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脱炭素特集

Z世代に影響が深刻な脱炭素 ~「異なる将来の世界」と大人たち現役世代の責任と義務

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北村和也

2021年2月、ベルギーのブリュッセルで、グレタ・トゥーンベリさんが若者数千人を率いて行った、世界の指導者らに温暖化対策を求めるデモ行進の様子(グリーンピース提供、Eric De Mildt撮影)

カーボンニュートラル実現のターゲットは2050年である。絶対的な事実として20数年後にやってくるが、世代間で見ると、その感じ方はあくまでも“相対的”である。
筆者の年齢だと、正直言ってその年に生きている自信はほぼない。逆に若い世代にとってみると、まさに人生の真っただ中となる。すでに吹き荒れる異常気象の嵐への対処と合わせて、今後の“生きる環境”がどうなるか、私などの壮年世代と若い世代の捉え方が異なるのは当たり前である。
違いを踏まえたうえで、温暖化の責任の所在を確認すること、そして、これからどんな行動を取るべきなのか、今回のコラムでは考えてみる。

Z世代が勝利した、気候被害への違憲訴訟

ところはアメリカ西部のモンタナ州、裁判の原告団は5歳から22歳までの16人で、いわゆるZ世代に属する若者たちである。アメリカ各地で同様の訴訟が進行しているが、今回が初めての結果であった。
8月14日に現地で出された判決では、「州が化石燃料のプロジェクトを承認する際に気候変動を考慮しなかったのは、現在および将来の世代のために環境を維持し改善する責任が州と個人にあるとする、州憲法に反している」と断じた。

モンタナ州は、油井とガス井がそれぞれ4000カ所と5000カ所、さらに4つの製油所、6つの炭鉱があって、アメリカ屈指の化石燃料の集積地である。判決を出したシーリー判事は、州の排出量が気候に影響を与える重大な要因と認定した。
この判決は、人が原因の気候変動による壊滅的な影響から地球を救おうとするこの世代の取り組みの転換点を示すと、高い評価を受けた。
脱炭素が進まない危機感に動かされた、Z世代の象徴的なニュースである。

“不公平な”被害者としての若者、「異なる将来の世界」とは

下の図は、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめた、今後の気候変動の状況と「世代の位置関係」を示している。

若いほど大きい気候被害 (出典:IPCC ※「世代」は筆者加筆)

本コラムの冒頭に示したように、時間軸は絶対的に見えて、実は、年齢によって受ける影響は違ってくる。IPCCの本図の作成意図もそこにある。
わかりやすくするため、IPCCの図に筆者がXからZまでの世代を加えたが、あくまでも年齢的な目安だと思ってほしい。
IPCCが示す今後の温暖化ガスの排出量の拡大予測は5段階(上図の上から下)に分かれている。しかし、どのシナリオでも2050年に向かっての気温の上昇は避けられず、合わせて気候変動は激しくなる。下位2つの排出量シナリオが「低い」、「たいへん低い」の場合だけ、2050年あたりから上昇が食い止められるとされる。
いわゆるX世代の1950年生まれは、現在ほぼ70歳である。20年後の90歳まで生きたとしても、気候の激変のリスクは若い世代に比べてかなり低い。問題は1990年代中盤以降に生まれたZ世代である。図の2020年生まれは、温暖化進行の真ん中で育ち、気候危機の影響を人生のすべてで受ける。場合によっては悪化の一途で、X世代の現在の年齢まで生物が安全に生きていける環境が残っているかどうかもわからない。
世代によって、将来は異なるのである。
さらに、現在の状況を創り出した原因は、ほぼXとY世代にあって、Z世代にはないと言って間違いない。
これを知って、若い世代が、“被害者意識”や“不公平感”を持つことに反論できるであろうか。

広がり続ける、脱炭素を求める若い世代の行動

切迫した危機感は、実際の行動へとつながっている。
2018年、たった一人の反乱として始まったスウェーデンの高校生グレタ・トゥーンベリさんの抗議行動はそのシンボルとして有名である。
続いて世界各地で起きたデモの主役も学生を中心とした若い世代であった。
2019年9月の国連気候行動サミット前には、世界統一気候ストライキが行われ、世界160カ国で合計400万人が参加した。同年9月20日のドイツのデモには環境課題では過去最大の140万人がデモをしたとされている。中心は若者であったこともよく知られている。

もちろん、その後の若い世代の活動は衰えていない。COPなどの国際会議が開かれるたびに、デモが起き、グレタさんなど若い世代が、激しい言葉で政治家や各国の首脳をののしる姿が報道されている。
前掲の国連の気候行動サミットでは、国連で各国のリーダーを前に、グレタさんはこう言い切った。「あなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり。恥ずかしくないのか!」。

現実に、政治や経済を動かし温暖化ガスを排出し続けてきたのは、明らかにX世代やY世代である。しかし、結果を被害として受けるのは、これからの世代であり、責任だけを押し付けられることになる。
2023年の気候危機を目の当たりにし、グレタさんの当時の怒りは、今もZ世代の声として悲痛に響く。「(対策は)あり得ない技術を使ってと言うばかりで、私たちや私たちの子供の世代に任せっきり。私たちは、結果とともに生きなければいけないのです」。

米国の同様の訴訟は、ハワイ、ユタ、バージニア州でも続き、オレゴン州では連邦での訴訟となって来年6月に公判が開かれる予定である。
比較的地味かもしれないが、日本でも声が上がり始めている。「脱炭素、Z世代」とネットで検索すると、企業も巻き込んだ多くの活動にヒットする。

つい先日の8月初旬、岩手県盛岡市役所が主催し、筆者が講師をつとめた、環境学習講座「脱炭素社会はなぜ必要か」には、高校生の姿も散見された。
また、最近の就職活動では、大学生が会社選択のキーワードに「脱炭素への企業の取り組み」を当てはめるのが珍しくないという。

繰り返すが、温暖化の原因を作り、そしてそれを放置している(少なくとも、そのように若者から見える)のは、我々、いわゆる現役世代である。つまり、責任はX世代、Y世代にある。特に、政治家や企業はその筆頭であろう。
脱炭素の義務がこちらの世代にあるのも必然となる。
何度も言うが、脱炭素社会は必須であり、待ったなしである。日本と世界の未来を担うZ世代に持続可能な地球を残す義務を重くとらえ、必ず、果たさなければならない。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。