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自然災害への耐久に優れ、木造伝統技術を応用したドーム型ハウスの可能性

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昨今の住宅建築は効率化・大量生産が図られ、住宅はコピーアンドペーストで容易に増産できるようになった。一方で今後、自然災害がさらに頻発することが予想され、こうした環境変化に適応しながら暮らすことの緊急性が高まっている。自然災害の発生を前提にして、一人ひとりが安全性・安定性の側面から生活環境としての住まいを考えていくことは重要だ。今回は愛媛県砥部町にあり、健康的で持続的な生活(ロハス・ライフ)を実現する、耐久性のある住宅建築として注目を集める「ドームハウス」を取材した。(井上美羽)

バックミンスター・フラーの思想とドームハウスのコンセプト

バックミンスター・フラー博士

ドームハウスは、米国の建築家であり思想家、発明家、数学者などさまざまな肩書きを持つバックミンスター・フラー(1895―1983)が1947年に最も軽く、最も強く、最も費用対効果の高い構造物として考案した正三角形の構造部材を組み合わせた構造物だ。フラーはエコロジー、全地球的思考、環境との共生、フリー・エネルギーなどを提唱し、地球を一個の限りある宇宙船に見立て「より少ない資源で、より多くの人々の生活を支える(More with Less)」という意識のもと、人類にその乗組員としての自覚を持つことを促したことで知られ、その思想や先見性が改めて脚光を浴びている。

例えば、2001年にはチリのトレス・デル・パイネ国立公園に、世界で初めて自然の恩恵を最大限に生かしたドームハウス型のサステナブルホテル「エコキャンプ・パタゴニア」が誕生した。また、米カリフォルニア州のジオシップ社は、2023年に向けてドームハウスビレッジ構想を計画しており、ドームハウスを通して脱炭素社会を目指すコミュニティがつくり出す新しい生活様式の可能性を見出している。

エコキャンプ・パタゴニア

日本においてもドームハウス型の建築は少しずつ広がりを見せている。中でも、愛媛県砥部町「夢の里とべ」にある国内初の木製住宅型ドームハウスは、フラーの思想に共鳴した、同県内のライフデザイン研究所と有限会社上弘、デザイン・ファームの3社が協働し実現に至った。プロジェクトは 2010 年に「ドームハウス愛媛」として始動し、 12 年経った現在、4棟の木製 ドームハウス住宅が並ぶ。

ライフデザイン研究所の加藤朋子氏は「ドームハウスはもともと私たち夫婦にとっての理想の住まいでした。13年ほど前に郊外で畑付き住居を探していたところ、もともと工業団地だったこの砥部の土地を偶然見つけました。ここにドームハウスを建てたいと構想していたときに、私たちの思いに共感してくれた、デザイン・ファーム設計事務所の越出匡人さんと木造建設業社「上弘」の弘島啓匡さんとご縁があり、プロジェクトが始まりました」と話す。

地元愛媛の間伐材を使用し、大工が木材の特徴を目利きしながら、組み木技術でつくり上げた「ドームハウス愛媛」のドームハウスは、最小限のコストで最大限の効果を得るサステナブルな住宅として、環境の変化に適応した未来の住宅のスタンダードとなる可能性をも秘めている。

ドームハウスが環境に配慮されている理由

太陽や風などの自然エネルギーを生かす技術や仕組みのことをパッシブソーラーシステムというが、ドームハウスはこうした自然エネルギーをうまく建築に取り入れたデザインになっている。さらに、強風や積雪、地震などの天災にも抵抗しうる強固な形状だ。つまり、環境との共生の点で優れたパッシブ構造と、安定・強固なジオデシック構造の両方を持つことがドームハウス最大の特徴だ。

建築は建物の使用時だけでなく建築部材の製造、施工、改修、廃棄などの各段階においてもエネルギーが消費される。したがって、エネルギーの総消費量は、製造から廃棄までの全期間で評価する必要があり、建物の一生という期間で評価することをライフサイクルアセスメントという。

つまり、長く住むことのできる家は、ライフサイクルアセスメントの観点からもエネルギー消費を減らし、CO2の排出を抑えることにもつながるエコハウスと言える。

1. 自然災害にも耐えうる強固なジオデシック構造

「ドームハウスに採用されているジオデシック構造は、最小の部材で、最大の強度を持つ構造です」とデザイン・ファームの越出氏は話す。

三角形は四角形よりも耐久性に優れており、外圧に対して強い抵抗があるため、三角形の集合体でできる球体構造は合理的だという。

ジオデシックドーム構造

2. 木造伝統技術を生かしたフレーム工法

木はコンクリートよりもCO2排出量が少ない点や、木の成長過程で吸収したCO2を固定できる点から、木造建築にすると世界全体のCO2の年間排出量が14〜31%も削減できるというイェール大学の研究結果もある。

また、伝統的な職人技法で作られた木造住宅の中には、長期に渡り使用されてきたものも多い。奈良県にある法隆寺は1400年間、地震と高い湿度の環境を耐えぬき現存する最古の木造建築物だ。

「ドームハウスのフレーム工法はこれまでアメリカのドームハウスメーカーからの輸入に頼っており、金属ジョイントによるフレーム工法を用いてきましたが、伸縮・柔軟性がないためどうしても隙間ができてしまいます」と弘島氏は説明する。

「私たちはこのフレーム工法に長年取り組んだ結果、木造伝統技術を応用した独自の工法を開発しました。切り込みを入れた木材同士をがっしりとつなぎ合わせる組み木の知恵を生かすことで、金属ジョイントを用いずにフレームを作り上げることを可能にしました。細かなカーブや木目を見極めながらフレームを作るこの工法は、日本の大工職人の技術なしでは実現し得ないのです」

地元大工が木のカーブを見ながら手作業でフレームをはめていく
木製のフレーム工法

3. 地産地消の木材とCLT

鉄とコンクリートから木材への切り替えが環境に良いというためには、2つの条件があるとイェール大学の環境科学者、ガリーナ・チャーキナ氏は2020年に発表した論文で指摘している。

「ひとつは、木材を搬出できる森林が持続可能な管理をされていることです。もうひとつは、森林から都市部へと移動するCO2と都市部の木造建築に貯留されるCO2が、建物の解体後に何らかのかたちで大気中に排出されずに保存されることです」

「ドームハウス愛媛」のドームハウスは、その二つの条件を満たしている。すなわち、地元の杉材と間伐材を多用し、床には愛媛県産の無垢の杉板を用いている。これにより森や山々の環境保全を促進し、森林の適切な管理にも力を入れ、地産地消による地域経済の活性化にも貢献している。

また、4棟中最新の1棟は、CLT(直交集成板)と呼ばれる木材を使用。これは、1990年代にオーストリアに登場した新たな木材であるが、居住する場所の建設が気候に与える影響を減らす手段として世界で再注目を集めており、その強度と耐久性から「新しい木のコンクリート」といわれている。

CLT(直交集成板)と呼ばれる木材で仕上げるとフレームも不要になる

4. 最小限の資材とコストで建築過程のCO2を最小限に抑える

球体は、動物の卵や巣に見られるように最も小さな表面積で同じ体積の空間を覆うことができる最も効率の良い立体であり、より少ない建材でより広い空間を囲むことができる。驚くべきことに、この建築はわずか1週間ででき上がってしまうという。

5. 効率的な空気循環

ドーム内の空気の流れは連続的で無駄な壁や敷居がないため、空気やエネルギーが妨げられることなく循環する。したがって温度を均一に保つために必要なエネルギーは最小限に抑えられる。また、建物の外周部と囲われた居住部の比率が低いほど建築、冷暖房に必要なエネルギーは少なくなる。

ドームハウス室内の様子

ハウスメーカーの台頭により国内の工務店が年々減少傾向にある中で、大工職人は減ってきているのが現状だ。気候変動への適応策が求められる中、今後は日本の伝統大工の腕に蓄積された持続可能な技術を守りながら、ドームハウスに見られるような新しいデザインを織り込み、未来に生きる住宅を開拓していく必要があるだろう。

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井上美羽 (いのうえ・みう)

埼玉と愛媛の2拠点生活を送るフリーライター。都会より田舎派。学生時代のオランダでの留学を経て環境とビジネスの両立の可能性を感じる。現在はサステイナブル・レストラン協会の活動に携わりながら、食を中心としたサステナブルな取り組みや人を発信している。