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特集:脱炭素

人口減少でも持続可能な社会 地域を変えるまちづくりの「構想」

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北村 和也

Sean Pavone

政府の国勢調査によると、2021年11月1日時点の日本の人口は1億2507万人で、一昨年の同時期よりおよそ60万人減った。また、昨年の年間出生数はおよそ80万人と過去最低を更新していて、人口の右肩下がりは当分続く。日本はまさに人口減少社会の真っただ中を走っているのである。

今回は、人口が減ることと、持続可能であることが並び立つかという話を、地域の視点から考える。結論は、「両立する」である。しかし、そのためには、まちづくりの構想が必要であり、そこではエネルギーも重要な役割の一端を担うことになる。人口減少という避けられない事態をきっかけに、もう一度、持続可能の意味を地域から捉えなおしてみたい。

私たちは、「目的」を見誤っていないか

持続可能と言えば、喫緊の課題は脱炭素であることに異論はないだろう。

筆者は、地域における再生可能エネルギーの利活用と企業などの脱炭素化のサポートなどを主たる仕事としているが、最近、いくつか見落としをしていたことに気づいた。一つはアドバイスの先にある真の目的である。

企業向けの脱炭素セミナーの冒頭で、私は、よく「脱炭素に取り組まない企業に将来はない」と危機感を煽る。しかし、続けて、「脱炭素の目的は、企業存続ではなく温暖化防止であり、地球を持続可能にすることだ」と釘を刺し、目的(温暖化防止)と手段(脱炭素)を混同してはならないと偉そうに語ることが多い。

これはこれで、間違いと言い切る必要はないが、実際の地域やそこで暮らす人々の立場から考えると、持続可能に込められた願いは少し違ってくる。それは、ネガティブなことが起きないという消極的なものというより、将来に渡って安心して暮らせるというポジティブなことである。つまり、地域や住民にとっては、温暖化防止でさえも最終目的ではなく、ひとりひとりの幸せな暮らしこそが、その先のゴールとなるのである。それにやっと気づいた。

企業は、つい自分たちの生き残りを最優先に設定し、地元は、例えば再生エネを金銭的な誘導ばかりに結び付けたがる傾向がある。そこに留まっていると、技術的な対策ばかりが欲しくなり本来の目的を見失う。例えば、お題目のように繰り返される“脱炭素のための再生エネ拡大”であるが、その実行過程で忘れがちなのが、最終的な目的=地域とそこに住む人たちの幸せ、である。本来の目的をしっかり持っていれば、間違っても大規模な森林伐採による危険なメガソーラー建設などの発想は浮かぶことはない。

脱炭素や再生エネの拡大は、地域と人々の幸せにつながって初めて意味を持つと考えるべきである。逆に、地域の目的や望みに沿う実施方法をとらなければ実現にはたどり着かないのである。

持続可能な地域と人口規模は無関係

もう一つの私の見落としは人口減少についてであり、人口が減ることを殊更に悪としか見ていなかったことである。住人が少なくなり、まち(都市を感じる「街」から小さな「町」までを合わせて「まち」と表現)に活気がなくなる。確かに悲しいことに映る。しかし、少し考えれば、まちの元気は、絶対数としての人口規模で決まるわけではないことがわかる。今、地方が抱える、空洞化やシャッター街化などの現象は、必ずしも人口の少ない街だけで起きていることではない。県庁所在地であっても同じ悩みを抱える都市は少なくない。

逆の例を紹介しよう。私は20年ほど前にドイツに2年間住み、その後もたびたび訪れる機会がある。ドイツのほとんどの町や都市の中心には広場があり、その周りを市役所や商店が取り囲んでいる。特に週末には人が集まって、買い物をしたり、散歩をしたり、お茶を飲んだりとゆっくり時間を過ごすことを楽しむ。そのために多くで広場への自動車の乗り入れを禁じている。私が住んでいた1万人程度の町でも同様な生活パターンであった。もっと小規模の町では家の屋根の色をそろえたり、窓辺に花の鉢植えを置くことを義務付けたりと小さな統一感で生活を豊かにする工夫をしているところもある。

つまり、人々が暮らすまちどんな形に作るのかという設計次第で、まちの活気はいくらでも生み出せる可能性がある。

私は、人口減少が悪いこと=人口を増やす策が重要、とばかり考えていて、実際に暮らしていたり訪れたりしていたドイツのまちのことを、情けないことにすっかり忘れていた。必要なのは、人々が暮らすまちの基本構想とそれをどう設計するかの「まちづくり」である。

構想で大きく変わるまちの未来

最近、脱炭素や再生エネの拡大の目的にこだわるようになったのは、ある本の影響による。『人口減少社会のデザイン』広井良典(2019年:東洋経済新報社)という書籍で、著者の広井氏は、厚生省勤務ののち、現在、京都大学こころの未來研究センターで教授職にある。

本では、日本が人口減少社会下でどんなグランドデザインを描くべきかを提案している。その重要なキーワードが「地域分散型」や「コミュニティ」、「まちづくり」である。これらの言葉は、使い古されたように感じるかもしれないが、多くのデータや実例を用いることで、気づかされることが山ほどあった。そこでは、地域から見た目的の設定とそれに合致した「まちづくりの」手段や方法の重要性が語られている。

ぜひ紹介しておきたいある内容がある。地方のシャッター街の原因についてである。多くの地方都市で起きているのは、大型ショッピングモールの進出とシャッター通りの組み合わせだが、広井氏は、その原因は「人口減少」自体ではなく「政策や社会構想」にあるという。驚いたのは、この“悲しい結果”は、郊外ショッピングモールの拡散を目指すアメリカ型を取り入れた日本の政策のむしろ“成功”だと書く。

同じような経済や人口規模、気候や風土のもとであっても、このように構想とデザインによって、まちの姿は大きく変わってしまうのである。

地域に求められる新しいグランドデザイン

今回のコラムでは、目的にあえて「幸せ」という言葉を多用した。脱炭素や再生エネを論じると、すぐに1.5度、46%減からはじまってGW(ギガワット)などと数字や専門用語が並ぶ。一方で、ある土地で長く安心して暮らしたいと願うことは、「幸せな生活」という抽象的な一言で言いかえることが可能である。

広井氏は、人口減少社会を持続可能に生きるための「解」は、地方分散型にあると説く。それは、健康や幸せを暮らしの中で実現させることとイコールであり、それぞれの地域で多様な形のやり方があってよいであろう。また、同じ分散型の再生エネがツールとして生かせる場でもある。

そう考えると、SDGsの17のゴールひとつひとつは、よくできた目標である。

しかし、SDGsは単なるお題目ではダメで、実行されることが何よりも重要である。ゴールの番号を並べ17色のバッジをつけるだけの、なんちゃってSDGs=SDGsウォッシュが最近は横行していると、ファッション誌でさえ指摘しているのを読んだ。

目的を忘れ、形だけで地に足が着かない行動に、人々はうんざりし始めているのかもしれない。

人口減少の危機を、地域活性化のきっかけに

前回のコラムで、岩手県の小都市で活動する自治体新電力取り上げた。地域を守る強い意志が事業のベースとなり、総合計画のメインテーマに「幸福」を置く岩手県の目的にも結果として呼応していると書いた。

モノサシは郷土愛や幸せと抽象的だが、地元の水力発電の地産地消利用や自前の再生エネ拡大策はしっかりとした現実の行動である。

今、このまちでは、市と自治体新電力が共同歩調をとり、国が募集する「脱炭素先行地域」へのアイディアを練っている。私も微力ながらお手伝いをさせてもらっている。買い物や病院などのアクセスや災害時の対応などの地域課題を、新しい再生エネ発電設備の拡大と組み合わせどう解決できるか、具体的に検討を始めた。可能であれば、市民がゆったり集う新しい場所が作れないかとも考えている。

目的と行動の一致は、地方で確実に始まっている。

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北村和也 (きたむら・かずや)

日本再生可能エネルギー総合研究所代表、日本再生エネリンク代表取締役
民放テレビ局で報道取材、環境関連番組などを制作した後、1998年にドイツに留学。帰国後、バイオマス関係のベンチャービジネスなどに携わる。2011年に日本再生可能エネルギー総合研究所、2013年に日本再生エネリンクを設立。2019年、地域活性エネルギーリンク協議会の代表理事に就任。エネルギージャーナリストとして講演や執筆、エネルギー関係のテレビ番組の構成、制作を手がけ、再生エネ普及のための情報収集と発信を行う。また再生エネや脱炭素化に関する民間企業へのコンサルティングや自治体のアドバイザーとなるほか、地域や自治体新電力の設立や事業支援など地域活性化のサポートを行う。