先順位は誰が見ても明らかである。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。