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塾経営からトマト農家に 京都・福知山で人と地域を育む農業を営む

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小林ふぁ〜む「とまとのじゅ〜す」は現在、京都高島屋や高島屋オンライン他で販売されている。180ml入りが800円(税抜)。とまとのぺ〜すとやプレミアム版などの新商品も完成した

2015年から農業生活をスタートさせ、3年で「とまとのじゅ〜す」を商品化し、有名百貨店などに卸すに至った小林加奈子さん。それまでの塾経営から、まさに畑違いの仕事に挑戦し、今では“かなこ農法”をフランチャイズ化し、農業女子グループ「のら×たん ゆらジェンヌ」を発足。日本の食料問題と地方創生を、女性の活躍で解消するアイコンとして注目されている。農業素人ゆえの「常識は関係ない」という大胆さと、「もったいない」をなんとかしたいという思いで挑んできた日々を取材した。(岩見奈津代)

塾の経営者からトマト農家に

加奈子さんは大学時代、北海道で大好きな豚の飼育などを学んでいた。就職先は選びたい放題だったバブル時期にもかかわらず、いきなり独立して塾経営をスタート。というのも、「学生時代から塾のバイトなどで子どもたちに勉強を教えていた経験から、地元大阪でも教えてほしい」と頼まれたからだという。

進学塾というよりは、寺子屋のような雰囲気でさまざまな子どもたちと向き合い続けて20年以上。大阪で橋下徹元府知事が教育改革に着手し、学区制廃止を決めたり塾業界が慌ただしくなってきたタイミング。「母方の祖母が亡くなり、大好きだった実家を継ぐ者がいないということが気になり始めたんです。大学時代から念願だったミニブタ(こじろおさん)をペットとして飼い始めたこともあり、田舎でのんびりと農業をしながら暮らす人生の後半戦も、悪くないんじゃない?」と思うように。まずは週末農園から始めた。

同時に「夫には私がお金を出すから、農業塾へ通って」とお願いし、もし夫の伸輔さんが反対したらあきらめるつもりだったという。伸輔さんが乗り気になったことで移住計画が進み、塾は在籍する子どもたちが卒業するまでしっかり見送って閉塾したのだそう。

ミニブタのこじろおさん。小林ふぁ〜むのロゴマークにも描かれている

祖母の農園でトマト栽培をするのは運命!?

農業暮らしは中心となる稲作を伸輔さんが担当し、加奈子さんは畑で自由に多品種栽培をしていた。ある時、トマト農園の誘いを受けたのは、何かしら運命的なものを感じる。実は、加奈子さんは赤ちゃんの時、祖母が作っていたトマトの離乳食が好物だったのだそう。「祖母の畑でトマトを作ることには意味がありそう」と感じたのもうなずける。

「初めての農業体験だから、他の人が言う常識は関係なかった。実は有機栽培にこだわったのではなく、農薬を撒くことが面倒くさかったから」と加奈子さんは笑う。農薬を使うとブタや遊びに来た子どもたちが食べるときに気を遣う。無農薬でも、量は減ったり形が多少悪くてもしっかり作ることはできる。だったら問題ないという考えで、最初から大量生産を考えず、おいしいトマトを作ることに集中した。

農業スタートに賛成してくれた伸輔さん。工学部出身で稲作を担当する伸輔さんは、現在スマート農業化に向けて邁進している 

美味しいのに売れないトマトをどうにかしたい!!

加奈子さんがこだわったのは本当においしい完熟トマトの収穫だ。ただ、そうなると収穫期間は限られる。結果、売り物にできない山積みのトマトが残ってしまった。「味はおいしいのに売ることができないトマトたちを見て、もったいない、なんとかしたいと思ったんです。当初、加工食品には一切興味がなかったんですが、試しに作ってみることにしました」。そんな思いから、試作品の「とまとのじゅ〜す」は誕生した。

「商品化するつもりはなく、捨てちゃうくらいなら、誰かに飲んでもらえたら嬉しいし、万が一買ってもらえたらラッキー!ぐらいの感覚だった」のだそう。ところが、出来上がった「とまとのじゅ〜す」はおいしいと評判に。しかし実際に250円で売り出しても全く売れなかったという。

それでも、試飲してくれた人たちの声に支えられて、2018年に「とまとのじゅ〜す」の商品化を進めた。

2019年度はプレミアム版「とまとのじゅ〜す 輝」を開発。朝採れたてのトマトを生のままジュースに。完熟シーズンだけ、年に1日か2日限定のレアな商品。「本当にトマトの味がする、私が最高においしいと思えるトマトのジュースです」と加奈子さんは言う

自然災害で商談会に持っていくトマトが収穫できない!

加奈子さんは商談会に参加する準備のため、畑を拡大させてトマト栽培を増やし、商品のパッケージデザインを進めた。そんな矢先に、まさかの台風による集中豪雨でトマト農園が壊滅状態に。商品がほとんど作れなくなってしまった。仕方なくサンプル品だけを持って参加するも、多くのバイヤーなどから高い評価をもらうことができた。

そして運命の商談会が京都で行われた。多くの百貨店などが参加する中、たまたま通りかかった高島屋のバイヤーに試飲だけしてもらったところ、その場で椅子に座り、「来年度から商品を売りたい」と即決で申し出があったのだ。販売価格は800円。以前250円でも売れなかった商品が、売り場を変えた途端に価値が変わってしまったのだ。今年度はサンプルで作った商品を全て店頭に並べてもらうことになり、翌年からは本腰を入れて商品を流通させることが決まった瞬間だ。

フランチャイズオーナーやサポーターの方たちと一緒に。たくさんのおいしいトマト作りが安定的にできているのは多くの人たちのおかげ

第7回京都女性起業家賞で近畿経済産業局長賞を受賞

同時進行で、加奈子さんは女性向けのビジコン(京都女性起業家コンテスト)に参加をしていた。そこで、福知山トマトを全国へ広める取り組みが認められ、近畿経済産業局長賞を受賞。実は伸輔さんや周囲にも内緒で参加していたのだそう。加奈子さんは、塾経営はしてきたものの、このビジコンに参加したことで、ビジネスについて改めて学び直すことができた。その際に、指摘された“リスクヘッジ”について考えたことで、フランチャイズ方式という新たな手法につながったのだという。「自分だけでトマト栽培を拡大することは不可能。そこで同じトマト栽培の方法を他の人たちに教えることで、大量の同品質のトマト栽培を可能にすることを考えた」。仲間との話の中で、「それってフランチャイズ方式みたいだね」と気づき、採用した。

また、2018年は会社も法人化したのだが、社長は加奈子さんだ。当初、伸輔さんに矢面に立ってもらい、自分は好きに畑をやっているつもりだった加奈子さんがなぜ? 

「女社長の方が面白いからってこともあります。でも、夫が社長になると、どうしても拡大路線に舵を切りたくなってしまうけど、あくまでも祖母の農園で大切にしたいこだわりを守るためには、私が社長になるほうがいいという話になったんです」

トマト以外でもさまざまな野菜を栽培しているのは、加奈子さんの楽しみ。季節的にかぼちゃが大量に作られていた

周りに頼ること、パートナーシップの素晴らしさ

周りに頼って巻き込んで進めていたように聞こえるが、実は加奈子さんは「自分の力でやるほうが早いし楽」と思うタイプだったそう。塾時代もほぼ自分だけでやっていたのは、気楽だったから。そんな思いに変化が出てきたのは、とにかく走り出してから。

「例えば写真はプロのカメラマンにお願いすると、仕上がりが全く違うんです。どんどん忙しくなって、やることが増えて大きくなっていく中で、自分一人でできることには限界があることに気がつくようになりました。最初はフランチャイズ農家の方に任せるのも不安で、自分でもしっかり作らなくちゃ!なんて思っていたけど、気づいたらとても上手においしいトマトを作ってくれるようになっていて。みんなにもっと頑張ってもらうことで、私は別のことをすればいい、と思えるようになったんです」

そんな加奈子さんは、すでに次のステージに向かっていると言う。

京都北部の農業女子グループ「のら×たん ゆらジェンヌ」のみなさんと。マルシェをやったりラジオをやったり、仲間たちと一緒に大活躍している

次世代に引き継ぐ

2015年に農業を始めた加奈子さんの人生は、たった5年で激変した。ビジコンで賞を受賞し、とまとのじゅ〜すが話題になったことで、周りから地域創生や変革の担い手としての立場を求められるようになった。

2020年には京都府指導農業士の認定を受け、指導者としての活動をしながら、女性活躍推進の一環として、農業女子コミュニティを作ってラジオ放送も行っている。農業に女性の参画を加速させて活性化させるための活動だ。

2025年には大阪万博もある。「万博のチャンスをうまくつかんで、農業や地元をさらに盛り上げていきたい」と加奈子さんは語る。

また、「フランチャイズに参加してくれる人たちは、コミュニケーションが苦手な人や障がい者、子育てなどの生活の変化から新しいことを始めたい女性たちなどがいます。そんな人たちが社会に参加できるきっかけを、小林ふぁ〜むで作れたらいいと思うようになりました」。彼らが本当に自分でやりたいことを見つけるまで、安心して働ける場を作るのが目標だ。

「でも彼らには、数年後には小林ふぁ〜むから卒業してもらいたいんです。本当に自分が農業で実現したいことを始められるためのステップになったらいいかな、って」

「自分が祖母の土地を受け継いだように、自分も次の世代(農業女子やフランチャイズオーナー)へ農業による喜びや自分らしい生き方を引き継げるようにしたい」。そんなサステナブルな生き方を、農業を通して実現していく、それが加奈子さんの今の人生の目標だ。

現在、加奈子さんはミニブタのこじろおさん以外に、ヤギや大型犬、たくさんの鶏たちと住んでいる。寝るときはこじろおさんが布団にやってくる、完全同居ハウスだ

小林ふぁ~む
京都府福知山市字上小田175番地
https://cobafarm.net/

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岩見奈津代 (いわみ・なつよ)

言語化プロデューサー。長年、女性雑誌の編集に携わり、編集長や新事業開発を経て、ダイバーシティや経営戦略を担当。独立後は「人々が自分の想いを言語化できるようになれば、世界は理解と優しさが広がる」と信じて活動している。“自分にできる暮らしの中のSDGs活動”として生ごみ処理や自然エネルギー利用を実践中。