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脱炭素特集

廃食油から国産材まで、国産原料で空を飛ぶSAF製造計画が過熱

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日揮HDらが立ち上げた廃食油の国内循環を促進する団体「Fry to Fly Project」のシンボル画像 ©Tatsuya Tanaka

脱炭素燃料であるSAF(持続可能な航空燃料)を国内の原料で製造しようという計画が過熱している。大手外食チェーンの「スシロー」などを運営するフード&ライフカンパニーズ(F&LC)は日揮ホールディングスなど3社と連携し、24年から店舗から出る廃食油を利用してSAFを製造する計画を発表した。同社は飲食店や家庭から廃食油を資源として回収するためのプロジェクト「Fry to Fly Project」も立ち上げた。一方、日本製紙は住友商事などと提携し、国産材を使ってSAFの原料になるバイオエタノールを、王子ホールディングスも同様に日本最大の社有林を使ってSAFの商用生産を計画する。政府は2030年に国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げており、国産SAF供給網の整備が急がれている。(環境ライター 箕輪弥生)

「天ぷら油で空を飛ぶ」時代が目前に

国際民間航空機関(ICAO)は国際線の航空機が排出するCO2を2050年までに実質ゼロとすることを提示しており、日本政府もまずは2030年に国内航空会社の燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標を掲げている。そのため、国内のSAF需要は、国土交通省によると2030年には約171万キロリットルまで拡大するとみられている。

SAFの原料には、食用油等の廃棄油脂や、農業や森林残渣(ざんさ)などのセルロース系、藻類、サトウキビなどの糖料作物、一般廃棄物などが想定されるが、ここにきて国内の食用油や木材を原料とした計画が相次いで発表されている。

大手外食チェーンのスシローを運営するフード&ライフカンパニーズ(F&LC)は、4月に店舗から年間に出る廃食油約90万リットルをSAF製造に活用すると発表した。スシローや居酒屋業態の「鮨酒肴 杉玉」の合計680店舗の調理で出た廃食油を利用する。大手外食チェーンでは初めての試みだ。

計画では、F&LCから供給された廃食油は、バイオ燃料専門の回収業者レボインターナショナル(京都市)が回収をし、日揮ホールディングス、コスモ石油などがSAFのサプライチェーン構築に向けてつくった合同会社サファイア・スカイ・エナジー(横浜市)が製造する。

2024年度中に大阪府堺市のコスモ石油製油所に建設している日本初の国産SAFの大規模プラントで製造を開始し、25年から国内の航空会社に供給することを目指している。

この計画でサプライチェーンの全体構築を行う日揮HDの西村勇毅・SAF事業ユニット プログラムマネージャー兼サファイア・スカイ・エナジー最高執行責任者は「原料となる廃食油の確保はサプライチェーンを構築する上で最も難易度が高い」と指摘する。

廃食油はこれまで国内で回収される油38万トンのうち、約10万トンが海外に輸出されてきた。

これについて西村氏は「現在、廃食油の輸出が急増しているのは廃食油が高値で海外に転売され、海外でSAFなどに加工されていることが理由」と分析し、「これは脱炭素の観点からも、経済的な観点からも本末転倒の状況であり、国内資源循環の重要性を廃食油の排出事業者や消費者に理解してもらい、廃食油の輸出を防いで、国内でのSAF製造を拡大していきたい」と話す。

世界的なSAFの需要の高まりにより、SAFの争奪戦が激しさを増し、廃食油の取引価格は、この1年あまりでおよそ3倍に高騰している。この価格高騰はこれまで廃食油を飼料として使っていた畜産農家の経営に大きな打撃を与えるなどの影響を引き起こしている。

このため、日揮HDは4月17日、飲食店や家庭から廃食油を資源として回収するためのプロジェクト「Fry to Fly Project」を、28の企業・自治体・団体と共に立ち上げた。

その理由を西村氏は「燃料使用量の10%をSAFに置き換える国の目標はチャレンジングであり、限られた企業だけでこの目標を達成することは難しい。業界を横断した関連企業で連携しながら、SAFの必要性を消費者や企業に理解してもらうことが必要だからだ」と説明する。

同プロジェクトでは、自治体との連携による廃食油のSAFへの活用に関する教育活動や飲食店での廃食油回収キャンペーンなど、きめ細かな活動を行う予定だ。

木材、藻類を原料にしたSAFも

2023年1月、政府専用機の運行には藻類を使ったSAF「サステオ」が使われた

一方、木質系の原料を使ったSAF製造計画にも動きが出てきている。

日本製紙は住友商事、バイオ化学企業「Green Earth Institute(GEI)」と提携し、2027年より国産木材を使って「SAF」の原料になるバイオエタノールを生産する計画を2月に発表した。原料には日本製紙の社有林から直接切り出した木材を中心に使い、年数万キロリットルの量産を目指す。

日本製紙は、木質チップから紙の原料となるパルプをつくる技術やパルプ工場を活用して、バイオリファイナリー(バイオマスを原料としてバイオ燃料や化学品を生産する技術や産業のこと)に展開する構想だ。

さらに、国内に約19万ヘクタールの社有林を保有する王子HDも同様に、木質由来のバイオエタノールのSAFへの活用を目指す。24年度までに年500キロリットルの生産規模を持つ試験設備を動かす予定だ。

このほか、ユーグレナが石垣島で培養する微細藻類ユーグレナ(和名ミドリムシ)から抽出した油脂と廃食油を使ってSAF「サステオ」を製造する。同社は他社に先駆けて2019年から製造実証プラントを稼働させ、「サステオ」は既にチャーター便などで実際の飛行にも使われている。2025年にはSAF商業プラントでの製造を計画している。

世界の航空業界でSAFの奪い合いが起こりつつある今、国産原料でのSAFの製造は喫緊の課題となっている。

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箕輪 弥生 (みのわ・やよい)

環境ライター・ジャーナリスト、NPO法人「そらべあ基金」理事。
東京の下町生まれ、立教大学卒。広告代理店を経てマーケティングプランナーとして独立。その後、持続可能なビジネスや社会の仕組み、生態系への関心がつのり環境分野へシフト。自然エネルギーや循環型ライフスタイルなどを中心に、幅広く環境関連の記事や書籍の執筆、編集を行う。著書に「地球のために今日から始めるエコシフト15」(文化出版局)「エネルギーシフトに向けて 節電・省エネの知恵123」「環境生活のススメ」(飛鳥新社)「LOHASで行こう!」(ソニーマガジンズ)ほか。自身も雨水や太陽熱、自然素材を使ったエコハウスに住む。

http://gogreen.hippy.jp/